秘密の花園で会いましょう【完結】

Lynx🐈‍⬛

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「今度の週末、出掛けたいんだが」

 美香は拓真に言われた週の始めの月曜日。

「はい、どうぞ行って来て下さい」
「いや、お前もだよ」
「デートですか?久しぶりですねぇ……何処に行くか、決めてるんですか?」
「あぁ、泊まりにするから、着替えも準備宜しく」
「はい、楽しみにしてますね」

 金曜の仕事を終わってから、帰宅せずに泊まると言うので、金曜日に出勤した時の荷物の多さに、広報部の先輩社員達は、気付かぬ振りをしてくれていた。

「そろそろ株主総会ねぇ……社長、辞任したら体制変わっちゃうよね、きっと」
「常務が社長就任だっけ」

 先送りになっていた美香の義父の辞任日が決定していた。それが、翌週だった。

「纐纈さんは社長が辞任した後、如何されるか知ってるの?」
「いえ、聞いてません………一緒に今住んでませんし」
「1人暮らし?」
「野暮な質問しないの。纐纈さんは彼氏と同棲中」
「あ、海外事業部の笹島さんとか」
「は、はい………」
「良いなぁ………笹島さん、仕事出来るって話聞いてるし、そのまま笹島さんは出世コース乗るでしょ?社長が役員に残らなくたって、将来安泰よね」
「…………ま、まだ結婚するとは限らないかと……」

 美香が拓真と住んでいるのは、精神的な支えからの一時的だと、美香は思っていたい。将来的な話は、全く2人はしていないのだ。付き合っているのだから、その後も考えてはいるが、自分からは聞けないでいた。

「プロポーズされてないの?同棲もしていて、纐纈さんのお父さんは現社長なんだし、笹島さんと付き合って、同棲している事ぐらい知ってるよね」
「はい………知ってます」
「ほらぁ………家族公認なんだから、近々結婚、てのも………」
「社長就任するから後は宜しく!て言われたりして」

 面白い他人の恋愛話は盛り上がるものだ。

「言わないですよ、義父は……仕事しましょ!仕事!」
「いけない!経理に行かなきゃならなかったんだ、私」
「私、書類送付するんだった!」

 広報部も忙しい事には変わりなく、ちょっとした時間ロスはミスにもなる。

「纐纈さん、この英文なんだけど」
「あ、はい………おかしな所ありましたか?」
「ううん、ロスに行ってる営業から気に入ったから、また宜しく、て」
「本当ですか?嬉しい」

 広報部は、日本語を英文にする書類を作成する事も多く、海外事業部の社員と組む事も多い。美香は拓真とはまだ組んだ事はないが、いつかは拓真と仕事が出来る事を願っていた。

「何か嬉しい事でもあったのか?」
「そう見えます?………ロスに出張中の社員から、褒められたんですよ………私、いつか拓真さんと仕事してみたいです」
「そうだな………俺は海外出張にはまだ同行もしてない、出張組のフォローに回ってるが、メインで動けたら組みたいな」
「はい」

 この日は、車で出勤していた美香と拓真。コインパーキングに駐車していたので、車上荒らしを懸念し、旅行鞄は置いては置けず、数日分の必要な荷物をまた車に乗せた。

「宿泊先のホテルで飯食って、明日の昼頃に目的地に行って、夜東京に帰って来るが、日曜も行きたい所あるから」
「…………なかなかアバウトなタイムスケジュールですね」
「そうか?端折っただけで、ちゃんと時間も決めて動くぞ」
「内緒なんですか?その目的地」
「あぁ、内緒…………今日中に分かるから」
「楽しみにしてます」
「…………」

 シートベルトを締め、車を発進させると、拓真は横浜方面へと走らせた。

「…………横浜ですか?」
「そう、俺の育った街」
「…………中華街行きます?」
「行きたかったか?時間あったら行けるだろうが、ホテルのチェックアウト次第だな」
「目的地が中華街じゃない、て事ですね………」

 何だかクイズみたいで、美香はあれこれと詮索を始めた。

「当たっても、何も賞品は出ないぞ?」
「え?賞品目当てな訳じゃ………横浜に行くの久しぶりなので、私」
「そうなのか?まぁ、俺もなんだけどな……仕事では行くがプライベートではなかなか帰らないから」
「拓真さんも久しぶりなんですね………そういえば、拓真さんお正月やお盆、帰省しなかったですね」
「帰った所で、会いたい人居ないからな………高校卒業後からずっと東京に住んでるし」

 横浜に入ると、海沿いのホテルへと到着した。

「海が近いですね、匂いが違う」
「泊まる部屋から、海は見えると思う………荷物を置いて、レストランに入ろう。今夜は海鮮鉄板焼きを食えるぞ」
「豪勢ですね、何かお祝い的な感じなんですか?あ、今日割り勘にして下さいね」
「……………お前は俺に奢られたい、て思わないのか?毎回毎回、デートは割り勘にしろ、と………」
「だって、こっそり拓真さん、会計済ましちゃうんだもの、たまには私にも奢らせて下さい、て言っても払わせてくれないから……」
「今日は絶対に払わせない!荷物貸せ、持っててやる」
「え!良いですよ、自分で持………あ……ありがとうございます……」

 美香の甘え下手は相変わらずで、全く慣れないでいるので、拓真に荷物を奪われる。
 そして、荷物を持っていた手を繋いだ。

「手も繋げないのか?俺達」
「い、いえ………繋ぎたいです」
「よし」

 初めて手を繋ぐ訳でもないのに、美香は照れてしまった。特別感があるデートの様に感じるのは勘違いなのだろうか、とドギマギしていた。
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