12 / 48
11
「奥様、お茶のおかわりは如何ですか?」
「……………要らないです」
ずっと、部屋から出られないのは気が滅入ってしまい、読書も飽きてしまったエルシア。
少しでも外の景色を見て、気を紛れさせているが、窓は開かないので、風を感じる事も出来なかった。
締め切る部屋では、湿度が篭もるので、小窓は開いてはいるが、エルシアの身体を通り抜ける様な大きさでも無いので、余計に外の空気が恋しい。
「失礼致します。奥様にロズブローク侯爵より手紙を預かって参りました」
「っ!…………お父様!」
エルシアは山賊に襲われた日の、3日前から領地を出た為、それ以降父親にも会えてはいない。
心配をしているだろう、とは思っていたが、所在の分からない場所で、味方も居ないこのヴィンザード公爵家の従者達には、手紙1枚も出すのも気を許せなかったので行動が出来なかった。
しかし、ロズブローク侯爵からの手紙が来たという事は、父はエルシアが居る場所を知っているという事。
グリファードがロズブローク侯爵家には連絡をしていた、とエルシアには話ていたが、興奮状態だったエルシアはその事を忘れてしまっていた。
ヴィンザード公爵家の家令、スチュアートが手紙を文箱に入れ、大事そうに扱う姿で、扉の前で立っている。
「先に申し上げておきますが、警備上先に確認してございます。ご主人様は敵が多い方なので、偽りの手紙もあり、警戒をなさっておりますから」
「公爵閣下はわたくしの父も信用していないのですか!」
「いえ、そういう事ではございません。手紙はご主人様宛に出された物。奥様宛の文面だけお持ちしたのです。内容を奥様にお伝えする事ではない内容でしたし」
スチュアートが言うには、エルシア宛に手紙を送れば、場所が特定されやすくなるからだという。
ヴィンザード公爵宛に連絡する手段は、二重三重の経由を通って来るのだと説明された。
「お父様は知っていて、わたくしは知らなくて良い内容なんて何なのです」
「政治的問題でございます。ご主人様は奥様にはきな臭い事柄や闇深い部分を知らずに、心穏やかに過ごして欲しい、と常に私達従者に話しておりますので」
「……………それが、部屋から出れない事なのだとしたら、心穏やかになんて過ごせません。毎日毎日、明け方迄わたくしを性欲が切れる迄貪って、わたくしは部屋からも出しては下さらない…………こんなのは監禁ですわ!仮にも領主の妻にしたのだから、領地の管理ぐらいの仕事ぐらい、妻の仕事となるでしょう?やりたくはないですが、そういう事もさせませんの?」
エルシアは自分でも矛盾した事を言っているとは思っている。
不本意な結婚をさせられて、妻の義務を強要される訳でもなく、何もさせない日々。あるとすれば、子作り行為だけだ。
「もう暫しの辛抱を願います。今は時期が悪いのです。奥様をお守りするには、ひっそりと静かに此方で過ごして貰うしか方法が無かったのです」
「一体、此処は何処なんですか?ヴィンザード公爵領?それとも王都なの?」
「……………王都とだけ申し上げておきます。ヴィンザード公爵領はウォーレス侯爵領の隣で、奥様をウォーレス侯爵に奪われる訳にはいかないですから」
「嫉妬するにも程があるわ!わたくしはウォーレス侯爵の婚約者だったの!結婚したかったのはウォーレス侯爵で、ヴィンザード公爵ではないわ!今直ぐ離縁させてくれ、と伝えて下さい!わたくし、ウォーレス侯爵領に行きたいの!」
汚された身体のエルシアを今更、ヴァシムが必要とするかは分からない。
拒否されたら、修道院に篭もるだけで良い。グリファードと一生共にする気なんて無いのだから、とエルシアはスチュアートに訴えた。
「ご主人様は離縁に応じませんよ。この私の生命を掛けても良いぐらい、ご主人様は奥様を愛していらっしゃいますので…………もし、父君に返信をされるのであれば、内容は確認は致しますが、支障無い文面でしたら返信致します」
「……………読んでから返事を書きます………本当に何なのかしら、あの方………仮面の下を頑なに見せようとはしないし、自分の事は何も話さない…………」
エルシアは、思わず口に出して、グリファードへの小言を漏らした。
一句一行動、エルシアは全てグリファードに伝わるというのに。
「仮面を着けられておられるのは理由があるのです。ご興味があるならお話致しますよ」
「……………理由?」
「はい、聞かれますか?」
「一応…………知りたかった事だから………」
「……………幼い頃に負った火傷を隠す為なのです。その痕を見せれば、皆が恐がるから、と。目立つ顔立ちの方なので、仮面で和らいで居られるだけですよ。閨中、奥様にも顔を隠すのはそういう意味です」
「火傷…………そうですか………それなら見れなくて良かったわ…………同情してしまいそうだもの」
スチュアートに背を向け、エルシアは手紙に目を通したが、仮面の事を聞かなければ良かったと、もう後悔していた。
火傷の痕を隠さなければならない程酷いなら、辛かっただろう、痛かっただろう、と考えてしまう。
手紙を開いて目を通しても、エルシアは暫く何もその手紙の内容を理解出来なかった。
あなたにおすすめの小説
【完結】帳簿係の地味令嬢、商会の不正を見抜いて王宮に見出されました。
夏灯みかん
恋愛
王都の商工会議所で働く、地味な帳簿係エミリー。
真面目に記録をつけることだけが取り柄の彼女は、同僚から軽く扱われ、雑用を押しつけられる日々を送っていた。
そんなある日――エミリーは、孤児院への配給物資の記録に、わずかな“ズレ”があることに気づく。
数量は合っている。
だが、なぜか中身の重量だけが減っている。
違和感を覚えたエミリーは、自ら倉庫へ足を運び、現物を確認する。
そこで見つけたのは、帳簿では見えない“静かな不正”だった。
しかしその矢先――不正の責任を押しつけられ、職場から追い出されそうになってしまう。
それでもエミリーは諦めない。ただ一つ、自分が積み上げてきた“記録”を信じて。
「では、正式な監査をお願いいたします」
やがてその記録は、王宮の政務監査官リオンの目に留まり――
隠されていた不正はすべて暴かれる。
そして、彼女を軽んじていた者たちは、その代償を支払うことになる。
これは、地味で目立たなかった一人の帳簿係が、
“正しく記録した”ことで不正を暴き、王宮に見出されるまでの物語。
兄妹じゃないとわかったのでお兄様と結婚したら、全部仕込みでした
こじまき
恋愛
【20260401読みやすいように話を分割しました】
伯爵令嬢ヘイゼルは、兄アリステアに恋をしている。叶わないと知りながら、それでも諦めきれなかった。
しかし子ども時代の「取り違え」が発覚し、子爵令嬢ロレッタとして“正しい場所”で生き直すことに。
そして妹ではなくなった彼女に、アリステアは求婚する。
運命のねじれは正されて、望んだとおりに最愛の人と結ばれた――
けれど――その「正しい運命」は、兄アリステアによって用意されたものだった――
※「小説家になろう」にも投稿しています。
悪役令嬢にされたので婚約破棄を受け入れたら、なぜか全員困っています
かきんとう
恋愛
王城の大広間は、いつも以上に華やいでいた。
磨き上げられた床は燭台の光を反射し、色とりどりのドレスが揺れるたびに、まるで花畑が動いているかのように見える。貴族たちの笑い声、楽団の優雅な旋律、そして、ひそやかな噂話が、空気を満たしていた。
その中心に、私は立っていた。
――今日、この瞬間のために。
「エレノア・フォン・リーベルト嬢」
高らかに呼ばれた私の名に、ざわめきがぴたりと止む。
妹に初恋を奪われ追放された王女、私を捨てた騎士がなぜか二度恋してきます〜迷宮の通信機で再会したら執着が重すぎる〜
唯崎りいち
恋愛
妹を刺した――。
身に覚えのない罪で、迷宮へ捨てられた王女の私。
絶望の中で拾ったのは、スマホに似た『未知の魔導具』だった。
繋がった相手は、見知らぬ「名もなき騎士」。
孤独を癒やしてくれる彼に、私は正体を知らないまま惹かれていく。
「君のためなら、国にだって逆らう」
けれど、再会した彼の正体は……?
「国だって滅ぼす。それくらいの覚悟でここに来たんだ」
通信機から始まる、二度目の初恋と逆転ざまぁ。
ワケあってこっそり歩いていた王宮で愛妾にされました。
しゃーりん
恋愛
ルーチェは夫を亡くして実家に戻り、気持ち的に肩身の狭い思いをしていた。
そこに、王宮から仕事を依頼したいと言われ、実家から出られるのであればと安易に引き受けてしまった。
王宮を訪れたルーチェに指示された仕事とは、第二王子殿下の閨教育だった。
断りきれず、ルーチェは一度限りという条件で了承することになった。
閨教育の夜、第二王子殿下のもとへ向かう途中のルーチェを連れ去ったのは王太子殿下で……
ルーチェを逃がさないように愛妾にした王太子殿下のお話です。
私の意地悪な旦那様
柴咲もも
恋愛
わたくし、ヴィルジニア・ヴァレンティーノはこの冬結婚したばかり。旦那様はとても紳士で、初夜には優しく愛してくれました。けれど、プロポーズのときのあの言葉がどうにも気になって仕方がないのです。
――《嗜虐趣味》って、なんですの?
※お嬢様な新妻が性的嗜好に問題ありのイケメン夫に新年早々色々されちゃうお話
※ムーンライトノベルズからの転載です