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12 *グリファード視点
グリファードの執務室はエルシアと居る邸の中だけではない。
王都にエルシアを連れて来て、国で一番警備が強固の王城内にある離宮に、エルシアを匿っている。
政務の中心の王城でも、その王城からは歩くのに距離もあり、森に囲まれた離宮の方を眺め、一時の休憩をグリファードは取っていた。
---もう少しだ………密偵の情報さえ揃えば……
ウォーレス侯爵領内の悪事の証拠を掻き集め5年。
それ以上前から、麻薬密売組織がある事は知っていたグリファード。尻尾を掴んだと思っては、蜥蜴の尻尾の様に逃げられては繰り返し、今迄以上の証拠をグリファードの手腕で見付け、今は正念場だ。
「失礼します。グリファード殿下、王太子殿下がお見えになられました」
「……………居ないと言えよ」
「冷たいな、グリファード」
レックスがグリファードの兄である王太子マスタングを案内してきたが、グリファードは兄に冷たい態度。
「何の用だ、兄上」
「領地戦の約束だったのに、愛妻のお強請りに負けた可愛い弟に会いに来たんだけど?あれから報告も無いしね」
「可愛くない弟で結構。愛妻に弱いのは認める」
グリファードは王城では仮面を外して、第二王子として振る舞っている。
艶のある金髪に長めの前髪で額を隠したルビーの様な赤い瞳。
火傷の痕等はない、美しい男だ。
そして、グリファードに面差しが似た王太子マスタング。
「可愛いって言っただろ。何でいつも捻くれた解釈するのさ。似合いもしない仮面で顔を隠して、身分偽ってフラフラしていると思ったら、いきなり結婚して………俺だってまだ婚約者さえ居ないのに」
「いや、その兄上の言葉が嫌味にしか聞こえないから捻くれた返事しかしないんだろ」
「素直じゃないなぁ、相変わらず…………で、本題なんだが………ウォーレス侯爵に動きは?」
「連絡を寄越してきた。今必死になってエルシアを探している。領地には居ないから、部下達にウォーレス侯爵家所有の敷地や財産を全て調べさせていて、報告待ちだ」
「何だよ、領地戦する事無かったな。潜り易くなった様で良かったよ」
「焼け野原にしてゆっくり証拠集めするなんて、誰が考えたんだ………罪人以外の人間にも被害が及ぶのに」
「あぁ…………それ、参謀のジジイ達さ。可決しちゃって反対出来なくてねぇ」
王族主権の政治をしないように、国の運営は会議にて可決非可決で決まっていたウォーレス侯爵領地との領地戦。
それをグリファードは影で阻止しようと動き回っていた様だ。
エルシアとの婚姻で左右しかねない事ではあるのだが、エルシアを見てきたグリファードには確信もあり、その条件で結婚さえ強要した。
「それでも、陛下の重い腰を上げたのは、グリファードの集めた証拠があってこそだよ。そこで、お前の結婚相手迄利用させられてちゃ、陛下も呆れてたけどね」
「まさか、王令で結婚出来るとは俺も思わなかった」
「陛下はグリファードに甘いからなぁ」
「……………お陰でな」
「……………今見ても鮮明に思い出すよ、その傷………それがあるだけで、お前は髪で隠さなきゃならないんだし」
グリファードは前髪を掻き上げると、額には火傷ではなく傷があった。
幼い頃、剣の鍛練中に出来た傷。
しかも、その傷は剣の鍛練相手であるマスタングの手からすり抜け、グリファードに当たったのだが、国王がその剣を捌こうとしたのに間に合わなかった不幸な事故。
息子を守れなかった後悔の念で、国王はグリファードに甘いらしい。
「もう、過ぎた事………いつまでも責任を感じて貰わなくても良いんだけどな」
「それ、愛妻のエルシア夫人に見せた?」
「……………見せてない」
「何で」
「エルシアは無理矢理俺の妻にした俺を嫌っているし、俺が王族だとも知らない。元々ウォーレス侯爵の婚約者だった彼女を俺が奪ったんだから、当然言える訳はないさ」
「一生言わないつもりか?お前」
「この件が終わったら話すつもりだが、ウォーレス侯爵の悪事を彼女が知ってからにする。今、彼女の感情より国の問題だから………」
「そうか………それでも、お前の誕生祭迄には終わらせろよ」
「っ!」
王族の誕生日は国中がお祭り騒ぎになる。
勿論、第二王子であるグリファードも強制参加で王城では夜会が開かれるのだ。
グリファードはその時でも顔を出さず、替え玉を用意していた。
ヴィンザード公爵という名を語る前、怪我をしてからずっとだ。
人見知りという訳ではない。傷とは関係の無い見目の所為だ。マスタングは王太子という立場から義務として素顔を晒すが、グリファードは第二王子。王太子妃候補になれない令嬢達がグリファードに集るので、身分で集る女達が苦手だっただけで、社交場には出ないのだ。
「い、いや…………俺はいつもの替え玉で……」
「結婚したのだから、替え玉は用意しても良いが参加しろ!仮面公爵でも良い!と陛下からも言伝だ!愛妻と会わせない気か!仮面公爵でエルシア夫人に会いに行ってた事、俺は知ってるぞ!」
「そ、それは…………考えとく……第二王子として顔を晒さないなら、俺だけで行くから………」
「夫人も一緒じゃなきゃ、第二王子として参加な」
「なっ!」
「衣装は離宮に贈っとくからな。スカーレットにエルシア夫人のサイズ聞いておいたんで、着飾ってこい」
「兄上にエルシアのドレスを用意させるか!兄上が用意するなら俺が用意する!」
「……………じゃ、決まりだな。絶対に来いよ、グリファード」
流石グリファードの兄だ。グリファードが返す言葉を理解している。
グリファードの誕生日迄、1ヶ月足らず。
それ迄、グリファードはエルシアとの距離を縮め、ウォーレス侯爵家の問題を解決出来るのだろうか。
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