不本意に仮面公爵の花嫁にさせられました【完結】

Lynx🐈‍⬛

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「……………ふぅ……」
「お疲れ様でございました、エルシア妃」
「今日も、教えて頂きありがとうございました」

 王城で、王子妃としての勉強が一段落付いたエルシアは、日々眠気と気怠さ、吐き気と戦っている。
 天気の良い日でも、雨でも、気を休める時間は殆ど無いのだ。

「エルシア妃、本日はこの後検診ですから、少し身体をお休め下さい」
「ありがとう、スカーレット………貴女も休んで下さい」
「いえ、私は侍女ですから」

 侍女として、プライドと責任を持ち合わせているスカーレットなのはエルシアも知っているが、同じ様に頭を使って、エルシアの勉強についてきているスカーレットも疲れている筈だ。

「聞いて良いですか?スカーレット」
「何でしょう」
「座ってわたくしの話し相手になって下さい」
「い、いえ…………私は…」

 小休憩の間も、仕事をしようとしたスカーレットに、する必要はないとばかり、目の前の椅子にスカーレットを誘うエルシア。

「見上げながら話したくないんです」
「っ……………は、はい……失礼致します」

 エルシアは、部屋から他の侍女達を下がらせ、スカーレットと2人きりにした。

「馴れ初め………聞かせて貰えません?」
「えっ!」
「王太子殿下との出会いです」
「わ、わ、私は…………そんな……」
「グリファード様にもスチュアート、他の侍女達にも言いませんから」

 スカーレットとマスタングの接点はグリファードとスチュアートぐらいとしか想像は付かないが、恋人に発展する迄の流れが分からない。

「……………私達、兄妹は両親を亡くした後、スチュアートはグリファード殿下の側近候補として、私は王妃様の侍女達の仕事を手伝う下女として王城でお世話になりました」
「グリファード様の侍女ではなかったの………」
「王子殿下方への異性の接近は、限られた人しか出来なかったので………特に歳が近い私では、殿下のお2人とはお話する事も出来ず」

 それが、何故スカーレットがグリファードの住む邸の侍女頭迄上がれたのだろうか。

「接点は無かったのに、何故想いを寄せ合うようになったんです?」
「……………よ、寄せ合うなんて……そんな……わ、私は密かに離れた所から拝見出来れば良かったんです…………ですが、グリファード殿下のお顔の怪我があり、看病をスチュアートが基本的に看る事になったのですが、私もグリファード殿下のお世話もする様になりまして………お気が弱くなりがちになられたグリファード殿下の話し相手の様な事しか出来ませんでしたが、スチュアートはスチュアートで、グリファード殿下の副官となるべく勉強もしなければならず、お世話を私が名乗り出たのです…………それから王太子殿下ともお話する機会が増えていき………」

 グリファードの顔の傷は、まだ幼少期だった筈で、恋人となるには早い気がする。

「それは子供の時のお話でしょう?」
「はい…………それ迄は、王太子殿下と私の関係は疚しさは無く…………成人に殿下方なられた頃、数多くの婚約者候補のご令嬢方とお会いになる事も増え、私が殿下方とお話する事はめっきり減りました………ですが、グリファード殿下が離宮に居を移したい、と仰った時、スチュアートも移ると言うので、私も同行する事にしたら…………その…………」
「王太子殿下が何か仰ったの?」
「っ……………そ、それは………」

 スカーレットの顔が赤く染まっていく。
 思い出した事があるのだろう、先程迄の喋る口調が吃り始めた。

「告白された、とか…………」
「っ……………そ、その……た、戯れだと………思いたかったのです………ですが………私………殿下と…………」
「……………ま、まぐわ………った?」

 表情を見るに、告白だけではないとは思ったエルシアは、更に先の事を考えてしまった。

「っ!…………」
「え…………そ、それは………じゃ、じゃあそれ以降…………そういう関係だった、という事?」
「……………も、申し訳………ありま……」
「何故謝るのです!………わたくしに謝る事はありませんよ…………で、では王太子殿下は責任を取ろうとしている、という………訳でも無さそうだけど………本気なんだわ……」
「な、何度も………戯れだと……お伝えしてきました…………でも、自分の気持ちに抗えなくて…………求められて嬉しくない女なんて居ません…………かろうじて、妊娠には気を付けて下さってますが…………エルシア妃やグリファード殿下の様な、毎日という事はないので………免れていたという…………」

 毎日は流石にスカーレットやマスタングは無理だろう。
 エルシアがグリファードの邸に来てから、スカーレットは常にエルシアが見える所に控えていたし、外泊出来る程スカーレットもマスタングも暇ではない。

「スカーレットは、王太子殿下から離れたいの?」
「っ!…………お、王太子殿下に……ご婚約者様が出来たら………直ぐに去ろうと………侍女も辞め、ひっそりと貯めてきたお金を元に、細々と暮らそうと思います………エルシア妃の侍女でなくなるので、ご迷惑をお掛け致しますが………もし王太子殿下のご婚約者が決まってなくとも、ウォーレス侯爵家の裁判を待ち、恩を仇で返す様ですが、王城を去ろうと思っています」
「……………それが本心で良いのですか?貴女は」
「……………っ……」
「スカーレットは嘘つきだわ」
「う、嘘ではありません!本気で思っ………」
「では、何故そんなに泣くの?」
「っ!」

 スカーレットの頬が涙で濡れている。

「毎朝、目を腫らして、わたくしの登城の準備を手伝って、王城に入ると落ち着きなくしていて、王太子殿下の話が出ると、余計に挙動不審になるのは何故?」
「……………無理ですもの!……私がどれだけあの方に恋い焦がれようと…………無理……なんです………」
「そう、考えるのは時期尚早ではないかしら………最初から無理だと自己完結しているだけにしかわたくしは見えない………王太子殿下に貴女の気持ちは伝えたの?わたくしが言える立場ではないけれど、わたくしがグリファード様に気持ちを打ち明けられたのだって、お待たせてしまって鈍いのは理解している………でも、わたくしが見た限り、スカーレットの気持ちは自分自身分かっている筈だわ。当たって砕けもしていないのに、藻掻いてもいないのに、2人で乗り越えようとしないのに、自分だけで諦めては駄目だと思う」

 エルシアがまだヴァシムにしか目を向けていなかった時、グリファードは当たって砕きにきても藻掻いていた。そう今思い返せば、スカーレットもそう見えるし、まだスカーレットは当たって砕けにも行ってはいない。
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