不本意に仮面公爵の花嫁にさせられました【完結】

Lynx🐈‍⬛

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 何を言い訳しても、グリファードやマスタングにより、返されて終わるヴァシム。
 押し問答の末、ヴァシムも返す言葉が見つからなくなっていく。

「罪状を伝える………長きに渡り、ウォーレス侯爵家の者は私利私欲により、違法薬物精製、売買を行い、娼婦達を麻薬中毒者にさせ、暴行、性的暴行、殺人容疑により、斬首刑とする。お前の父もお前と共に斬首刑となる運命を共にさせてやろう。父子共々、死して罪を償え」
「な、何だと!ち、父上もなのか!何故俺が父上と殺されなきゃならない!死ぬならエルシアと一緒に死ぬ!」
「ふざけるな!どれだけ貴様はエルシアを苦しめようとするんだ!エルシアは王子妃!罪人の貴様とは無関係だ!」

 グリファードから怒号が飛んだ。
 何故、ヴァシムの処刑にエルシアが道連れにならなければならないのか。
 エルシアも、ヴァシムの言動には霹靂した表情を見せていた。

「お見苦しいですわ、ヴァシム様………わたくしが貴方の本性を見抜けなかった事も、わたくしの罪かもしれないですが、これ程罪を重ねておられて、往生際が悪過ぎますよ………わたくし、貴方には未練はありません。遠に捨てました。わたくしが第二王子妃という重責は荷が重いですが、貴方の妻になるより、何十倍何百倍も良い………それがわたくしの私利私欲だと言うのであれば、第二王子グリファード殿下への愛情の欲しかありません。わたくしへの執着は、斬首刑で落とされる首と共に捨て置き下さいませ」

 残酷な言葉をエルシアはヴァシムに言いたくなかったが、未練をこの世に残されたくはない。
 エルシアは残酷な言葉と共に、愛した事のある男に別れを涙目で訴えた。

「ここまでエルシア妃に言われて、諦めが付いただろう…………斬首刑台に運べ!ヴァシム・ウォーレスを父親と共に並べ、直ちに執り行う!」

 マスタングの命令で裁判が終わり、裁判所の目の前に設置されていた斬首台に、ヴァシムはは連れて行かれた。
 裁判所前には、刑執行を見守りたがる民衆が集まり、暴れるヴァシムが斬首台に括られると、これまた暴れるヴァシムの父親、前ウォーレス侯爵が、みすぼらしい姿でヴァシムの横に並べられた。

「父上!何で俺は死ななきゃならない!元はと言えば、父上が俺に事業を継がせたからじゃないか!」
「何を吐かす、ヴァシム!お前が失敗しなければ、上手くいっていたんだ!私は足をお前に引っ張られたんだ!」
「俺の母上さえも殺しておいてよく言うな!父上!」

 責任のなすりあいの両者は、もう雑音でしかない。

「エルシアは此処に居た方が良い。胎教に悪いし、あんな罵声をこの子に聞かせたくない」
「……………わたくしも見たくありません……もう、あの人達は消し去りたい記憶になりました…………わたくしの代わりに、見届けお願いします」

 人が死ぬ風景を見たいとも思わない。
 ましてや、一度は愛した男とその父親。家族となろうとした人達を、死に際迄見たくなかった。
 裁判所の中で、声だけが聞こえる。
 それなのに、ギロチンが落ちていく音だけが、やけにエルシアの耳にゆっくりと届けられた。

「っ!……………ヴァシム様……」

 骨が鈍く切れた音が、ザシュ、ザシュ、と聞こえると、民衆の歓喜に近い声が響いた。
 現実的に、ゆっくりとギロチンが落ちた訳ではないのに、走馬灯の様に思い返す事は、ヴァシムと幸せだった日々だけだった。
 落とされた首は、数日さらし首にされる事になっていて、エルシアは戻って来たグリファードと、それを見る事なく、別の出口から王城へ帰る予定だ。

「エルシア、体調は大丈夫か?」

 グリファードが、裁判所の扉を隔てて控えていたエルシアに声を掛けて、心配そうに見つめてくれる。

「……………はい、大丈夫です。最後は見届けませんでしたし………でも今日だけは、少し思い出に浸っても良いでしょうか………未練ではないのです………ヴァシム様がされてきた事を思えば、償い方法は妥当な物だったと理解しています。それでも………幸せだと思えた日々は多くて………冥福を祈る事を許して欲しいのです」
「……………あぁ、分かった………だが、今日だけだ。明日からは駄目だからな」
「…………はい……」

 エルシアは胸の前で手を組み、祈りをその場で捧げた。
 ヴァシムに向けて、恐らく誰も祈らない。
 それがグリファードも想像出来るから、エルシアを止めはしなかった。

「最後迄、自分のしてきた事を悔いる事をしなかったよ」
「……………わたくしが見抜けていれば、あの人は変わったでしょうか………」
「……………変わるならば、もっと早く変われた筈だ………プライドの高い男は、悔いる事を認めたくないんだろう」
「わたくし、プライドの高い男性は好きではなかった、という事ですね………グリファード様からプライドの高さは見えませんから」
「私にだって、プライドぐらい持っているぞ」
「わたくしが言うプライドとは違いますよ?ヴァシム様は、後悔をする事を許せないプライドです。グリファード様はグリファード様で拘られるプライドがありますでしょう?拘る所が違うではありませんか………グリファード様はヴァシム様とは違い、ご自分を見つめ直す事していますでしょう?」
「……………反省は大事だ………今でも、エルシアとの結婚した経緯が正しかったとは思っていない…………結果が良かった、という事だけで安堵している。悔いた事は最近ではそれだな」

 グリファードが進んだこの道が、失敗したらどうなるのか、とエルシアも思う事もあるが、結果は良かった、とグリファードと同じであったのは、エルシアも嬉しく思う。
 そう思えたら、エルシアはグリファードの腕に自分の手を回した。

「ふふふ…………それ、考えるのはもう終わりにしましょう?この子に、わたくし達の結婚の経緯を聞かれた時、本当の事説明したくありません。お父様になるグリファード様の面子が潰れますよ?」
「……………では、口裏を合わせようか……合わせるなら、私がエルシアに一目惚れし、熱烈に求婚して、エルシアが絆された、という事にしておくか?」
「端折っただけですわね………ですが、それで良いと思います」
「グリファード殿下、エルシア妃、帰宅の馬車が用意出来ました。血生臭い所に長居は無用です」

 良い雰囲気になった頃、レックスがエルシア達を呼びに来た。

「帰ろうか」
「はい」

 グリファードの腕から離れる事なく、エルシアはグリファードに寄り添って歩き出していた。
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