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親娘の再会
しおりを挟む翌日、龍虎会の門前に櫻子の両親、蒼太と雪が立つ。
「どちらさんで?」
「…………龍崎 雪、と言えば分かるかしら?」
「はぁ?………親父と同じ名字?」
「龍虎会会長、龍崎高徳の娘だと言えばいい?」
門番達には、雪が分からない。だが、龍虎会会長の娘、と言われれば無下には出来ず、門には通された。
「どういう事だ!…………雪が生きているかもしれねぇ、と昨日桜也から聞いたばっかだぞ!!」
屋敷奥から聞こえる怒号の声。雪には懐かしい父の声だ。
「お父さん………」
「……………せ……………つ……」
大分興奮している様子の龍崎。
「…………どちらさんだ……俺には娘なんて居ねぇ……家出して極道とは無縁の一般人だ………幸せそうな顔して……よ…………自分の娘を手放す…………ような………馬鹿な………娘なんて……………雪……………雪………もう来るんじゃ………」
「お父さん!!櫻子に会いたいの!!手放したんじゃない!!誘拐されて、ずっと探してた!!帰りを待ってた!!」
「お願いします!!龍崎会長!!………兄、高嶺桜太が大変世話になりました!!兄は父に勘当され、死んでも何もしてやれなかったのに、龍崎会長が葬式も、息子の桜也の世話迄してくれていたんじゃないか、と………お願いします!櫻子と桜也に会わせて下さい!!」
「何の騒ぎだ!!」
「頭…………」
龍崎家の玄関で土下座する男女と、玄関に肩を震わせ背を向ける龍崎を、本部に来た桜也が見る。恐らく昨日の報告を詳しくしにきたのだろう。
「……………親父、如何したんですか?」
男女を、蒼太と雪を通り過ぎ、靴を脱ぐと龍崎の泣き顔。通り過ぎた桜也はその男女を見返る。
「………雪お嬢………ですか?」
「…………」
雪は顔を上げると、驚きを隠せない顔をする。
「桜…………太……じゃない………桜也?桜也ね!!」
「…………雪お嬢!!………親父!」
「帰れ…………雪」
「お父さん!!」
「…………訳は、桜也に言え……俺は桜也から聞く」
そう言うと、屋敷奥に入って行った龍崎。
「すいません、お嬢……親父は一般人になった方を再び極道に関わらせたくない、と常日頃仰っていまして………場所を変えましょう」
「桜也…………貴方は知っているのよね、櫻子の居場所」
「知ってますよ、今私のマンションに避難してます」
「お願い、会わせて!!」
「頼む!桜也!」
「…………まさか、叔父さんが櫻子お嬢の父親だとは思いませんでしたよ……」
桜也はとりあえず、2人を車に乗せ、ホテルの1室を借りて話をする事にした。
「すいません、櫻子お嬢はずっと、捨てられた、と思ってたので、昨日捨てられた訳ではなかった、と安堵しているだけで、会いたいとかは言っていないんです。僅か2週間ばかりで、生活が一変したので気持ちが追い付いて行かない様で」
「…………そう……でも2週間前、てそれ迄如何してたの、櫻は」
「生後半年で孤児院に預けられ、身元が分かる物はぬいぐるみに『櫻子』と書かれた物だけだったと」
「ぬいぐるみ?」
「…………確か誘拐された時に、ぬいぐるみも無くなってたアレか?」
「あ…………あれ?うさぎのぬいぐるみに刺繍してもらった……お土産に……」
「それから、自立して保育園で保育士をしてましたよ」
蒼太も雪も寄り添うように、手を握り合って桜也の話を聞いている。30年前に家出し、蒼太とどう生きてきたかは分からないが、支え合ってきたのだろう。櫻子の話を聞いて安堵している。
「お嬢」
「………もうお嬢はナイわよ、桜也……本当、お父さんの桜太に似てるわね、あなた」
「………ああ……」
「聞いていいですか?親父も一番気にしてる事なので」
「…………いいわ……私が龍崎家を出てからでしょ?」
「はい」
「………もう、獅子王組との小競り合いに真っ平だったの……桜太が目の前で銃で殺されて、『お嬢は極道に身を寄せちゃ駄目だ』て今わの際に言われたわ………桜太を好きだったから、許されるなら桜太と龍虎会を守っていこうと思ってた………でも桜太が居なかったら怖くなって、4年は水商売しながら細々と暮らしたわ………そんな時に、桜太の弟の蒼太が偶然、私が働く店に客として来たの……桜太に面影似てて、名字も高嶺だったから、思い切って聞いてみたら、桜太の弟だと知って………」
雪は淡々と話す。蒼太と付き合う様にはなったが、極道の娘の雪と結婚を許される訳はない、と思った雪は、未だに龍崎性なのだそうだ。内縁の妻となった雪は、外務省として中国に赴任した蒼太に付いて、中国で櫻子を産んだ。しかし、人身売買が横行する中国で、ベビーシッターに任せていた櫻子を連れ出したまま帰って来なくなった。そのベビーシッターは直ぐに捕まったが、もう櫻子は側には居なかった。気が付いて1時間も経っていないのだそうだ。中国中心に探してはいたが、日本に帰国する事になり、それでも諦められず、日本警察に捜索願は出していたそうだった。
「まさか、櫻子だけ先に日本に帰ってきていたとはな………櫻子が誘拐され、2年は中国に居たから」
「………孤児院に入れられていたら、捜索願出しても事件性がなければ探されませんからね」
「桜也は、何故櫻子が孤児院に居たと気付いたの?」
「獅子王組です………獅子王組若頭、獅子王大和が結婚すると聞きまして、相手を探っていたら、その女が雪お嬢そっくりだったんですよ」
「…………また獅子王組なの?」
「しかも、獅子王大和は、10年前からその孤児院に住み、櫻子お嬢と親しくなり、そのまま結婚を、と目論んでました」
「!!」
蒼太も雪も驚愕する。
「………お、桜也……まさか誘拐も獅子王組が………?」
「分かりませんが、10年以上前から櫻子お嬢の事を知っていたとしか思えません」
「櫻子は知っているのか?」
「えぇ、私が説明しましたし、獅子王大和も暴露しました………だがまだ何か企んでいる気もします………出来れば、雪お嬢達にもセキュリティ着けてもらえませんか?………私も昨日の今日でまだ手配出来ないんですが………獅子王組が何するか分からないので」
「………あなた……」
「俺はどうなってもいいが、蓮と菫がな」
「蓮?菫?」
「櫻子の弟と妹だ………子達も櫻子の事は話している」
「弟妹が居たんですね………喜ぶでしょう」
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