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ボルゾイに行く前に
しおりを挟むラメイラ、双子出産に国内は歓喜に満ち溢れた。
ラメイラの産後の体調の調子が悪く、暫くベッドから離れられなくなっていた。
産後1週間程経ち、双子には会えなかったが、ラメイラの見舞いに来ていた。
「悪かったね、アニース。」
「気にしないでくれ、私がその時に居られて良かったと思っている。自分の経験する時にもなりそうだからな。」
「そうだな…………経験者から一言言えば、腰が半端なく痛い…………というか、アソコが痛い…………出血も多かったから、貧血で立てれなくてさ。産んでからほうれん草やら、鳥の肝とかいっぱい食べさせられてるよ。」
「貧血にいいのか?ほうれん草や鳥の肝は。」
「そうみたい。カイルから貧血に効く薬茶も飲まされてるけど、大分良くなってるよ。」
妊娠中に必要な事をラメイラからアニースは教わる。
「書物で読むのと、経験者から聞くのとは違うな。」
「ナターシャからも聞くといい。私もナターシャから聞いた事もあるし。」
「良かったな、ラメイラ………無事に出産出来て。」
「うん、本当に。トーマスを他の女に取られたくないし、イアンとアロンを育てたいからな…………まだ母乳しかあげてないけど。」
はにかみながら、ラメイラは言うが既にもう母の顔。
「イアンとアロンか………いい名だ。」
「兄弟仲良く協力しながら育って欲しい。リュカやトーマス、タイタス、コリンの様に。」
「そうだな。」
「明日だよな?ボルゾイに出発するの。」
「あぁ、3年振りの故郷だ。」
「気を付けてな。」
「あぁ………気を付けて行ってくるよ。そして、ジャミーラとヘルンはボルゾイから出さないから。」
「うん、それは是非お願いしたい。」
コンコン。
寝室の扉がノックされ、扉が開いた。
「アニース様、ウィンストン公爵が明日の出発の事でお話があると申しております。お時間頂いても宜しいですか?」
「ウィンストン公爵が?分かった今行く………ラメイラ、すまない。身体労ってくれ。」
「ありがとう、アニース。またボルゾイから帰ったら、旅の話を聞かせてくれ。」
「あぁ、勿論。」
侍女が待つ寝室の入り口に向かい、ラメイラと別れを告げた。
ウィンストン公爵は、トーマス邸の入り口に待っていて、その横にはセシル。
「申し訳ありません、アニース様。お呼び出ししまして。」
「大丈夫だ。ラメイラの所もそんなに長居はするつもりは無かったのだし、その後は予定も無いから。」
「私の執務室にお越し頂いても宜しいですか?」
「分かった、行こう。」
ウィンストン公爵の執務室に連れて来られたアニースは、促されるまま応接セットのソファに座る。
上座に案内され、下座にはウィンストン公爵とセシルが扉側の方に座った。
当然な位置なのではあるのだろうが、アニースは王女として産まれてはいるものの、扱いは冷遇されてきた女性。
何故か緊張していた。
「申し訳ありませんアニース様。お時間を頂き。」
「それはいいが、何かこの位置が落ち着かない………。」
「これはあるべき位置、お気になさらずに………アニース様がタイタス殿下の妃になれば当然の事、今から慣れて頂いても構いません。」
「まだ決まった話ではないだろう?」
「お二人のお心は決まっているのでしょう?…………ただ、我々臣下もそうですが、陛下も皇妃殿下もタイタス殿下から決定的なお言葉を伺っておりませんので、今は中途半端にはなっているだけの事。ボルゾイに行って帰って来る間、お二人の進展があれば喜ばしい事かと思いますが。」
決定的な言葉もタイタスから言われた訳ではない。
『タイタスの妃になる事を前向きに考えて欲しい』と言われただけ。
以前、キスをしかかったが……。
それをアニースは思い出してしまうと、目が潤みかかる。
ウィンストン公爵は、それを見逃さない。
「アニース様、ボルゾイ迄の旅路ですが決してお一人にならぬ様お気をつけ下さい。基本的にセシルを付けますが、セシルが付けなくても、部下を数人付けますので、ご理解下さい。」
「それは、ジャミーラやヘルンが何か仕掛けてくる、と見てるのか?」
「十中八九、仕掛けて来ると見ています。レングストン内で、誰もアニース様を冷遇する者は居りませんので、手を出して来る事は無かったのでしょうが、レングストンを出てしまえば、ジャミーラ姫やヘルン姫に命令されれば従わざる得ないでしょう。彼女達の侍女達は常に痣が出来ていた。医者をアニース様が手配していたのも聞き及んでおりますが、アニース様にはレングストンで世話をしている侍女とレングストンの兵士以外、気を許してはなりません。今回同行する兵士達、侍女も含め、我がウィンストン家に仕える者ばかりなのでご安心下さい。」
「そ、そうなのか?」
「はい、タイタス殿下にもご了承頂いておりますし、各皇子方の侍女の数人は必ず部下を入れております。アニース様の侍女はほぼウィンストン家に仕える者ですが。」
「な、何でそこ迄………。」
「遅かれ早かれ、アニース様がレングストンに居ると知られるかと思っておりましたから、何らかの形でボルゾイから干渉あるかと見ていましたので、陛下と皇太子殿下の了承を得た上で、ボルゾイの知識のある侍女を集めました。」
そこ迄、ウィンストン公爵は見ていたのには、アニースも驚きを隠せない。
侍女も部下なのも驚きだが、何か起きてから信用出来るか出来ないか分からない侍女をいきなり付けられるより、慣れてそのまま付き添われた方が信用度も違う。
「………もう、あなたには脱帽するよ……。あなたの様な人が居るから、レングストンは平和なのだろうな……。」
「建国500年、初代皇帝の弟の血筋を引いておりまして、長く宰相の任を司っておりますし、それを誇りに思っております。皇帝の影となり動けるように、教育されそれを息子達に引き継ぐ、そうしてウィンストン公爵家が今も尚、宰相で居られるのです。」
少し前、先代皇帝の弟の息子と孫娘が、『血の濃さ』でウィンストン公爵家を馬鹿にした。
それはアニースには知らない事だが、『血の濃さ』を覆させる程の由緒正しき公爵家だと知る。
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