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オアシス
しおりを挟む朝、レングストン国境を出てボルゾイに続く街に夕方着いたアニース達。
夕食は泊まる宿屋では用意は無く、街中の食堂で済ましたアニース達。
ジャミーラやヘルンのボルゾイ達一行は、街中の食堂を嫌がり、侍従達が作る料理を宿屋に運ばせた。
宿屋の店主は嫌がったが、ジャミーラ達は金を上乗せしてまで我儘を通す。
「金が欲しいでしょ?上乗せするわ!だから部屋で食べさせなさい!街の食堂なんて行きたくないわ!」
渋々、店主は了承したが、ジャミーラ達とは別行動にしたかったアニースやタイタス、セシル、レングストンの侍従達は、見張り以外街中の食堂に各自散らばり食事を取った。
「おやすみ、アニース。」
「おやすみ、タイタス。」
部屋は勿論、別にした2人。
宿屋の了承を得て、お互いの部屋には見張りを付けた。
セシルの指示ではあるが、アニースもウィンストン公爵の言葉を気にしていた為、見張りは有難かった。
そんな旅を5日程続け、ウィンストン領に入ったアニース達。
「ウィンストン領土に居られる間は、我がウィンストン邸の別邸にお泊り下さい。侍従達迄は無理ですが、警備はさせていますので。」
と、領土内を2日程掛けてボルゾイ国境迄、無事に済んだ。
そして、国境。
山を一つ越え、ボルゾイの砂漠を3年振りに見つめるアニース。
オアシスにより休息を取ると言うので、馬車から降りたのだ。
「この先にある街にも大きなオアシスのあるんだ。そこは活気があって賑やかなんだよ。」
「へぇ~………それにしても暑いな……。」
「タイタスは砂漠初めてなのか?」
「あぁ、ボルゾイに入ったのも初めてだ。ウィンストン領迄はあるけどな。」
水筒の水を飲み干してしまった程、喉を、潤すタイタス。
「肌は隠しといた方がいいぞ?昼は砂漠の熱と日差しで火傷してしまう。夜はその分寒いんだ。」
「聞いてはいたが、暑すぎて無理。」
「汗が蒸発してそれが焼けるぞ?余計に暑くなる。」
「…………なるほど……だから、ボルゾイの男の格好はマントみたいなのを被っているんだ………。」
「まだ、都迄は遠い。真っ直ぐ行っても1ヶ月半は掛かるからな。街に寄りながら行く必要はあるから、2ヶ月程掛けなければ。」
レングストン王都から、ウィンストン領迄5日、出る迄3日、ボルゾイに入って初日だ。
「うへ~………長旅だ……。」
「すまないな、付き合わせて。」
「…………いや?……アニースは嫌なんだろ?彼女達がレングストンに居るのが。」
「………うん………ナターシャやラメイラの妃の座を狙うのは絶対に阻止したい。」
「仲良いもんな、ナターシャやラメイラと。」
「それもあるんだけど…………私、あなたを利用した………。」
オアシスの木陰になる木に凭れて座っていたアニースが、猫背に俯く。
タイタスは立ってはいたが、その言葉で横に座った。
「………あぁ……ジャミーラ姫とヘルン姫から口説かれる、て?」
「………知ってたのか?」
「………父上と宰相から、そうなるんじゃないか、と。アニースは『タイタスを口説けばレングストンに居られる』と言うんじゃないか、て。」
「…………ごめんなさい……私はタイタスの妃候補なのに、あなたを囮にしてしまった………私が行くのに、ジャミーラ達は行かない、て言ったからどうしても連れ出したかった………連れ出してボルゾイにまた帰して何とか留めさせる為に考えよう、て………今はレングストンから出すだけでも、と。」
タイタスは黙って聞いていた。
アニースの考えを知りたかった様子。
「ま、そうなるだろうな………俺でもそう考えるだろうし。」
「タイタス殿下、お話中申し訳ありません。ジャミーラ姫様とヘルン姫様がタイタス殿下とお話したい、と。」
ジャミーラとヘルンの侍女達が、アニースとタイタスの前にやって来る。
「話?今は休息にオアシスに立ち寄っているだけ………何の話から聞いてないのか?」
タイタスは警戒心を隠さない。
「私共では、ジャミーラ姫様やヘルン姫様の意図は分かりかねます。」
「……………悪いが、俺は彼女達と話はない。アニース、出発準備に行くが君も行くか?今侍従がアニースの周りには居ないから、付き添ってくれ。」
「うん、分かった。」
「タイタス殿下!!………お、お願いします!!どうか、ジャミーラ姫様とヘルン姫様に………。」
タイタスが行く気が無い事が分かると、侍女達は怯えた表情になる。
アニースはその表情で察した。
「では、あなた達はジャミーラ達にこう言えばいい。『出発するからまた後で時間を取るそうです。』と。」
「……………は、はい……そうします。」
侍女達は怯えたままだが、少しホッとした表情をするのだった。
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