放浪の花嫁【完結】

Lynx🐈‍⬛

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ウィンストン領の離れ

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 ウィンストン領土に入ると、一気に気候が変わり、寒暖差で困るような事は無くなった。
 ボルゾイの気候に慣れていない者でも、気候が変わると体調を崩しやすくなり、ウィンストン領に入ってからはゆっくり移動する事に決まった。

「ゆっくりでもあと10日あれば王都に着きますし、今夜は我がウィンストン公爵邸の別邸ですが、身体を休めて下さい。こちらは離れで、私はあちらの本邸に居ますから。」

 そう言ってセシルはアニースとタイタス、僅かな侍女を置いて出て行ってしまった。

「やった!邪魔するセシルは居ない!」
「………………何か怪しくないか?セシルがそんな優しい面があるとは………。」
「た、確かに。」

 到着したのが昼過ぎで、暇だったアニースはウィンストン公爵邸の庭を散策していた。
 タイタスはセシルに話があるとかで、会いに行っていた。

「セシル、どういう風の吹き回しだ?アニースと同じ離れに押し込んで………今迄は阻止していたのに。」
(…………え?こっちに来る!)

 タイタスはアニースに聞かれたくないから、セシルに会いに行ったという事らしい。
 聞かれたくないのなら、隠れた方がいい、と悟ったアニースは、物陰に隠れた。

「タイタス殿下があまりにもご自分をアニース様にお隠しになるので、荒療治が必要かと。」
「隠してる、て何を………?」
「過去の女性関係ですよ。」
「………い、言わなくてもいいだろ!必要なのか!?」
「円満に別れた間であれば後腐れもないでしょう…………ですが、タイタス殿下はロレイラと関係があった………あの女はタイタス殿下を騙し、ナターシャを殺害しようとした女です。ロレイラに騙された経緯、本当に同意の元での関係ではない事は、タイタス殿下とて、今ならお分かりでしょう?」
「言わなきゃ駄目なのか?アニースに………過去の事だ。」

 庭園のベンチにタイタスは座り、セシルはタイタスの座るベンチには座らず横に控えた。

「タイタス殿下が何故かアニース様に遠慮気味なので………あの夜、アニース様を抱かれましたが、それを後悔して居られると思っていました。しかし、私の見解ではそうは見れないのです。媚薬のせいもあるでしょうが、まるで捌け口のようにアニース様を抱かれておられたので、もしかしたらまた同じように抱くのを恐れているのか、と。なら、タイタス殿下がロレイラを抱いたように、と思いましたが、ロレイラの性格上からタイタス殿下との房事がイマイチ………。」
「…………何でそこ迄分析するんだよ!………もう………ウィンストン公爵家の人間、て時には面倒だ………そうだよ………多分セシルの思ってた通りだよ………。」
「では、その思いの丈をアニース様にお話なさいませ。ロレイラとの事は数にも入れなくとも良いのです。本来のタイタス殿下のなさりたい様に、アニース様を愛せばアニース様は応えてくれる筈ですから。」
「……………そうなのか?」
「アニース様は鋭いですよ?タイタス殿下が隠したがっていたを知りたがっておられます。」
「……………何でアニース迄勘付かれるんだ……隠したかったのに……。」

 タイタスは頭を抱えた。

「タイタス殿下は元々隠し事が下手ですからね、だからリュカ殿下やトーマス殿下に剣で勝てないのですよ。付き合いが長いと、癖というものは必ず分かります。」
「…………分かったよ……今夜アニースに話す。」
「………では、これをお渡ししなければなりませんね。」
「!!……用意周到だな!相変わらず!!」
「必ずはして下さいね。王都に戻ったら、父のが更にありますから、出来なくなりますよ?結婚式挙げる迄。」
「………………今日しか時間は取れない、て言ってるな、お前。」
「当たり前じゃないですか…………明日以降は、隠し事が下手なタイタス殿下では、無理かと。」

 タイタスは奪うように、セシルが持つ避妊具を持って行った。
 それを陰で見ていたアニースはどうしていいか分からず、隠れたままでいると……。

「アニース様、盗み聞きは関心しませんよ?」
「え!!」
「タイタス殿下からは見えなかったようですが、私が立つ位置からは丸見えでした。」
「散歩していたら、あなた達が来たから隠れてたんだ………タイタスは私には聞かせたくなかったようだったし。」

 物陰から出て行ったアニースはセシルに近寄る。

「でも、聞かれてましたね。」
「…………まぁ、ね。」
「今夜、しっかり聞いてあげてください。タイタス殿下は、シたくて関係を持った訳ではないので、アニース様が許せるならタイタス殿下に応えて頂ければ良いかと。」
「許せなかったら?」
「………愚問ですね……アニース様は既に応えるおつもりでしょう?顔が赤いですよ?」
「!!そ、それはセシルが避妊具をタイタスに渡すから!」
「おや?私に責任を擦り付けるんですか?応える気が無いなら、離れに戻らなければ良いですよ?」
「…………戻るよ!!せっかく、セシルが作ってくれた時間だから!」
「ふふふ…………ではごゆっくり……出発は明日からですから、お間違えないようにお願いします。」

 セシルは一礼して、本邸に戻って行く。

…………て………ちょっと……
。」

 アニースは全身が火照る気配がして、散歩どころでは無くなったのだった。
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