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ウィンストン領の離れ
しおりを挟むウィンストン領土に入ると、一気に気候が変わり、寒暖差で困るような事は無くなった。
ボルゾイの気候に慣れていない者でも、気候が変わると体調を崩しやすくなり、ウィンストン領に入ってからはゆっくり移動する事に決まった。
「ゆっくりでもあと10日あれば王都に着きますし、今夜は我がウィンストン公爵邸の別邸ですが、身体を休めて下さい。こちらは離れで、私はあちらの本邸に居ますから。」
そう言ってセシルはアニースとタイタス、僅かな侍女を置いて出て行ってしまった。
「やった!邪魔するセシルは居ない!」
「………………何か怪しくないか?セシルがそんな優しい面があるとは………。」
「た、確かに。」
到着したのが昼過ぎで、暇だったアニースはウィンストン公爵邸の庭を散策していた。
タイタスはセシルに話があるとかで、会いに行っていた。
「セシル、どういう風の吹き回しだ?アニースと同じ離れに押し込んで………今迄は阻止していたのに。」
(…………え?こっちに来る!)
タイタスはアニースに聞かれたくないから、セシルに会いに行ったという事らしい。
聞かれたくないのなら、隠れた方がいい、と悟ったアニースは、物陰に隠れた。
「タイタス殿下があまりにもご自分をアニース様にお隠しになるので、荒療治が必要かと。」
「隠してる、て何を………?」
「過去の女性関係ですよ。」
「………い、言わなくてもいいだろ!必要なのか!?」
「円満に別れた間であれば後腐れもないでしょう…………ですが、タイタス殿下はロレイラと関係があった………あの女はタイタス殿下を騙し、ナターシャを殺害しようとした女です。ロレイラに騙された経緯、本当に同意の元での関係ではない事は、タイタス殿下とて、今ならお分かりでしょう?」
「言わなきゃ駄目なのか?アニースに………過去の事だ。」
庭園のベンチにタイタスは座り、セシルはタイタスの座るベンチには座らず横に控えた。
「タイタス殿下が何故かアニース様に遠慮気味なので………あの夜、アニース様を抱かれましたが、それを後悔して居られると思っていました。しかし、私の見解ではそうは見れないのです。媚薬のせいもあるでしょうが、まるで捌け口のようにアニース様を抱かれておられたので、もしかしたらまた同じように抱くのを恐れているのか、と。なら、タイタス殿下がロレイラを抱いたように、と思いましたが、ロレイラの性格上からタイタス殿下との房事がイマイチ………。」
「…………何でそこ迄分析するんだよ!………もう………ウィンストン公爵家の人間、て時には面倒だ………そうだよ………多分セシルの思ってた通りだよ………。」
「では、その思いの丈をアニース様にお話なさいませ。ロレイラとの事は数にも入れなくとも良いのです。本来のタイタス殿下のなさりたい様に、アニース様を愛せばアニース様は応えてくれる筈ですから。」
「……………そうなのか?」
「アニース様は鋭いですよ?タイタス殿下が隠したがっていたロレイラとの事を知りたがっておられます。」
「……………何でアニース迄勘付かれるんだ……隠したかったのに……。」
タイタスは頭を抱えた。
「タイタス殿下は元々隠し事が下手ですからね、だからリュカ殿下やトーマス殿下に剣で勝てないのですよ。付き合いが長いと、癖というものは必ず分かります。」
「…………分かったよ……今夜アニースに話す。」
「………では、これをお渡ししなければなりませんね。」
「!!……用意周到だな!相変わらず!!」
「必ず避妊はして下さいね。王都に戻ったら、父の目が更にありますから、出来なくなりますよ?結婚式挙げる迄。」
「………………今日だけしか時間は取れない、て言ってるな、お前。」
「当たり前じゃないですか…………明日以降は、隠し事が下手なタイタス殿下では、無理かと。」
タイタスは奪うように、セシルが持つ避妊具を持って行った。
それを陰で見ていたアニースはどうしていいか分からず、隠れたままでいると……。
「アニース様、盗み聞きは関心しませんよ?」
「え!!」
「タイタス殿下からは見えなかったようですが、私が立つ位置からは丸見えでした。」
「散歩していたら、あなた達が来たから隠れてたんだ………タイタスは私には聞かせたくなかったようだったし。」
物陰から出て行ったアニースはセシルに近寄る。
「でも、聞かれてましたね。」
「…………まぁ、ね。」
「今夜、しっかり聞いてあげてください。タイタス殿下は、シたくて関係を持った訳ではないので、アニース様が許せるならタイタス殿下に応えて頂ければ良いかと。」
「許せなかったら?」
「………愚問ですね……アニース様は既に応えるおつもりでしょう?顔が赤いですよ?」
「!!そ、それはセシルが避妊具をタイタスに渡すから!」
「おや?私に責任を擦り付けるんですか?応える気が無いなら、離れに戻らなければ良いですよ?」
「…………戻るよ!!せっかく、セシルが作ってくれた時間だから!」
「ふふふ…………ではごゆっくり……出発は明日午後からですから、お間違えないようにお願いします。」
セシルは一礼して、本邸に戻って行く。
「午後…………て………ちょっと……
。」
アニースは全身が火照る気配がして、散歩どころでは無くなったのだった。
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