71 / 88
71
しおりを挟む証人の男達はシスリーを見つめている。
「これからこの女からも話を聞こうか………猿ぐつわを外してくれ」
「はっ」
「…………ぷはっ!何するのよ!殿下!お助け下さい!私は何も悪い事してないわ!」
「黙れ、発言は許さん………ベルゼウス伯爵令嬢………はい、か否かで答えよ」
「は?…………お父様助けて!」
やはり、シスリーはただ騒ぎを起こすだけで証言もする気は無い様だ。
「仕方ない、再び猿ぐつわを」
「はい」
「嫌っ!何するのよ!離しなさ…………んぐっぅ!」
「本当なら頷け……違うなら首を振れ………ベルゼウス伯爵令嬢、其方はこの男達を知っているな?」
「んんっ!」
知っているのに首を横に振るシスリー。
そんな事は想定内であるので、リアンは続けた。
「この男達と、身体の関係があるだろう?」
「んんんんっ!」
違う、と髪を乱し思い切り振っていて、リアンに知られたくない様子なのは、シスリーがリアンを慕うからだ。
「では、スヴェン卿…………もし其方が嫌でなければ、この女から誘われた時の事を話せるだろうか」
「…………はい、証言致します」
「んんっ!」
「私はフェリエ侯爵が長男、スヴェンと申します。私は以前、騎士駐屯地に勤務しており、其処でシスリー嬢と出会いました。数多くの騎士達が、シスリー嬢とお近付きになりたいが為、数々の贈り物をされていた様です。その中でもベルゼウス伯爵領の隣、マイヤー子爵の息子ケヴィンは凄いものでした………彼は、シスリー嬢に騙され、領地の運営費や個人資産迄使い込み、シスリー嬢のカジノで散財したのです……それを私は知らずに、シスリー嬢に恋慕しており、彼女から観劇に誘われ、自ら身を私に捧げてきました。その後彼女はカジノに誘おうとした様です。我が家は侯爵家の中でも資産はある家柄…………ベルゼウス伯爵家にとっては欲しい財産なのかもしれません。もし、私もカジノに通わされていたなら、この者達の様に破産する迄毟り取られていたかもしれません」
「んんんんっ!」
違う違う、と首がもげるのでは、と思えるぐらいに首を横に振るシスリー。
だが、既に標的にされ金を奪われて行った男達もスヴェンと同様の手口に引っ掛かったのだ。
「ぷはっ!…………はぁはぁ………馬鹿じゃないの!騙される方が悪いのよ!誰がアンタ達に好きだって言った?勝手に私を好きになって、貢いで来たから、そのお金をお父様のカジノの収入にしたんじゃないの!私は悪くないわよ!騙された方が悪いの!馬鹿なアンタ達が悪いの!」
令嬢らしからぬ発言を、自ら猿ぐつわを暴れ取って怒鳴るシスリーに、貴族達は蒼白だ。
中には本気でシスリーに恋し、結婚して欲しいと思っていた者も少なくないのだ。
「ベルゼウス伯爵令嬢………其方はもう貴族では居られぬな………見よ、誰も其方を擁護しようとは思わない目をしている」
「い、良いわよ!私は皇族になるんだもの!殿下が娶ってくれるのでしょう?」
「…………クレイオ、如何だ?」
「絶対に遠慮したいね」
「…………だ、そうだぞ?因みに私は天と地がひっくり返してもお断りだ、と其方に伝えている………皇族の独身は私とクレイオだけだ。残念だったな………無理だ」
「っ!…………あの女が邪魔したのよ!アイツが居るからぁぁぁっ!」
「猿ぐつわしとけ」
「はっ」
ルティアはもう精神崩壊してそうな予感さえさせるシスリーに、同情心さえ芽生えそうだった。
---一体、如何したらあんな考えが出来るのかしら……可哀想な人……
シスリーがリアンと結婚出来ないのは、ルティアの所為にしたがる心理が全くルティアには理解出来なかった。
努力をしただろうが、方向性が違うのだ。
理解は出来る筈もない。
そんな娘の横に居ながら、ベルゼウス伯爵は素知らぬ顔で、マーガレットは泣いている。
親であれば、マーガレットの様に嘆いて泣くだろう。
「ベルゼウス伯爵………こんな娘に育てたのは其方だ………夫人は泣いているぞ。心は痛まないのか?」
「……………馬鹿な娘としか思えませんな……股を開き、男を誘惑した所で、魅力が増すわけでも、賢くなる訳でもないのです………確かにそこの者達は娘と付き合いがあった……娘を好きだったなら、貢いで当然………貴族ですからな。ただ、娘は私の………家の為に貢がれる先を変えさせた、親孝行の健気な娘でございます………娘がこの者達を騙したとも思いません………礼しかありませんよ。微々たる物でも潤いましたからな」
娘が娘なら父も父だ。
反省の色が無い。
「ふざけるな!人の弱みに漬け込んだのだろう!ベルゼウス伯爵!」
「そうよ!私達の息子は私達に泣いて謝ったわ!騙されたと!貴方の娘に騙されたと言ったんですよ!」
「ゔっ………父上……母上……」
証人の男の両親の様で、聴聞している輪の中から怒鳴っていた。
「フッ………」
「何を笑っている、ベルゼウス伯爵」
「失礼………」
性根が悪いとしか思えない、という目線が誰からも浴びせられているのに、笑みを浮かべるその根性は感服ものだった。
47
あなたにおすすめの小説
だってお義姉様が
砂月ちゃん
恋愛
『だってお義姉様が…… 』『いつもお屋敷でお義姉様にいじめられているの!』と言って、高位貴族令息達に助けを求めて来た可憐な伯爵令嬢。
ところが正義感あふれる彼らが、その意地悪な義姉に会いに行ってみると……
他サイトでも掲載中。
死に物狂いで支えた公爵家から捨てられたので、回帰後は全財産を盗んで消えてあげます 〜今さら「戻れ」と言われても、私は隣国の皇太子妃ですので〜
しょくぱん
恋愛
「お前のような無能、我が公爵家の恥だ!」
公爵家の長女エルゼは、放蕩者の父や無能な弟に代わり、寝る間も惜しんで領地経営と外交を支えてきた。しかし家族は彼女の功績を奪った挙句、政治犯の濡れ衣を着せて彼女を処刑した。
死の間際、エルゼは誓う。 「もし次があるのなら――二度と、あいつらのために働かない」
目覚めると、そこは処刑の二年前。 再び「仕事」を押し付けようとする厚顔無恥な家族に対し、エルゼは優雅に微笑んだ。
「ええ、承知いたしました。ただし、これからは**『代金』**をいただきますわ」
隠し金庫の鍵、領地の権利書、優秀な人材、そして莫大な隠し資産――。 エルゼは公爵家のすべてを自分名義に書き換え、着々と「もぬけの殻」にしていく。
そんな彼女の前に、隣国の冷徹な皇太子シオンが現れ、驚くべき提案を持ちかけてきて……?
「君のような恐ろしい女性を、独り占めしたくなった」
資産を奪い尽くして亡命した令嬢と、彼女を溺愛する皇太子。 一方、すべてを失った公爵家が泣きついてくるが、もう遅い。 あなたの家の金庫も、土地も、働く人間も――すべて私のものですから。
殺された伯爵夫人の六年と七時間のやりなおし
さき
恋愛
愛のない結婚と冷遇生活の末、六年目の結婚記念日に夫に殺されたプリシラ。
だが目を覚ました彼女は結婚した日の夜に戻っていた。
魔女が行った『六年間の時戻し』、それに巻き込まれたプリシラは、同じ人生は歩まないと決めて再び六年間に挑む。
変わらず横暴な夫、今度の人生では慕ってくれる継子。前回の人生では得られなかった味方。
二度目の人生を少しずつ変えていく中、プリシラは前回の人生では現れなかった青年オリバーと出会い……。
五年後、元夫の後悔が遅すぎる。~娘が「パパ」と呼びそうで困ってます~
放浪人
恋愛
「君との婚姻は無効だ。実家へ帰るがいい」
大聖堂の冷たい石畳の上で、辺境伯ロルフから突然「婚姻は最初から無かった」と宣告された子爵家次女のエリシア。実家にも見放され、身重の体で王都の旧市街へ追放された彼女は、絶望のどん底で愛娘クララを出産する。
生き抜くために針と糸を握ったエリシアは、持ち前の技術で不思議な力を持つ「祝布(しゅくふ)」を織り上げる職人として立ち上がる。施しではなく「仕事」として正当な対価を払い、決して土足で踏み込んでこない救恤院の監督官リュシアンの温かい優しさに触れエリシアは少しずつ人間らしい心と笑顔を取り戻していった。
しかし五年後。辺境を襲った疫病を救うための緊急要請を通じ、エリシアは冷酷だった元夫ロルフと再会してしまう。しかも隣にいる娘の青い瞳は彼と瓜二つだった。
「すまない。私は父としての責任を果たす」
かつての合理主義の塊だった元夫は、自らの過ちを深く悔い、家の権益を捨ててでも母子を守る「強固な盾」になろうとする。娘のクララもまた、危機から救ってくれた彼を「パパ」と呼び始めてしまい……。
だが、どんなに後悔されても、どんなに身を挺して守られても、一度完全に壊された関係が元に戻ることは絶対にない。エリシアが真の伴侶として選ぶのは、凍えた心を溶かし、温かい日常を共に歩んでくれたリュシアンただ一人だった。
これは、全てを奪われた一人の女性が母として力強く成長し誰にも脅かされることのない「本物の家族」と「静かで確かな幸福」を自分の手で選び取るまでの物語。
愛された側妃と、愛されなかった正妃
編端みどり
恋愛
隣国から嫁いだ正妃は、夫に全く相手にされない。
夫が愛しているのは、美人で妖艶な側妃だけ。
連れて来た使用人はいつの間にか入れ替えられ、味方がいなくなり、全てを諦めていた正妃は、ある日側妃に子が産まれたと知った。自分の子として育てろと無茶振りをした国王と違い、産まれたばかりの赤ん坊は可愛らしかった。
正妃は、子育てを通じて強く逞しくなり、夫を切り捨てると決めた。
※カクヨムさんにも掲載中
※ 『※』があるところは、血の流れるシーンがあります
※センシティブな表現があります。血縁を重視している世界観のためです。このような考え方を肯定するものではありません。不快な表現があればご指摘下さい。
復讐のための五つの方法
炭田おと
恋愛
皇后として皇帝カエキリウスのもとに嫁いだイネスは、カエキリウスに愛人ルジェナがいることを知った。皇宮ではルジェナが権威を誇示していて、イネスは肩身が狭い思いをすることになる。
それでも耐えていたイネスだったが、父親に反逆の罪を着せられ、家族も、彼女自身も、処断されることが決まった。
グレゴリウス卿の手を借りて、一人生き残ったイネスは復讐を誓う。
72話で完結です。
【完結】私を捨てた皆様、どうぞその選択を後悔なさってください 〜婚約破棄された令嬢の、遅すぎる謝罪はお断りです〜
くろねこ
恋愛
王太子の婚約者として尽くしてきた公爵令嬢エリシアは、ある日突然、身に覚えのない罪で断罪され婚約破棄を言い渡される。
味方だと思っていた家族も友人も、誰一人として彼女を庇わなかった。
――けれど、彼らは知らなかった。
彼女こそが国を支えていた“本当の功労者”だったことを。
すべてを失ったはずの令嬢が選んだのは、
復讐ではなく「関わらない」という選択。
だがその選択こそが、彼らにとって最も残酷な“ざまぁ”の始まりだった。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる