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アッシュという男
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「……………ふぅ………何かお湯に浸かるのも久しぶり………」
湯船に浸かるのは贅沢だった。干ばつで贅沢な事は憚られ、身体はこの2年程、濡らしたタオルで拭くだけに留めていた。
―――首輪……外せる時は結婚させられるのね………選べる、とあの人は言ってたけど、処女か処女じゃない、というだけで、私の価値変わるんじゃないの?
グレイシャーランド国で、処女の希少価値が変わるかは分からない。だが、ミレーユが育った国は結婚迄純血は望まれる。それが貴族であるならば。
身体を洗い、ミレーユは風呂場を出る。
「…………あ……服持って来るの忘れた……」
仕方なく、アッシュの服を再び羽織り、風呂場を出たミレーユに視線を釘付けにするアッシュ。
「は?服持ってかなかったのか?」
「忘れて入っちゃって…………今から着替えるわ……」
「あ、いや……別にそれでもいいが……」
「…………私は、わざわざ貴方の欲求不満の消費品になる気はないの」
「…………言うなぁ……」
「…………服は………と………」
―――え?………シャツに負けず劣らすの上質な布………この人、て金持ちな訳?こんな山小屋に住んでるのに………
ミレーユは、アッシュから離れたくなり、服を一着だけ剥ぎ取り、風呂場へ再び入る。
「…………やっぱり……着心地いい………」
何者かなんて分からない。分かっているのは名前だけだ。
―――何者?あの男……
とりあえず、ワンピースを着て出るミレーユ。
「お、似合うじゃないか………昨日着ていた服はお前には似合ってなかったからな………鮮やかな色の方がお前には合う」
「……………あ、ありがとう………」
褒められる事等、ミレーユには経験があまり無い。見た目の上辺だけの褒め言葉は数多くあった。ミレーユの内面を知るのはもう家族だけだ。友人の村娘達でさえもミレーユの見目を羨ましがり、知的な事には触れられないまま8年を辺境の村で過ごす。
アッシュも今見目の良さを褒めたが、ミレーユが好きな色が分かっていたかの様に、服を用意した事も嬉しくて素直に、感謝を述べた。
「夕飯迄まだ時間あるな………街でお前が必要な物でも揃えるか……身体が動くなら?」
「…………う、動けるわよ!なめないでよね!農民を!」
「プッ………やっぱりお前面白いわ」
「面白いなんて、言われた事も無いわ……」
「そうか…………ならお前の初めての経験だな」
「っ!!」
昨日の今日で、初体験を意図する言葉を言われ、顔を赤らめたミレーユ。それを見たアッシュは、またも笑い飛ばす。
「ははははははっ!何純情ぶってんだ!………まぁ、昨日迄は処女だったしな……」
「煩い!!」
笑いを堪えながら、アッシュはミレーユを山小屋から連れ出し、馬に乗せる。
「また目隠しするの?」
「…………しねぇよ………目隠ししたのは砦からここ迄の道を教える訳にいかなかっただけだ」
「…………ふ~ん」
「何だ?」
「…………『ふ~ん』て、言っただけです~」
「………あ、なんかムカつく………」
「それは良かった」
「…………んにゃろ!」
「!!きゃぁっ!!………擽り止めてっ!!」
「こら!デカイ声出したら馬がっ!!」
ミレーユの声で馬が驚き、急にスピードを上げて走り出す。だが、暫くしてアッシュの手綱捌きで、直ぐに落ち着く。
「………っとに………振り落とされるだろうが……大丈夫か?」
「だって………貴方が擽るから………」
「…………ま、そうだったな……夜覚えとけよ……」
「…………え?」
「毎日抱くって言ったろ………」
「…………わ、私……まだ辛いなぁ…………」
「それだけ口達者なら、よく喘ぐだろうなぁ……」
馬に乗りながら、ミレーユを抱き止める腕は優しい。馬が走り出した事にも怒る事もなく、寧ろ気遣うアッシュ。
何故か、心も擽ったくてミレーユは大人しく馬に乗っていた。
「着いたぞ」
活気溢れた街が見える。山小屋を出ると森と崖だが、山を降りて行くと、賑わう街がミレーユの眼下に広がった。
「凄い!久しぶりよ………こんなに賑わう街は!」
「お前が馬に1人で乗れるなら、1人で買い物に行ってもいいぞ」
「…………やめておく………それは……8年以上自分で手綱持った事ないもの……」
「………ミレーユは何歳だ?今」
「18歳」
「……………10歳の子供の農民が馬に乗れる余裕なんてあるのか?」
「………え?」
「だってそうだろ…………農民の子供なら遊ぶか家の手伝いで畑仕事だろ……お前の国なら農民達に勉強の場等与えられる事は無い筈だ………しかも馬に乗る技術等、大人が教えるものだ………農民にそんな余裕等あるか?」
「……………農民になったのは8年前よ……納得してくれるかな?……これ以上詮索しないで………」
アッシュを信用なんて出来ないミレーユ。アッシュも少なからず、隠している事があると、ミレーユは思っている。
アッシュもまた、ミレーユを探っていたのは明確だった。
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