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しおりを挟むアンは、レティシャの侍女から解任された。
リーヒルは、アンを罰しようとしたが、レティシャがそれを阻止する。
「レティシャ、何故そんな甘い事を!」
『いいのです。わたくしから外れ、わたくしや義兄様と関わらないのであれば』
アンは、あの夜から謹慎を命じられている。
アンをリーヒルから守り、レティシャはアンを許したのだ。この騒ぎに、エマもシーラもアンを解任だけでは、とレティシャに申し出たが、レティシャは意見を変えなかった。
押し倒され、痺れ薬を飲まされ、侮辱したアンがした事は決して許さない方が良いと思うのが妥当だと、レティシャも思っている。しかし、アンはあの時点でもう罰を受けていた。
リーヒルに拒否され、平手打ちをされた事は、もうアンはリーヒルに受け入れられない、という罰だ。
近くに寄る事も、リーヒルは許さないし、レティシャに近付く事も許されないのだ。永遠にアンが夢見た事がもう出来る筈がない。
アンとリーヒルの契約も無効になり、アンの実家である男爵家とはアンの行動とは関わっていない為、お咎めは無かったが、アンへの給料は減俸し、侍女で培って来た信用も崩れ、王城で侍女として働き辛くなるだろう。
『もう、アンは罰を受けました。それでいいのです』
「優しくないか?レティシャ」
『わたくしは、義兄様に恋する方々を幼い頃から見てきています。数々の嫌がらせを受けましたわ。だからアンには少々警戒をしてました。わたくしも、アンを止めようと思えば出来たでしょう。でもしませんでした。何故か分かりますか?』
「何だ?」
『義兄様を諦めなさい、と言っても、人の心は変わりません。これ以上、不毛な恋に終止符を付けさせたい、と思いました。彼女はまだ若いですし、わたくし………アンを義兄様に近付いて貰いたくなかったので、昨夜はアンを止めようと思ってましたが、説得も出来ませんでした。アンが義兄様に近付いてしまえば、義兄様は罰を与えるのが分かってましたから』
「当然じゃないか、あの状況なら」
『わたくしは、わたくしの侍女を辞めてくれるだけで良かったんです。でも、アンに説得しても簡単に納得しないだろうな、と思いまして拱いてました。結局、アンは辛くなるだけだ、と伝えたかったけれど』
辞めろと言っても、その理由はリーヒルに近付いて欲しくない、というだけでは解任は出来ないし、レティシャはアンと契約をしていた訳ではない。レティシャには契約に関与する権利も無かったから、自身で辞めて貰うしか無いと思っていた。
あの様な行動をするとは思いもしなかったが、押し倒された時点でもう無理だ、と思ったレティシャ。後は、リーヒルが来ない事を願っていたのだ。来なければ、アンはまた翌日から何食わぬ顔で仕事し、またチャンスを見つけてリーヒルに近付くだろう。
その前に、アンを自分で辞めさせるか、リーヒルにアンとの契約を解除して貰えればと思っていた。アンの経歴に傷付けずに離れて欲しかったからだ。
「レティシャ殿下はいつアンの気持ちにお気付きで?」
エマとシーラもレティシャの書いている言葉を読んでいるので、シーラはレティシャに聞いてきた。シーラはアンの奇行を知っているし、エマも数日前の姿見の件でアンらしくない、と思っていた様で、この話に参加していた。
「あ、そうだ。私も気になっていた」
『姿見の』
「…………あぁ、アレか……でも何故それで?」
『鏡越しで、わたくしとアンが目を合わせた時、睨まれました。よく義兄様に好意のある令嬢がわたくしに向ける目でしたから』
「その一瞬でか!」
「………」
『そうだと確信したのです。その以前の彼女はわたくしと壁を作ってましたので』
「レティシャ殿下の感は鋭いのですね」
アンの事は、もうリーヒルの手からは放す事にし、ヴァンサンに任せるという。
契約解除に関してだけの処理の為、直ぐに何事もなく終結するだろう。
「レティシャの侍女の仕事は暫く大変だが、2人で頼む。もう1人ぐらい欲しいだろうが、レティシャの事で、二年前の事故の事もあるので、信頼性の欠ける者を、レティシャの傍に付けたくなくてな」
「はい、了解しました」
「頑張ります」
「………」
レティシャはエマとシーラに頭を下げる。
2人が居なければ、レティシャも困るからだ。アンの事があった為、レティシャ自身侍女を信用しきれなくなっている。エマとシーラは別だが。
「これで、王太子殿下との契約は解消される。お前の仕事はただの王城の雑用係だ。それでも、昨夜の騒ぎが噂も広まっているから、肩身狭い思いもするだろう………レティシャ殿下から、王城での仕事が無理そうなら、他の邸を紹介して欲しいと仰ってる。だが、直ぐには紹介状も斡旋も出来ない。如何する?実家の男爵家で令嬢として、結婚相手でも探してみたら如何だ?」
「………実家に戻ります……此処に居ると思い出すので」
「そうか……その方がいいかもな。レティシャ殿下の温情だという事を肝に銘じておけ。王太子殿下は、もっと罰を、と仰ったのだ。俺も王太子殿下と同意見だが、レティシャ殿下の意を尊重する事になった。感謝するんだな」
ヴァンサンがアンの部屋に来て、アンの処罰を話に来ていた。
アンも納得し、目の下が荒れていて泣いていたのが分かる。後悔をしている様だった。
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