養子王女の苦悩と蜜月への道標【完結】

Lynx🐈‍⬛

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「毎日来なくても良いのに」
「来ます……お話……したいです」
「………もう……」

 ダーラ王妃も、レティシャが来ると母の顔になり幾分嬉しそうにしている。良心の呵責と向き合っていた苦悩がレティシャからは見られない。

「声が戻りつつあって、安堵してますよ、レティシャ」
「練習、してます……から」

 独房で疲れた表情をするダーラ王妃は、レティシャの頬を撫でた。

「マリサもね、貴女の様に金髪碧眼だったの……マノさんとお会い出来てはいなかったけど、貴女のお母様に貴女は似ているのかしらね?」
「わたくしの……母は……ダーラ王妃……貴女です」
「っ!」
「育ててくれた……のも……教育……してくれた……のも………怒って……くれた……のも……抱き締めて……くれた……のも……」
「………レティシャ……」
「3歳から……ずっと……わたくしのお母様……」

 ずっと壁を感じていた。その壁は案外薄く、レティシャの生命を狙うものでもなかった。馬車の事故も、レティシャは打撲と捻挫、擦り傷だけだ。本当に生命を狙うなら、もっと確実に危険度が高い事をされていたと思っている。
 それは、レティシャしか知らない事だ。生死を彷徨う事迄されてはいなかった。だから壁は薄く感じていたのかもしれない。

「………そうね、貴女はいつも呼んでくれたわね」

 寂しそうに目を虚ろにさせ、ダーラ王妃はレティシャの頬から手を放す。

「レティシャ」
「はい」
「リーヒルを宜しくお願いしますね」
「お母様……」
「あの子はレティシャが居ないと駄目な子だから………あと、オルデン様も頼むわね……わたくしはマリサと会えるかしら……」

 直接ではないにしろ、人を殺めた事の主犯格だ。罪は免れないし、王妃の肩書等無きに等しい。
 覚悟を決めた目だと、レティシャは感じ取った。
 他愛のない話をする事で、気を紛らわせられるかと思い、レティシャは毎日会いに来ているが、レティシャだけでなく、オルデン国王も紛らわせる為なのか、ダーラ王妃に会いに来ていた。

「レティシャも来ていたのか」
「陛下……」
「………わたくし……戻り……ます……」
「………レティシャ、たまには父に会いに来なさい」
「お義父様は……お母様……に会って……下さい」

 レティシャなりに気を利かせ、レティシャは戻っていく。
 オルデン国王もダーラ王妃もそれが分かるのか引き止める事もなかった。

「陛下………長い間、わたくしの勘違いをして申し訳ごさまいませんでした……ご心労掛けたかと存じます」
「…………余も同じ……其方にはただと何度も言うだけで、真相は明かさなかった」
「わたくし……グレイデル公爵家と陛下が政敵なのも存じ上げませんでした」
「言えば辛かろう、と思ってな……だが、そうではなかったな……初めから其方には説明しなければならなかった」

 オルデン国王が王太子時代、弟王子を推す派閥と争っていた。公務で立ち寄った街で暴漢に襲われ、それがグレイデル前公爵の仕業だと知ったのは、首都に戻ってからだったのだが、怪我で倒れていたオルデン国王の傷の手当をしたマノ夫婦に、恩返し出来る物が何も持ち合わせていなかったオルデン国王は、連絡だけ取り合っていたという。自分の身分を隠し、部下の名を借りて手紙を送っていた事は怪しいと思っただろう。
 ダーラ王妃と結婚し、リーヒルが産まれ、その間も近況報告的な手紙での付き合いだったとダーラ王妃に話すオルデン国王。

「マリサが亡くなり、意気消沈していた其方の事が心配で、同じ母としてマノに相談をしていた事もある………侍女と話すよりまた違う意見が聞かせられたら、と思ったのだ……だが、マノ達からの連絡が途絶え、レティシャだけを残し、亡くなったと聞いた時、恩返しの機会がやってきたと思ったのだ」

 身寄りが無かったレティシャを、オルデン国王が引き取る事は簡単だった。孤児院には親が居ない子が多数居り、1人でも里親に出せるなら、と直ぐに引き取れたという。

「本当に恩返しだったのですね」
「引き取ってしまって、本当に良かったのか、とも思っていた……ダーラの苦悩を知っていたからな………レティシャをリーヒルの婚約者にしよう、と言った時、其方は大反対したしな」
「リーヒルは喜びましたけど、わたくしは疑ってましたから……異母兄妹で結婚等と……オルデン様から嫌われたくなくて、渋々でしたし」
「勝手に決めて、理由が異母兄妹ではない、だけでは信用されなかった、という事か………苦労掛けたな」
「…………もう、良いのです……父がオルデン様にした事も、マノさん夫婦を殺害した事も、兄がレティシャにした事も、父の事から兄とわたくしが責任持って罪を償います」
「その事だが、余も責任を取る事にした」
「………え?」
「廃位し、リーヒルを国王にさせる」
「…………オルデン様……」

 オルデン国王は、ダーラ王妃の手を握り締め、目をじっと見つめる。

「良いか?」
「わたくしが言える事はもう何も……」
「其方が極刑になるかは分からん。裁判が行なわれる迄はな……だが、その時に余が国王であるより、グレイデル公爵家の血を引くあの子が終止符を打つ方が良い」
「………わたくしもリーヒルが刑を降すなら、未練等ありません」
「ダーラ……」
「オルデン様……」

 この日、オルデン国王が廃位の意向がある、とシュピーゲル国内にまたも衝撃が走ったのだった。
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