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しおりを挟む大学には行けた麗禾。
晄の強引さで、サボらされるのでは、とは思ったが、晄に勉強が出来るのならその環境で学べる事は学べ、と言われ大学迄送ってくれたのだ。
大学もセキュリティーが万全では無いし、神崎組と敵対する青葉会との抗争が近い、というならば、大学も安全とは言えないのは確かだ。しかし、麗禾の通う大学は、麗禾の父が理事であり、神崎組の縄張りの中心地にあるので、青葉会の組員達はここ迄来れないのだという。それ迄に神崎組の組員が見つけるからなのかもしれない。
「帰りは榊に迎えに来させる」
「…………分かりました」
「明日朝もまた俺が行くから、飯を俺の分の作っておいてくれて良いぞ」
「何で私が貴方の朝食迄作らなきゃならないんですか!」
「良いじゃねぇか…………目立つし俺はもう行く………じゃあな」
「……………はぁ……」
麗禾の通うのは女子大だ。なので、送迎も目立つし、それがいつもは朔也だった送迎が、晄に変わり、更に目立った様だった。
しかも、黒塗りのスモークが張った高級車に乗る麗禾に憧れる学生も少なくない。
「見~た~ぞ~!麗禾!誰?誰?いつものわんこ系イケメンじゃないじゃん!」
「…………う、うん……おはよう……」
「ねぇ、誰よ?新しいボディーガード?それにしも、ただならぬ雰囲気のイケメンだったわね」
「…………お見合い、させられたの………で、その相手…………朝の送迎をしてくれる、て言われて、今迄の人は下ろされた、というか………」
本当の事は全て言えないが、端折れば言葉通りなので、麗禾は言葉を選んで友人に話した。
「結婚するの?」
「しない」
「…………でも、送迎してくれてるじゃん」
「勝手に話を進められてるだけよ………私はちゃんと相手に意思表示はしてるんだけど、相手が…………ね……」
「へぇ~、じゃあ惚れられちゃったんだ、麗禾」
「まさか…………好かれては無いわ……仕方無く、よ…………お互いにね」
「政略結婚、て事?」
「うん、そう………」
資産家の娘と思われている麗禾なので、晄も資産家だと思ってくれた様だ。実際に資産家ではあるが極道なので、公な事は言える訳ではない。
「結婚式には呼んでね」
「しないってば!」
「何をしてる人?」
「…………え?仕事?」
「うん」
「…………駅前にあるホテルで働いてる人」
「駅前?………まさかラブホ……」
「ち、違うわよ!ローズパレスホテルの支配人」
「え!す、凄いじゃない!彼処、予約取るのも難しいってホテルじゃない!」
「そうなの?私の両親はよく泊まりに行ってるみたいだけど」
「シングルやダブルは大した金額じゃないけど、スイートルームで幾らすると………」
「ごめん、金額は知らないかな」
専ら、宿泊するのは両親だけで、麗禾は泊まった事も無ければ、遊びの為に金を使った事は無い。小遣いは殆ど使わず、家を出る為に貯めているのだ。
趣味も無い麗禾は、家を出て自分の手で生活する為に、資格を取り困らない程度の生活が出来ればそれで良い。両親に許される訳は無いと分かってはいるが、極道から離れられなければ、両親に殺されても良いと迄覚悟している。
「これだから、裕福な娘は……」
「……………」
裕福なのは両親で、麗禾はその恩恵を受けても、心は裕福では無いのだ。両親の愛情も屈折し、優しい言葉等も無く、教育だけは熱心だったから、大学に通えている。家族3人で旅行もテーマパークさえも連れて行って貰った事も、買い物さえも経験が無いのだ。麗禾は独り暮らしを始めてから、初めてコンビニに行ったり、スーパーに行ったりが楽しいと思ったぐらいだ。
パソコンやスマートフォンを持つ様になれば、ネットショッピングも出来る様にもなったが、麗禾は外に出て買い物をする方が好きなのに、常に護衛で朔也が付いて回っていて、心底楽しめた事は無い。
晄とのデートは、それと比べたら楽しかったと思うが、やはり理想の相手には晄はなれない。
「早く教室行こ………講義始まっちゃう」
「あ、待ってよ!麗禾!」
大学での授業が終わり、大学の門の所で榊が待っていた。
「お疲れ様でした、お嬢」
「榊さん、そのお嬢って呼び方止めて貰えませんか?………嫌なんです……」
「分かりました、では麗禾さんとお呼びしても?」
「はい、それで」
車の後部座席が開けられ、麗禾は乗り込もうとする。
だが、その車に立ち塞がる様に、人が飛び出して来た。
「お嬢!」
「麗禾さん、此方へ!」
「きゃっ!」
誰が来たのかも目視出来ず、榊に庇われ、すっぽり麗禾は包み込まれた。
「お嬢!俺っす!」
聞き覚えのある若い男の声に、麗禾は榊を避けて顔を出して、やっと目視でも確認が取れた。
「さ、朔也?…………如何して此方に……」
榊の表情は険しいままで、榊に麗禾と朔也との距離を取らせられてしまったが、榊の足元に土下座して迄、朔也は頭を下げている。
「頼んます!お嬢………俺をお嬢の元に戻して下さい!」
「麗禾さん、気にせず車にお乗り下さい」
「え………でも………朔也と話をするぐらいは………顔を上げて、朔也………」
「麗禾さん………貴女は婚約者が居る身……貴女の周りに、邪魔する若い男は排除せよ、と申し付けられています」
「黒龍さん………そんな事迄指示してるんですか?」
「お忘れですか?貴女のマンションの盗聴器………」
「っ!」
麗禾の身体がピクッと跳ねる。誰が設置したのかもまだ麗禾は知らないのだ。
しかも、榊の口振りから、予想はされているみたいだった。そして、その話をした途端、朔也の顔が青褪めていたのを、麗禾と榊は見逃さなかった。
「朔也…………まさか……貴方………」
「し、失礼しました!か、帰ります!」
「待って!朔也!」
「駄目です!麗禾さん!他の者に追わせます!」
「…………は、話はさせて下さい……お願いです」
「…………晄さんが、何と言うか………俺は責任持てませんよ」
「好かれて無いし、好きな人でも無い人に言われたって、怖くもありません。言いたかったら言わせておけば良いんです」
「…………知りませんからね………何処かに寄られて帰られますか?」
「…………帰るだけで良いです」
「分かりました」
晄に怒られる筋合いは無い。
朔也は、長く麗禾のボディーガードだったのだ。本人が麗禾のボディーガードに戻りたい、と言うならば、また戻して欲しいとは思うぐらい、友人の様に感じているからこそだ。
晄や榊が懸念しているかもしれない、盗聴器を仕掛けた相手が朔也なら、朔也をボディーガードに戻す事は麗禾も出来ないし、朔也を今迄の様な目ではもう見えないだろう。
とりあえず、朔也に確認してからの決断になる。
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