二毛猫タケのご機嫌な一日

ria

文字の大きさ
3 / 3

3.西の空へ

しおりを挟む
――ネコタマとは猫の魂。死後一日だけ、御仏みほとけの慈悲により、何でも望みが叶えられる――そう聞いたタケは驚いた。とてもすぐには信じられない。

しかし、続くヒメの言葉に、心が騒ぎ出した。
「千代というお方に、随分可愛がられていたのですね。心残りがあってはいけません。最後に一目、会っていかれてはいかがです?」


急いで家に帰ってみると、タケの体はすでに、中庭のツツジの横に埋められていた。
千代と、千代の母親おっかさんが、二人して手を合わせている。

母親おっかさんがシンミリと言った。
「きっと、『石見銀山いわみぎんざん猫いらず』で死んだネズミを、食べたんだよ。この頃歳を取って、ネズミを捕らなくなったと親父おやじさんが言ったのを、気にしてたんじゃないかねぇ」

「……バカだね。別に何の役にも立たなくたって……側にいてくれるだけで良かったのに」
千代はそこで、グスンと鼻をすすり上げた。
「タケや。私は、お前がいてくれて楽しかったよ。ありがとう。ゆっくりお休みね」

涙の跡のある千代の顔を、タケは長い間見つめていた。

やがて二人が家の中へ入って行くのを見送って、タケは言った。
「……うん。千代ちゃん、おいらも楽しかった。名残惜しいけど、呼ばれてるような気がするから、もう行くね」

そうして、タケの魂は、夕焼けの光が射す西の空へと昇って行った。




「やれやれ、無事に成仏したようだね」
三匹の猫から報告を聞き、ヒメは鼻から息を漏らしながらつぶやいた。

「全く。人間にも知恵がついて、歳取った猫が化けて猫又になると知られちまったおかげで、おちおち長生きも出来ないなんてね」

ヒメは自分のフサフサとした白いシッポを、丁寧に舌でなでつけた。
普段は妖術で隠している、二股に別れたシッポだ。

「これ以上、猫を気味悪がる人間が増えちゃあ、かなわない。せいぜい猫の魂が悪さをしないよう、これからも見張っていなくっちゃ。ほら、お前たち。今度は、お武家屋敷の方を見回っておいで」

「へーい」
三匹の猫はそれぞれしっぽをピンと立て、お寺の境内を元気良く飛び出して行った。
しおりを挟む
感想 0

この作品の感想を投稿する

あなたにおすすめの小説

どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~

さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」 あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。 弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。 弟とは凄く仲が良いの! それはそれはものすごく‥‥‥ 「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」 そんな関係のあたしたち。 でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥ 「うそっ! お腹が出て来てる!?」 お姉ちゃんの秘密の悩みです。

夫婦交換

山田森湖
恋愛
好奇心から始まった一週間の“夫婦交換”。そこで出会った新鮮なときめき

冷遇妃マリアベルの監視報告書

Mag_Mel
ファンタジー
シルフィード王国に敗戦国ソラリから献上されたのは、"太陽の姫"と讃えられた妹ではなく、悪女と噂される姉、マリアベル。 第一王子の四番目の妃として迎えられた彼女は、王宮の片隅に追いやられ、嘲笑と陰湿な仕打ちに晒され続けていた。 そんな折、「王家の影」は第三王子セドリックよりマリアベルの監視業務を命じられる。年若い影が記す報告書には、ただ静かに耐え続け、死を待つかのように振舞うひとりの女の姿があった。 王位継承争いと策謀が渦巻く王宮で、冷遇妃の運命は思わぬ方向へと狂い始める――。 (小説家になろう様にも投稿しています)

主人公の恋敵として夫に処刑される王妃として転生した私は夫になる男との結婚を阻止します

白雪の雫
ファンタジー
突然ですが質問です。 あなたは【真実の愛】を信じますか? そう聞かれたら私は『いいえ!』『No!』と答える。 だって・・・そうでしょ? ジュリアーノ王太子の(名目上の)父親である若かりし頃の陛下曰く「私と彼女は真実の愛で結ばれている」という何が何だか訳の分からない理屈で、婚約者だった大臣の姫ではなく平民の女を妃にしたのよ!? それだけではない。 何と平民から王妃になった女は庭師と不倫して不義の子を儲け、その不義の子ことジュリアーノは陛下が側室にも成れない身分の低い女が産んだ息子のユーリアを後宮に入れて妃のように扱っているのよーーーっ!!! 私とジュリアーノの結婚は王太子の後見になって欲しいと陛下から土下座をされてまで請われたもの。 それなのに・・・ジュリアーノは私を後宮の片隅に追いやりユーリアと毎晩「アッー!」をしている。 しかも! ジュリアーノはユーリアと「アッー!」をするにしてもベルフィーネという存在が邪魔という理由だけで、正式な王太子妃である私を車裂きの刑にしやがるのよ!!! マジかーーーっ!!! 前世は腐女子であるが会社では働く女性向けの商品開発に携わっていた私は【夢色の恋人達】というBLゲームの、悪役と位置づけられている王太子妃のベルフィーネに転生していたのよーーーっ!!! 思い付きで書いたので、ガバガバ設定+矛盾がある+ご都合主義。 世界観、建築物や衣装等は古代ギリシャ・ローマ神話、古代バビロニアをベースにしたファンタジー、ベルフィーネの一人称は『私』と書いて『わたくし』です。

敗戦国の姫は、敵国将軍に掠奪される

clayclay
恋愛
架空の国アルバ国は、ブリタニア国に侵略され、国は壊滅状態となる。 状況を打破するため、アルバ国王は娘のソフィアに、ブリタニア国使者への「接待」を命じたが……。

妻からの手紙~18年の後悔を添えて~

Mio
ファンタジー
妻から手紙が来た。 妻が死んで18年目の今日。 息子の誕生日。 「お誕生日おめでとう、ルカ!愛してるわ。エミリア・シェラード」 息子は…17年前に死んだ。 手紙はもう一通あった。 俺はその手紙を読んで、一生分の後悔をした。 ------------------------------

女神に頼まれましたけど

実川えむ
ファンタジー
雷が光る中、催される、卒業パーティー。 その主役の一人である王太子が、肩までのストレートの金髪をかきあげながら、鼻を鳴らして見下ろす。 「リザベーテ、私、オーガスタス・グリフィン・ロウセルは、貴様との婚約を破棄すっ……!?」 ドンガラガッシャーン! 「ひぃぃっ!?」 情けない叫びとともに、婚約破棄劇場は始まった。 ※王道の『婚約破棄』モノが書きたかった…… ※ざまぁ要素は後日談にする予定……

愚者による愚行と愚策の結果……《完結》

アーエル
ファンタジー
その愚者は無知だった。 それが転落の始まり……ではなかった。 本当の愚者は誰だったのか。 誰を相手にしていたのか。 後悔は……してもし足りない。 全13話 ‪☆他社でも公開します

処理中です...