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3.西の空へ
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――ネコタマとは猫の魂。死後一日だけ、御仏の慈悲により、何でも望みが叶えられる――そう聞いたタケは驚いた。とてもすぐには信じられない。
しかし、続くヒメの言葉に、心が騒ぎ出した。
「千代というお方に、随分可愛がられていたのですね。心残りがあってはいけません。最後に一目、会っていかれてはいかがです?」
急いで家に帰ってみると、タケの体はすでに、中庭のツツジの横に埋められていた。
千代と、千代の母親が、二人して手を合わせている。
母親がシンミリと言った。
「きっと、『石見銀山猫いらず』で死んだネズミを、食べたんだよ。この頃歳を取って、ネズミを捕らなくなったと親父さんが言ったのを、気にしてたんじゃないかねぇ」
「……バカだね。別に何の役にも立たなくたって……側にいてくれるだけで良かったのに」
千代はそこで、グスンと鼻をすすり上げた。
「タケや。私は、お前がいてくれて楽しかったよ。ありがとう。ゆっくりお休みね」
涙の跡のある千代の顔を、タケは長い間見つめていた。
やがて二人が家の中へ入って行くのを見送って、タケは言った。
「……うん。千代ちゃん、おいらも楽しかった。名残惜しいけど、呼ばれてるような気がするから、もう行くね」
そうして、タケの魂は、夕焼けの光が射す西の空へと昇って行った。
「やれやれ、無事に成仏したようだね」
三匹の猫から報告を聞き、ヒメは鼻から息を漏らしながらつぶやいた。
「全く。人間にも知恵がついて、歳取った猫が化けて猫又になると知られちまったおかげで、おちおち長生きも出来ないなんてね」
ヒメは自分のフサフサとした白いシッポを、丁寧に舌でなでつけた。
普段は妖術で隠している、二股に別れたシッポだ。
「これ以上、猫を気味悪がる人間が増えちゃあ、かなわない。せいぜい猫の魂が悪さをしないよう、これからも見張っていなくっちゃ。ほら、お前たち。今度は、お武家屋敷の方を見回っておいで」
「へーい」
三匹の猫はそれぞれしっぽをピンと立て、お寺の境内を元気良く飛び出して行った。
しかし、続くヒメの言葉に、心が騒ぎ出した。
「千代というお方に、随分可愛がられていたのですね。心残りがあってはいけません。最後に一目、会っていかれてはいかがです?」
急いで家に帰ってみると、タケの体はすでに、中庭のツツジの横に埋められていた。
千代と、千代の母親が、二人して手を合わせている。
母親がシンミリと言った。
「きっと、『石見銀山猫いらず』で死んだネズミを、食べたんだよ。この頃歳を取って、ネズミを捕らなくなったと親父さんが言ったのを、気にしてたんじゃないかねぇ」
「……バカだね。別に何の役にも立たなくたって……側にいてくれるだけで良かったのに」
千代はそこで、グスンと鼻をすすり上げた。
「タケや。私は、お前がいてくれて楽しかったよ。ありがとう。ゆっくりお休みね」
涙の跡のある千代の顔を、タケは長い間見つめていた。
やがて二人が家の中へ入って行くのを見送って、タケは言った。
「……うん。千代ちゃん、おいらも楽しかった。名残惜しいけど、呼ばれてるような気がするから、もう行くね」
そうして、タケの魂は、夕焼けの光が射す西の空へと昇って行った。
「やれやれ、無事に成仏したようだね」
三匹の猫から報告を聞き、ヒメは鼻から息を漏らしながらつぶやいた。
「全く。人間にも知恵がついて、歳取った猫が化けて猫又になると知られちまったおかげで、おちおち長生きも出来ないなんてね」
ヒメは自分のフサフサとした白いシッポを、丁寧に舌でなでつけた。
普段は妖術で隠している、二股に別れたシッポだ。
「これ以上、猫を気味悪がる人間が増えちゃあ、かなわない。せいぜい猫の魂が悪さをしないよう、これからも見張っていなくっちゃ。ほら、お前たち。今度は、お武家屋敷の方を見回っておいで」
「へーい」
三匹の猫はそれぞれしっぽをピンと立て、お寺の境内を元気良く飛び出して行った。
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