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第2部.アドニア〜リムウル 第1章
11.異端
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「いいえ。私の魔力のことは、母しか知りません。
アドニアでは魔力など無用のもの、むしろ異端ですから。
王はたまたま、護衛隊にいた私があなた様の乳母だったユリアの息子と知って、あなた様が少しでも安心されるよう、とのご配慮から私を選ばれたのでしょう」
異端という言葉が心に重かった。
その言葉に凝縮された蒼い孤独の陰に、自分が味わってきた16年間の孤独以上のものを感じて、なぜかアイリーンは激しく胸が痛むのを感じた。
「……私にとっては、信じられないくらいの幸運ね……。でも、エリアード、あなたにとっては……」
アイリーンはうつむいた。
彼があまりアイリーンにうちとけた様子を見せなかったのは、きっと本当は、自分に……あるいはエンドルーアに、かかわりたくなかったからではないかとアイリーンは思ったのだ。
エリアードはどこかいらだちにも似た不可解な思いで、そんな彼女を見つめた。
“……どうしてこの少女はこうも、自分のことより人のことを気にかけるのだろう……?
さっきも、幻獣を恐れて真っ青になりながら、私に逃げろなどと言っていたようだし……”
「……アイリーン様、アドニアで、あなたをお守りできるのは私しかいない。
ですが……ええ、恐ろしいですよ。
エンドルーアの王族の魔力は強大です。
末流であるわたしの魔力など足下にも及ばない。
それに臣下にも魔力を持つ者が、おそらく大勢いる。
どんなに強い魔力に恵まれた者であっても、一人でエンドルーアの勢力に立ち向かうのは無茶というものです。
王家に伝わる力の泉、フレイヤの涙でも手に入れない限りは」
アイリーンは愕然として、エリアードを振り返った。
「……!」
思っていた以上に、自分を見下ろす彼の顔が近かったので驚いて、アイリーンはあわててまた前を向いた。
「……それ、私が持っていたけど、ギメリックに取られてしまったわ。なぜ、ギメリックは私を襲ってくるの?
フレイヤの涙はもう彼の手の内なのに……」
「……エンドルーアの狂王は、魔力を持つ者を全て自分の配下に置いて支配しようとしているのです。
捕らえて自分たちのために魔力を利用するか、従わなければ殺す。
魔力を独り占めし、この大陸の覇者となる目的もあるでしょうが……恐怖に囚われているのでしょう。
自分たちに敵対する勢力に魔力を与えてはならないと……」
「でも、不思議だわ。ギメリックは最初は、石を奪うことだけが目的のようだった……」
「あなたがこれほどの魔力をお持ちだとは、誰も知らなかった。
エンドルーア建国以来、魔力を受け継ぐ血統は、王家によって厳重に管理されて来ましたから。
国外に流出しないよう、気を遣ってきたのです。
あなたの母上、フェリシア様は、魔力は持っておられなかった、と聞いています。
だからこそ、国外に輿入れを許されたと。
しかしこうなって見ると、それは何かの間違いだったのでしょう。
ただ、何者かが、あなたの魔力を封じていたことは確かです。
エンドルーア王室では普通に行われていたことです。
しかし16歳の誕生日を過ぎると、全ての封印を破って、魔力は目覚めてしまいますから……。
あなたはもう何度か、無意識に魔力を使われましたね。
その魔力の気配をかぎつけて、奴ら……エンドルーアの手の者があなたをねらってやって来るのです」
では……やはり姉は……自分のせいで殺されたのだ。
エンドルーアとも魔力とも、何の関係もないのに……巻き添えになって……。
「……アイリーン様?」
うつむいたまま、黙り込んでしまったアイリーンにエリアードが声をかける。
アイリーンの瞳から、水晶のように透明なものがハラハラとこぼれ落ち、彼女の白い頬を濡らしていた。
「……お姉様のこと、好きではなかったわ。だけど、私のせいで死んでしまうなんて……そんなの、思ったこともなかった……」
少々照れくさそうだったあの夜の彼女を思い出す。
「倒れた私を心配して、見に来てくれたんだわ……それなのに……それが、あだになって……」
とうとうアイリーンは両手に顔を埋めた。
力強い腕が慰めるように、後ろからそっと抱きしめてくるのを感じたが、アイリーンの心は安らがなかった。
突然アイリーンは、至近距離であることもかまわず振り向いた。
「私に魔力の使い方を教えて……!
そしたら私、自分で自分を守れるわ、あなたにももう迷惑をかけない、誰も巻き込まない……!」
うるんだ瞳に、ひたむきな思いを込めて見上げてくるアイリーンに、エリアードは自分でも思ってもいなかった衝動に突き動かされ、その壊れそうに華奢な肩を強く抱きしめた。
「……どうして、そんなに何もかも、一人で背負い込もうとなさるのですか……?
こんな細腕で、何ができると言うのです……。
迷惑などではありません。
私はエンドルーアの民の血を引く者ですよ。
あなた様を守るのが私の役目。
今は剣士として忠誠を捧げるアドニアの、王とレスター様にもそう誓いました……」
彼の抱擁に驚いたアイリーンは、しかし狭い馬上ではむしろ安定感のあるその姿勢に、おとなしく体を預けていた。
ただ、心の中でつぶやいた。
“ダメなの……守られるだけじゃ……。
だって私はティレルを助けたいんだもの……”
アドニアでは魔力など無用のもの、むしろ異端ですから。
王はたまたま、護衛隊にいた私があなた様の乳母だったユリアの息子と知って、あなた様が少しでも安心されるよう、とのご配慮から私を選ばれたのでしょう」
異端という言葉が心に重かった。
その言葉に凝縮された蒼い孤独の陰に、自分が味わってきた16年間の孤独以上のものを感じて、なぜかアイリーンは激しく胸が痛むのを感じた。
「……私にとっては、信じられないくらいの幸運ね……。でも、エリアード、あなたにとっては……」
アイリーンはうつむいた。
彼があまりアイリーンにうちとけた様子を見せなかったのは、きっと本当は、自分に……あるいはエンドルーアに、かかわりたくなかったからではないかとアイリーンは思ったのだ。
エリアードはどこかいらだちにも似た不可解な思いで、そんな彼女を見つめた。
“……どうしてこの少女はこうも、自分のことより人のことを気にかけるのだろう……?
さっきも、幻獣を恐れて真っ青になりながら、私に逃げろなどと言っていたようだし……”
「……アイリーン様、アドニアで、あなたをお守りできるのは私しかいない。
ですが……ええ、恐ろしいですよ。
エンドルーアの王族の魔力は強大です。
末流であるわたしの魔力など足下にも及ばない。
それに臣下にも魔力を持つ者が、おそらく大勢いる。
どんなに強い魔力に恵まれた者であっても、一人でエンドルーアの勢力に立ち向かうのは無茶というものです。
王家に伝わる力の泉、フレイヤの涙でも手に入れない限りは」
アイリーンは愕然として、エリアードを振り返った。
「……!」
思っていた以上に、自分を見下ろす彼の顔が近かったので驚いて、アイリーンはあわててまた前を向いた。
「……それ、私が持っていたけど、ギメリックに取られてしまったわ。なぜ、ギメリックは私を襲ってくるの?
フレイヤの涙はもう彼の手の内なのに……」
「……エンドルーアの狂王は、魔力を持つ者を全て自分の配下に置いて支配しようとしているのです。
捕らえて自分たちのために魔力を利用するか、従わなければ殺す。
魔力を独り占めし、この大陸の覇者となる目的もあるでしょうが……恐怖に囚われているのでしょう。
自分たちに敵対する勢力に魔力を与えてはならないと……」
「でも、不思議だわ。ギメリックは最初は、石を奪うことだけが目的のようだった……」
「あなたがこれほどの魔力をお持ちだとは、誰も知らなかった。
エンドルーア建国以来、魔力を受け継ぐ血統は、王家によって厳重に管理されて来ましたから。
国外に流出しないよう、気を遣ってきたのです。
あなたの母上、フェリシア様は、魔力は持っておられなかった、と聞いています。
だからこそ、国外に輿入れを許されたと。
しかしこうなって見ると、それは何かの間違いだったのでしょう。
ただ、何者かが、あなたの魔力を封じていたことは確かです。
エンドルーア王室では普通に行われていたことです。
しかし16歳の誕生日を過ぎると、全ての封印を破って、魔力は目覚めてしまいますから……。
あなたはもう何度か、無意識に魔力を使われましたね。
その魔力の気配をかぎつけて、奴ら……エンドルーアの手の者があなたをねらってやって来るのです」
では……やはり姉は……自分のせいで殺されたのだ。
エンドルーアとも魔力とも、何の関係もないのに……巻き添えになって……。
「……アイリーン様?」
うつむいたまま、黙り込んでしまったアイリーンにエリアードが声をかける。
アイリーンの瞳から、水晶のように透明なものがハラハラとこぼれ落ち、彼女の白い頬を濡らしていた。
「……お姉様のこと、好きではなかったわ。だけど、私のせいで死んでしまうなんて……そんなの、思ったこともなかった……」
少々照れくさそうだったあの夜の彼女を思い出す。
「倒れた私を心配して、見に来てくれたんだわ……それなのに……それが、あだになって……」
とうとうアイリーンは両手に顔を埋めた。
力強い腕が慰めるように、後ろからそっと抱きしめてくるのを感じたが、アイリーンの心は安らがなかった。
突然アイリーンは、至近距離であることもかまわず振り向いた。
「私に魔力の使い方を教えて……!
そしたら私、自分で自分を守れるわ、あなたにももう迷惑をかけない、誰も巻き込まない……!」
うるんだ瞳に、ひたむきな思いを込めて見上げてくるアイリーンに、エリアードは自分でも思ってもいなかった衝動に突き動かされ、その壊れそうに華奢な肩を強く抱きしめた。
「……どうして、そんなに何もかも、一人で背負い込もうとなさるのですか……?
こんな細腕で、何ができると言うのです……。
迷惑などではありません。
私はエンドルーアの民の血を引く者ですよ。
あなた様を守るのが私の役目。
今は剣士として忠誠を捧げるアドニアの、王とレスター様にもそう誓いました……」
彼の抱擁に驚いたアイリーンは、しかし狭い馬上ではむしろ安定感のあるその姿勢に、おとなしく体を預けていた。
ただ、心の中でつぶやいた。
“ダメなの……守られるだけじゃ……。
だって私はティレルを助けたいんだもの……”
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