薄明宮の奪還

ria

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第2部.アドニア〜リムウル 第1章

12.御前会議

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時は少しさかのぼって、アイリーンが城を出た夜の、次の朝。

御前会議は紛糾を極めていた。
誰もが頭を抱えたり、わめいたりしていた。無理もない。
災厄としか言いようがなかった。

第二王子の后にと望まれた姫が魔女で殺人犯だったなどと、どう隣国に説明したらいいのだ。
しかも捕まえておいたはずが、魔法を使って兵を眠らせ、牢を破って逃げてしまった。

すぐさま討伐隊を出すべきだと言う者、いやこのままいなくなってくれればそれでよいではないか、様子を見ようと言う者、隣国への使いはどうするのだと言う者……様々だった。

その喧噪を前に、静かにしているのは二人だけだった。
王は疲れと悲しみのにじんだ目を伏せ、黙り込んでいる。
そして、末席近くの目立たない席で、レスターは腕を組んでうつむき、目を閉じていた。


「……ですな。レスター様は、どう思われますか?」
隣に座ったケストレル将軍が話を振った。

「……?」
レスターが何の反応も見せないことをいぶかしみ、老将軍が顔を寄せる。

「レスター様? ……レスター様!」
彼はあわてた様子で声をひそめ、レスターの膝に手を置いて揺さぶった。

「うん?……ああ……」
レスターは薄目を開いて彼をチラリと見ると、すぐにまた目を閉じた。

「眠いんだよ、ほっといてくれ。……近頃の姫君はタフでね……」

将軍はあきれて二の句が継げない、という顔をした。
城内で存分に浮き名を流しているレスターのこと、どういう事情かは想像がつく、とばかりに。


ところが……ついに、いたずらに続けても何も決まらないと一旦会議を終わらせることになると、レスターはパッと立ち上がり、忙しそうに真っ先に出て行った。

隣の将軍がますますあきれているのにも、おかまいなしだった。

「さぁ、これで義理も果たした。カモフラージュにもなるだろう……」
渡り廊下で足早に歩を進めつつ、一人、つぶやいた時。

「レスター様!」
背中から声をかけられ、レスターは足を止めた。

一陣の風が吹き過ぎ、彼の緑のマントの端をはためかせる。

その風の行く末を確かめるように、レスターは少し目を細め、中庭に咲く花がハラハラと花びらを散らせるのを眺めて一呼吸置いた。

長年慣れ親しんだ声だ。
顔を見るまでもなく、誰かはわかっている。

レスターがちょっとした使いを頼んだので昨日から別の街へ出かけていた、彼の一の従者ウィリアムだった。
いや、元、一の従者と言うべきだろう。

レスターは笑みを浮かべて振り向いた。
城中の女性を骨抜きにするほどの魅力を湛えたその華やかな笑顔も、この相手にはまるで効果がなく、今はただわざとらしく見えることは承知の上だった。

「やぁ、ウィル。早かったね、もうアストリアから帰ってきたの?」

「レスター様! 私は納得できません、どうしてあなた様の従者の任を解かれてカイウス様付きになど……! 私が何かお気に障ることでもしましたか? おっしゃってください!」

「ああ、ごめん。そういうわけじゃないんだ……」レスターは困ったように言った。

「兄上はかねてから国一番の剣士であるお前をほしがってたんだよ」

「そんなことはわかってます! それに今始まったことじゃないでしょう! 私が聞いているのは、なぜ、あなたがそれを受諾したか、ということです!」

普段、常に冷静・沈着なこの男が、めったに見せない激しい怒りと動揺を隠そうともしないその姿に、レスターは鮮やかなブルーグリーンの瞳をわずかに曇らせた。

「……わかった。きちんと話すよ。こんなところで立ち話できることじゃない、ぼくの部屋へ行こう」

ウィリアムの先に立って歩き出しながら、レスターは一人、口元に苦笑を浮かべていた。

“従者を持つような身分じゃなくなる予定だった、とは今この状況では口が裂けても言えないな……”
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