薄明宮の奪還

ria

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第3部.リムウル 第1章

5.抱き枕

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腕の中のアイリーンが身じろぎをしたので、ギメリックは目を覚ました。

追われる生活が長いため、眠りは常に極端に浅い。

ほんのわずかな物音、微かな魔力の気配にさえも、彼のとぎすまされた意識は敏感に反応し、彼を身構えさせる。


しかし今は敵の恐れはないようだった。

ルバートの屋敷からアイリーンを助け出してから4日が過ぎ、夜が明ければ5日目を迎える。

街道をそれて森の中を進んできたが、どうやら上手く追っ手をまくことが出来たようだ。

暗い森の中に魔力の知覚で探りを入れてみても、特に気になる気配は感じられなかった。


アイリーンはただ寝返りを打っただけらしい。

眠りにつくときはあちらを向いていたのに、今はギメリックの胸に顔を押しつけるようにして眠っている。

“寝相は悪いわけではない、と言ってやるべきだろうな。おとなしいもんだ……”

ギメリックはそっと彼女の柔らかな金の髪をなでた。

“あんなに嫌がっていたくせに……眠ってしまうと、こうだ。

 俺も好きでこうしているわけではないというのに……”

これでは眠れないではないか、とギメリックは小さくため息を吐く。夜明けはまだ遠かった。


自分の魔力の気配を隠すだけなら、体の回りにぴったり結界を作ればそれで事足りる。

慣れているギメリックにとって、無意識でも眠っていても、それは簡単なことだった。

しかしようやく結界が張れるようになったばかりのアイリーンは、眠ってしまうと結界を保てない。

夜は今まで同様、ギメリックが二人分の結界を張ることになるのだが、彼女の魔力が増してくるにつれてその気配も強くなり、結界の強度も増やさなければならなかった。


何もない空間に結界を張り、それを長時間保たせることは、かなりの魔力を消耗する。

その空間の体積が大きければ大きいほど、そしてシールドしなければならない魔力の気配が強ければ強いほど、消耗の度合いも増す。

今後の旅の危険性を思うと、できるだけ魔力を温存したいと考えたギメリックは、彼女を腕の中に抱いて眠ることにしたのだった。

それなら、自分を覆う結界を少し延長するだけで彼女の魔力の気配も覆い隠すことが出来る。


しかし不眠に苦しむようなら本末転倒だ。

追っ手の心配もまだ完全になくなったわけではない。

結界はある程度、魔力の知覚も遮断してしまうので、本来の力で周りを探ることができない。

追っ手が巧妙な手口で自分たちの気配を隠しているかも知れないという恐れはある。

それにルバートが連絡をしただろうから、リムウル国内の密偵達も自分たちを捜しにかかっているはずだ。

敵に遭遇したときに備えて、魔力も体力も、出来る限り温存しておかなければならない……。


ギメリックは彼の腕を枕にしているアイリーンの頭をそっと外しにかかった。

少し大きめの結界を張ってアイリーンから離れ、夜明けまで眠ろうと考えたのだ。

「……ん……」

アイリーンが声を上げたのでギクリと動きを止める。

と、彼女の手がしっかりと彼の腰に巻き付いてきた。ますますぴったりと体が合わさる。

“こいつ……俺を抱き枕と間違えてないか?”

ギメリックは眉間にしわを寄せ、憮然とした表情でしばらく固まっていたが、アイリーンに目覚める気配がないのを悟ると、仕方なくそのまま夜明けを待つことにした。

“まぁいい。明日はどうせ、町に入る。宿を取ることにしよう……”
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