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第3部.リムウル 第1章
16.ドラゴンの伝説
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アイリーンは子供の頃、乳母が話してくれたおとぎ話を思い出した。
エンドルーアにはドラゴンにまつわる伝説がたくさん残っている。
これもその一つで、エンドルーアの北に連なる険しい山々の奥に、まだ太古の火が燃えていた頃のお話だ。
その山の一つに、ドラゴンが住んでいた。
ある時ドラゴンは、道に迷った人間の娘に恋をして、人間に化けて彼女を里まで送っていき、そのままその村に住み着いた。
何かれとなく自分の世話を焼いてくれる男に、娘も少なからず好意を抱くようになったが、ある時、その正体を見てしまう。
恐怖を湛えた目で見られて耐えられなくなったドラゴンは山へ帰ってしまうが、後悔した娘がやってきて、以後はそこで二人、幸せに暮らしたという話だった。
アイリーンは幼い頃、この物語が大好きで、何度も乳母にねだってしてもらったものだ。
しかし大人になった今、少し違った思いでこの物語を思い出す。
時には人を食べることもあったという恐ろしいドラゴンに対し、自分だけに親切にしてくれるからといって、そう簡単に気を許せるようになるものだろうか?
“この人が本当にティレルを殺すつもりなら、私は……”
そこまで考えて、アイリーンは途方に暮れる。
“私は……、どうすればいいの? 少しは魔力を使えるようになったわ、でも……”
とても自分自身で身を守れるレベルではないことは、アイリーンにもわかっていた。
“ もしも私が逃げようとしたら、この人はどうするだろう……。
やっぱり、私を殺そうとするのかしら……。
でも逃げようにも、私一人では馬にさえ乗れないんだわ……”
アイリーンは自分の無力さに暗澹たる気持ちになりながら、少し身を乗り出して後ろを振り返った。
自分が乗っていた馬は、ギメリックの心話に応えておとなしく後ろについて走ってきている。
“せめて一人で馬に乗れるようにならないと……”
その時アイリーンは木々の間に見え隠れする展望に気づき、目を見張った。
ずっと登り坂だとは思っていたが、随分高いところまで登ってきたらしい。
眼下には、おそらく先ほど出発してきたラザールの町並みと、町を囲むように蛇行して流れる川が見える。
その景色に見とれているうち、馬の足音が変化した。
見ると地面ではなく、道は石畳に変わっている。
“こんな所に石畳が……?”
アイリーンが不思議に思っていると、やがて行く手に、石造りの門が見えてきた。
門の間の扉は朽ちてほとんど原型をとどめていない。
門の左右に続く障壁も、所々崩れて、かなり年月を経たもののようだった。
「わぁ……!!」
馬が門をくぐって中へ入ったとたん、アイリーンは思わず声を上げた。
門に続く内部はそのまま石を敷き詰めた回廊になっていて、両側に広がる中庭の、鮮やかな緑に覆われた地面の上に、淡い黄色の花が一面に咲いていた。
エンドルーアにはドラゴンにまつわる伝説がたくさん残っている。
これもその一つで、エンドルーアの北に連なる険しい山々の奥に、まだ太古の火が燃えていた頃のお話だ。
その山の一つに、ドラゴンが住んでいた。
ある時ドラゴンは、道に迷った人間の娘に恋をして、人間に化けて彼女を里まで送っていき、そのままその村に住み着いた。
何かれとなく自分の世話を焼いてくれる男に、娘も少なからず好意を抱くようになったが、ある時、その正体を見てしまう。
恐怖を湛えた目で見られて耐えられなくなったドラゴンは山へ帰ってしまうが、後悔した娘がやってきて、以後はそこで二人、幸せに暮らしたという話だった。
アイリーンは幼い頃、この物語が大好きで、何度も乳母にねだってしてもらったものだ。
しかし大人になった今、少し違った思いでこの物語を思い出す。
時には人を食べることもあったという恐ろしいドラゴンに対し、自分だけに親切にしてくれるからといって、そう簡単に気を許せるようになるものだろうか?
“この人が本当にティレルを殺すつもりなら、私は……”
そこまで考えて、アイリーンは途方に暮れる。
“私は……、どうすればいいの? 少しは魔力を使えるようになったわ、でも……”
とても自分自身で身を守れるレベルではないことは、アイリーンにもわかっていた。
“ もしも私が逃げようとしたら、この人はどうするだろう……。
やっぱり、私を殺そうとするのかしら……。
でも逃げようにも、私一人では馬にさえ乗れないんだわ……”
アイリーンは自分の無力さに暗澹たる気持ちになりながら、少し身を乗り出して後ろを振り返った。
自分が乗っていた馬は、ギメリックの心話に応えておとなしく後ろについて走ってきている。
“せめて一人で馬に乗れるようにならないと……”
その時アイリーンは木々の間に見え隠れする展望に気づき、目を見張った。
ずっと登り坂だとは思っていたが、随分高いところまで登ってきたらしい。
眼下には、おそらく先ほど出発してきたラザールの町並みと、町を囲むように蛇行して流れる川が見える。
その景色に見とれているうち、馬の足音が変化した。
見ると地面ではなく、道は石畳に変わっている。
“こんな所に石畳が……?”
アイリーンが不思議に思っていると、やがて行く手に、石造りの門が見えてきた。
門の間の扉は朽ちてほとんど原型をとどめていない。
門の左右に続く障壁も、所々崩れて、かなり年月を経たもののようだった。
「わぁ……!!」
馬が門をくぐって中へ入ったとたん、アイリーンは思わず声を上げた。
門に続く内部はそのまま石を敷き詰めた回廊になっていて、両側に広がる中庭の、鮮やかな緑に覆われた地面の上に、淡い黄色の花が一面に咲いていた。
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