99 / 198
第3部.リムウル 第1章
17.遺跡
しおりを挟む
ギメリックは別に、花を愛でるためにここに来たのではない。
この地の清浄な空気に触れ、多少なりとも魔力を回復させるのが目的だった。
しかしアイリーンの方は、廃墟と化した建物の間に点在する庭園の美しさに、すっかり目を奪われている。
半ば夢見心地の様子で、つぶやくように彼女が尋ねた。
「……ここは何?」
「……“光の一族”の神殿の跡だ」
「光の一族って?」
「エンドルーアの王族の、昔の呼び名だ」
必要最低限のことしか口にしないギメリックが、心の中で自分の知識をなぞるのを、アイリーンは耳をすませて聞いていた。
“太古の昔……エンドルーア建国の祖であるエイドリアンが、リーン・ハイアットに都を興すより前のことだ。
そのころはまだ人間の数は少なく、国家というものが存在しなかった。
人々は一族ごとに集落を作って暮らしていた。
かつてこの辺りには、光の一族が暮らした都があったらしい”
“エンドルーア建国って……千年ぐらい前よね?
それより前に、こんな素晴らしい建物が作られたなんて……信じられないわ……”
崩れかけた石造りの建物には至る所に蔓草がからみついていたが、かつての壮麗さを失ってはいなかった。
高い尖塔や美しい柱飾りのある棟がいくつも建ち並び、棟と棟の間を回廊がつないでいる。
その間を埋めるどの中庭にも、最初の中庭で見た薄黄色の花が可憐に咲いていた。
やがて馬は、ひときわ広い空き地に出た。もとは広大な庭園だったのだろう。
樹齢数百年、もしかしたら千年を越すかと思われる大きなイチイの木が立っていて、そのそばに噴水だったらしい、丸く石を削った水盤がある。
ギメリックはそこで馬から降り、二頭の馬の手綱をイチイの木の枝につないだ。
「このあたりで適当に遊んでいろ。俺は奥に用事がある」
そう言って立ち去ろうとするギメリックを、アイリーンの大きな瞳が少し不安そうに見上げた。
「……何かあったら今度こそ心話を使え。しかしここは大きな結界の中のようなものだ、何も心配はない」
行ってしまったギメリックの後ろ姿が見えなくなると、アイリーンは一つため息をつき、噴水の水盤の縁に腰掛けた。
もちろん噴水はもう上がっていなかったが、湧き水が入っているようで、水盤からは澄んだ水があふれてこぼれ落ち、地面の上に小さな流れを作っていた。
その流れの回りにもたくさん、薄黄色の花が咲いている。
アイリーンはイチイの木を振り仰ぎ、漏れてくる木漏れ日の暖かさと、時折吹いてくる風の心地よさを感じ、目を細めた。
置いて行かれるのは心細い気がしたが、こうして静かに座っていると、アイリーンにも、辺りに漂う聖なる“力”が感じられる。
“こんな綺麗で静かな所、初めて……。
静かだけど、寂しくないのも不思議ね……”
この地の清浄な空気に触れ、多少なりとも魔力を回復させるのが目的だった。
しかしアイリーンの方は、廃墟と化した建物の間に点在する庭園の美しさに、すっかり目を奪われている。
半ば夢見心地の様子で、つぶやくように彼女が尋ねた。
「……ここは何?」
「……“光の一族”の神殿の跡だ」
「光の一族って?」
「エンドルーアの王族の、昔の呼び名だ」
必要最低限のことしか口にしないギメリックが、心の中で自分の知識をなぞるのを、アイリーンは耳をすませて聞いていた。
“太古の昔……エンドルーア建国の祖であるエイドリアンが、リーン・ハイアットに都を興すより前のことだ。
そのころはまだ人間の数は少なく、国家というものが存在しなかった。
人々は一族ごとに集落を作って暮らしていた。
かつてこの辺りには、光の一族が暮らした都があったらしい”
“エンドルーア建国って……千年ぐらい前よね?
それより前に、こんな素晴らしい建物が作られたなんて……信じられないわ……”
崩れかけた石造りの建物には至る所に蔓草がからみついていたが、かつての壮麗さを失ってはいなかった。
高い尖塔や美しい柱飾りのある棟がいくつも建ち並び、棟と棟の間を回廊がつないでいる。
その間を埋めるどの中庭にも、最初の中庭で見た薄黄色の花が可憐に咲いていた。
やがて馬は、ひときわ広い空き地に出た。もとは広大な庭園だったのだろう。
樹齢数百年、もしかしたら千年を越すかと思われる大きなイチイの木が立っていて、そのそばに噴水だったらしい、丸く石を削った水盤がある。
ギメリックはそこで馬から降り、二頭の馬の手綱をイチイの木の枝につないだ。
「このあたりで適当に遊んでいろ。俺は奥に用事がある」
そう言って立ち去ろうとするギメリックを、アイリーンの大きな瞳が少し不安そうに見上げた。
「……何かあったら今度こそ心話を使え。しかしここは大きな結界の中のようなものだ、何も心配はない」
行ってしまったギメリックの後ろ姿が見えなくなると、アイリーンは一つため息をつき、噴水の水盤の縁に腰掛けた。
もちろん噴水はもう上がっていなかったが、湧き水が入っているようで、水盤からは澄んだ水があふれてこぼれ落ち、地面の上に小さな流れを作っていた。
その流れの回りにもたくさん、薄黄色の花が咲いている。
アイリーンはイチイの木を振り仰ぎ、漏れてくる木漏れ日の暖かさと、時折吹いてくる風の心地よさを感じ、目を細めた。
置いて行かれるのは心細い気がしたが、こうして静かに座っていると、アイリーンにも、辺りに漂う聖なる“力”が感じられる。
“こんな綺麗で静かな所、初めて……。
静かだけど、寂しくないのも不思議ね……”
0
あなたにおすすめの小説
どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~
さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」
あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。
弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。
弟とは凄く仲が良いの!
それはそれはものすごく‥‥‥
「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」
そんな関係のあたしたち。
でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥
「うそっ! お腹が出て来てる!?」
お姉ちゃんの秘密の悩みです。
セクスカリバーをヌキました!
桂
ファンタジー
とある世界の森の奥地に真の勇者だけに抜けると言い伝えられている聖剣「セクスカリバー」が岩に刺さって存在していた。
国一番の剣士の少女ステラはセクスカリバーを抜くことに成功するが、セクスカリバーはステラの膣を鞘代わりにして収まってしまう。
ステラはセクスカリバーを抜けないまま武闘会に出場して……
ちょっと大人な物語はこちらです
神崎 未緒里
恋愛
本当にあった!?かもしれない
ちょっと大人な短編物語集です。
日常に突然訪れる刺激的な体験。
少し非日常を覗いてみませんか?
あなたにもこんな瞬間が訪れるかもしれませんよ?
※本作品ではGemini PRO、Pixai.artで作成した生成AI画像ならびに
Pixabay並びにUnsplshのロイヤリティフリーの画像を使用しています。
※不定期更新です。
※文章中の人物名・地名・年代・建物名・商品名・設定などはすべて架空のものです。
兄様達の愛が止まりません!
桜
恋愛
五歳の時、私と兄は父の兄である叔父に助けられた。
そう、私達の両親がニ歳の時事故で亡くなった途端、親類に屋敷を乗っ取られて、離れに閉じ込められた。
屋敷に勤めてくれていた者達はほぼ全員解雇され、一部残された者が密かに私達を庇ってくれていたのだ。
やがて、領内や屋敷周辺に魔物や魔獣被害が出だし、私と兄、そして唯一の保護をしてくれた侍女のみとなり、死の危険性があると心配した者が叔父に助けを求めてくれた。
無事に保護された私達は、叔父が全力で守るからと連れ出し、養子にしてくれたのだ。
叔父の家には二人の兄がいた。
そこで、私は思い出したんだ。双子の兄が時折話していた不思議な話と、何故か自分に映像に流れて来た不思議な世界を、そして、私は…
人狼な幼妻は夫が変態で困り果てている
井中かわず
恋愛
古い魔法契約によって強制的に結ばれたマリアとシュヤンの14歳年の離れた夫婦。それでも、シュヤンはマリアを愛していた。
それはもう深く愛していた。
変質的、偏執的、なんとも形容しがたいほどの狂気の愛情を注ぐシュヤン。異常さを感じながらも、なんだかんだでシュヤンが好きなマリア。
これもひとつの夫婦愛の形…なのかもしれない。
全3章、1日1章更新、完結済
※特に物語と言う物語はありません
※オチもありません
※ただひたすら時系列に沿って変態したりイチャイチャしたりする話が続きます。
※主人公の1人(夫)が気持ち悪いです。
借金まみれで高級娼館で働くことになった子爵令嬢、密かに好きだった幼馴染に買われる
しおの
恋愛
乙女ゲームの世界に転生した主人公。しかしゲームにはほぼ登場しないモブだった。
いつの間にか父がこさえた借金を返すため、高級娼館で働くことに……
しかしそこに現れたのは幼馴染で……?
愛しているなら拘束してほしい
守 秀斗
恋愛
会社員の美夜本理奈子(24才)。ある日、仕事が終わって会社の玄関まで行くと大雨が降っている。びしょ濡れになるのが嫌なので、地下の狭い通路を使って、隣の駅ビルまで行くことにした。すると、途中の部屋でいかがわしい行為をしている二人の男女を見てしまうのだが……。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる