薄明宮の奪還

ria

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第3部.リムウル 第1章

17.遺跡

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ギメリックは別に、花を愛でるためにここに来たのではない。

この地の清浄な空気に触れ、多少なりとも魔力を回復させるのが目的だった。

しかしアイリーンの方は、廃墟と化した建物の間に点在する庭園の美しさに、すっかり目を奪われている。

半ば夢見心地の様子で、つぶやくように彼女が尋ねた。

「……ここは何?」

「……“光の一族”の神殿の跡だ」

「光の一族って?」

「エンドルーアの王族の、昔の呼び名だ」


必要最低限のことしか口にしないギメリックが、心の中で自分の知識をなぞるのを、アイリーンは耳をすませて聞いていた。

“太古の昔……エンドルーア建国の祖であるエイドリアンが、リーン・ハイアットに都を興すより前のことだ。

 そのころはまだ人間の数は少なく、国家というものが存在しなかった。

 人々は一族ごとに集落を作って暮らしていた。

 かつてこの辺りには、光の一族が暮らした都があったらしい”


“エンドルーア建国って……千年ぐらい前よね?

 それより前に、こんな素晴らしい建物が作られたなんて……信じられないわ……”


崩れかけた石造りの建物には至る所に蔓草がからみついていたが、かつての壮麗さを失ってはいなかった。

高い尖塔や美しい柱飾りのある棟がいくつも建ち並び、棟と棟の間を回廊がつないでいる。

その間を埋めるどの中庭にも、最初の中庭で見た薄黄色の花が可憐に咲いていた。


やがて馬は、ひときわ広い空き地に出た。もとは広大な庭園だったのだろう。

樹齢数百年、もしかしたら千年を越すかと思われる大きなイチイの木が立っていて、そのそばに噴水だったらしい、丸く石を削った水盤がある。


ギメリックはそこで馬から降り、二頭の馬の手綱をイチイの木の枝につないだ。

「このあたりで適当に遊んでいろ。俺は奥に用事がある」

そう言って立ち去ろうとするギメリックを、アイリーンの大きな瞳が少し不安そうに見上げた。

「……何かあったら今度こそ心話を使え。しかしここは大きな結界の中のようなものだ、何も心配はない」


行ってしまったギメリックの後ろ姿が見えなくなると、アイリーンは一つため息をつき、噴水の水盤の縁に腰掛けた。

もちろん噴水はもう上がっていなかったが、湧き水が入っているようで、水盤からは澄んだ水があふれてこぼれ落ち、地面の上に小さな流れを作っていた。

その流れの回りにもたくさん、薄黄色の花が咲いている。


アイリーンはイチイの木を振り仰ぎ、漏れてくる木漏れ日の暖かさと、時折吹いてくる風の心地よさを感じ、目を細めた。

置いて行かれるのは心細い気がしたが、こうして静かに座っていると、アイリーンにも、辺りに漂う聖なる“力”が感じられる。


“こんな綺麗で静かな所、初めて……。

 静かだけど、寂しくないのも不思議ね……”
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