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第4部.リムウル~エンドルーア 第1章
8.リムウルの陣にて
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イスカは、ユリシウスとその従者を連れてテントに戻って来た。
一行が中に入ると、アイリーンは緊張した面持ちで黙って挨拶の一礼をした。
濡れそぼった夜着とガウンのみという姿にもかかわらず、その優美な仕草一つでユリシウスには、彼女が高貴な、おそらくは姫と呼ばれる身分であろうと知れた。
たおやかで儚げな風情の中に、真っすぐにこちらを見返して来る大きな瞳が意志の強さを感じさせる。
何とも印象的な少女だ、とユリシウスは思った。
テントにはそれなりの広さがあったが、ギメリックが寝かされているため4人も人が入ると少々手狭に思えた。
「レモール、お前は外で待っていてくれ」
ユリシウスの言葉を受け、スキンヘッドの大男は垂れ幕の外に姿を消した。
「私はリムウル国の第二王子、ユリシウスと申します」
アイリーンは一瞬目を伏せ、申し訳なさそうに言った。
「ご無礼を、お許しください。今はまだ名乗れません。
彼が目覚めたら、事情をお話しできると思うのですが……」
すぐにまた目を上げてじっと見返して来る彼女に、ユリシウスは尋ねる。
「あなたは彼を『ギメリック』と呼んだ、とここにいる部下から聞きましたが。
そのことについて、お聞きしてもよろしいですか?」
「……」
小さな唇をぎゅっと結んでしまった彼女を見て、ユリシウスは考えた。
“どうも、見かけより情の強いかたのようだ……警戒を解いていただかない限り、話は聞けないだろう”
ユリシウスは穏やかな声でイスカに向かって言った。
「どうやら兄には知らせない方が良さそうだ。機転を利かせてくれて助かった。
すまないがこのかたの身の回りのものを一式、頼む」
イスカが心得た様子で一礼し出て行くと、ユリシウスはアイリーンに言った。
「とにかく着替えてください、そのままではいくら夏とは言え風邪を引きます。
と言っても、あいにくここには男物しかないのですが」
ユリシウスの柔和な微笑みに、アイリーンの緊張が少しだけ和らぐ。
「……ご面倒をおかけして、すみません……」
小さくなってあやまるアイリーンに、ユリシウスが微笑みを深めたとき、外にいた従者が入って来た。
「レモール、外で控えているようにと言っただろう」
「そういうわけにはいきません。得体の知れない者とお一人で向き合うなど、どのような危険があるかも知れないのに」
ユリシウスはうんざりしたように肩を上げた。
「またそれかい? お前は顔だけで充分怖いんだから、ご婦人のそばには寄るんじゃない。さぁ行った行った」
「若君、ふざけている場合ではありません」
二人のやり取りを聞いていたアイリーンが口を挟んだ。
「私たちはあなた方に害をなす者ではありません。それだけはお約束いたします」
突然、従者は大声を上げた。
「その男がエンドルーアの皇太子なら、そんなはずはないだろう?!」
アイリーンがビクリと微かに身を震わせる。
「ユリシウス様、どうかしておられますぞ!! 即刻、この者たちに縄をかけて兄君にご報告するべきではありませんか!!」
従者が今にもアイリーンに手を伸ばしそうな勢いを示すと、彼女はサッと後ろへ下がってギメリックをかばうように立ちふさがった。
彼女の影がふいに大きくなり、テントの天井を覆い尽くすかに見えた。
「……っ!!」
思わず従者が剣に手をかける。
「待てっ!!」
ユリシウスは彼の手を押さえて叫んだ。
「レモール、外に出ていろ、命令だ!!」
「できません!!」
緊迫した空気に、戻って来たイスカが驚いた顔を覗かせた。
ユリシウスはホッとし、
「イスカがいれば文句はないだろう?」
と、厳しい目線で従者を外へと促した。
しかし従者はアイリーンを睨んだまま動こうとしない。
「レモール!!」
「……かまいませんわ。私たちが、あなた方にとって未知の力を持つことはご存知ですね?
確かに、この力はエンドルーアに起因するもの。そのかたのおっしゃることは、もっともだと思います。
ですが申し上げたように、私はあなた方と敵対するつもりはありません。
そしてこの力が、エンドルーアに対し有効な戦力になることは、彼の働きによりすでにおわかりのはず……」
アイリーンが落ち着いた声でそう言うのを、ユリシウスは軽い驚きとともに見守った。
先ほどまでの、気丈に振る舞ってはいてもどこか頼りなげで、不安そうだった様子はどこにもない。
従者の視線を、ひるむことなく受け止めて、背筋を伸ばしている。
「……すみません。この男は少々気が短いものですから。
でも安心してください。そう、我々はそのかたに助けていただいた。
そのかたの素性がどうであれ、悪いようにはいたしません。
私は、父や兄に対してあまり発言力がないのでお約束はできませんが……出来る限りの努力はいたしましょう。
信じていただけませんか?」
困ったように言うユリシウスに、アイリーンはじっと目を注いだ。
すでに知られてしまったことはもう、隠しようがない。
けれど魔力こそが、リムウルに対する交渉材料だと、それだけは間違いないはずだ。
だから、ここに来たのは自分でも予想外だったなどとは……、自分の魔力がまだ未熟であることは、悟られてはならない。
でもギメリックが回復しないまま、もし敵に襲われたらどうなるのだろう……。
そう思うと不安で押しつぶされそうだったが、アイリーンはとにかくこの場を乗り切るために虚勢を張った。
「ええ、結構ですわ。どうでしょう、今夜はもう遅い。
明日の朝改めて、お話させていただくというのは?
私は、逃げも隠れもいたしませんから」
実際には、たぶん無理だ、今の自分の魔力では……。
ギメリックを連れて逃げたり隠れたりするなんて……。
そう思いながら、アイリーンは余裕に見えるようにと祈りつつ、ニッコリと微笑んだ。
「……わかりました。そうさせていただきましょう」
ため息まじりにユリシウスはそう言って、二人の部下を引き連れて出て行った。
彼らの気配が遠ざかると、アイリーンもやっと緊張を解き、ホッと息を吐いた。
どうやら一つ目の試練は乗り越えた。でもこれで終わりではない……。
アイリーンは与えられた衣類に着替え、ギメリックのそばに寄り添った。
「……エリアード?」
つぶやいて、アイリーンは泣き笑いを浮かべた。
「また、その名前を使ったの?
あなたはいつか彼に会って、お詫びを言わないといけないわ……そうでしょ?
だから、早く目を覚まして……」
一行が中に入ると、アイリーンは緊張した面持ちで黙って挨拶の一礼をした。
濡れそぼった夜着とガウンのみという姿にもかかわらず、その優美な仕草一つでユリシウスには、彼女が高貴な、おそらくは姫と呼ばれる身分であろうと知れた。
たおやかで儚げな風情の中に、真っすぐにこちらを見返して来る大きな瞳が意志の強さを感じさせる。
何とも印象的な少女だ、とユリシウスは思った。
テントにはそれなりの広さがあったが、ギメリックが寝かされているため4人も人が入ると少々手狭に思えた。
「レモール、お前は外で待っていてくれ」
ユリシウスの言葉を受け、スキンヘッドの大男は垂れ幕の外に姿を消した。
「私はリムウル国の第二王子、ユリシウスと申します」
アイリーンは一瞬目を伏せ、申し訳なさそうに言った。
「ご無礼を、お許しください。今はまだ名乗れません。
彼が目覚めたら、事情をお話しできると思うのですが……」
すぐにまた目を上げてじっと見返して来る彼女に、ユリシウスは尋ねる。
「あなたは彼を『ギメリック』と呼んだ、とここにいる部下から聞きましたが。
そのことについて、お聞きしてもよろしいですか?」
「……」
小さな唇をぎゅっと結んでしまった彼女を見て、ユリシウスは考えた。
“どうも、見かけより情の強いかたのようだ……警戒を解いていただかない限り、話は聞けないだろう”
ユリシウスは穏やかな声でイスカに向かって言った。
「どうやら兄には知らせない方が良さそうだ。機転を利かせてくれて助かった。
すまないがこのかたの身の回りのものを一式、頼む」
イスカが心得た様子で一礼し出て行くと、ユリシウスはアイリーンに言った。
「とにかく着替えてください、そのままではいくら夏とは言え風邪を引きます。
と言っても、あいにくここには男物しかないのですが」
ユリシウスの柔和な微笑みに、アイリーンの緊張が少しだけ和らぐ。
「……ご面倒をおかけして、すみません……」
小さくなってあやまるアイリーンに、ユリシウスが微笑みを深めたとき、外にいた従者が入って来た。
「レモール、外で控えているようにと言っただろう」
「そういうわけにはいきません。得体の知れない者とお一人で向き合うなど、どのような危険があるかも知れないのに」
ユリシウスはうんざりしたように肩を上げた。
「またそれかい? お前は顔だけで充分怖いんだから、ご婦人のそばには寄るんじゃない。さぁ行った行った」
「若君、ふざけている場合ではありません」
二人のやり取りを聞いていたアイリーンが口を挟んだ。
「私たちはあなた方に害をなす者ではありません。それだけはお約束いたします」
突然、従者は大声を上げた。
「その男がエンドルーアの皇太子なら、そんなはずはないだろう?!」
アイリーンがビクリと微かに身を震わせる。
「ユリシウス様、どうかしておられますぞ!! 即刻、この者たちに縄をかけて兄君にご報告するべきではありませんか!!」
従者が今にもアイリーンに手を伸ばしそうな勢いを示すと、彼女はサッと後ろへ下がってギメリックをかばうように立ちふさがった。
彼女の影がふいに大きくなり、テントの天井を覆い尽くすかに見えた。
「……っ!!」
思わず従者が剣に手をかける。
「待てっ!!」
ユリシウスは彼の手を押さえて叫んだ。
「レモール、外に出ていろ、命令だ!!」
「できません!!」
緊迫した空気に、戻って来たイスカが驚いた顔を覗かせた。
ユリシウスはホッとし、
「イスカがいれば文句はないだろう?」
と、厳しい目線で従者を外へと促した。
しかし従者はアイリーンを睨んだまま動こうとしない。
「レモール!!」
「……かまいませんわ。私たちが、あなた方にとって未知の力を持つことはご存知ですね?
確かに、この力はエンドルーアに起因するもの。そのかたのおっしゃることは、もっともだと思います。
ですが申し上げたように、私はあなた方と敵対するつもりはありません。
そしてこの力が、エンドルーアに対し有効な戦力になることは、彼の働きによりすでにおわかりのはず……」
アイリーンが落ち着いた声でそう言うのを、ユリシウスは軽い驚きとともに見守った。
先ほどまでの、気丈に振る舞ってはいてもどこか頼りなげで、不安そうだった様子はどこにもない。
従者の視線を、ひるむことなく受け止めて、背筋を伸ばしている。
「……すみません。この男は少々気が短いものですから。
でも安心してください。そう、我々はそのかたに助けていただいた。
そのかたの素性がどうであれ、悪いようにはいたしません。
私は、父や兄に対してあまり発言力がないのでお約束はできませんが……出来る限りの努力はいたしましょう。
信じていただけませんか?」
困ったように言うユリシウスに、アイリーンはじっと目を注いだ。
すでに知られてしまったことはもう、隠しようがない。
けれど魔力こそが、リムウルに対する交渉材料だと、それだけは間違いないはずだ。
だから、ここに来たのは自分でも予想外だったなどとは……、自分の魔力がまだ未熟であることは、悟られてはならない。
でもギメリックが回復しないまま、もし敵に襲われたらどうなるのだろう……。
そう思うと不安で押しつぶされそうだったが、アイリーンはとにかくこの場を乗り切るために虚勢を張った。
「ええ、結構ですわ。どうでしょう、今夜はもう遅い。
明日の朝改めて、お話させていただくというのは?
私は、逃げも隠れもいたしませんから」
実際には、たぶん無理だ、今の自分の魔力では……。
ギメリックを連れて逃げたり隠れたりするなんて……。
そう思いながら、アイリーンは余裕に見えるようにと祈りつつ、ニッコリと微笑んだ。
「……わかりました。そうさせていただきましょう」
ため息まじりにユリシウスはそう言って、二人の部下を引き連れて出て行った。
彼らの気配が遠ざかると、アイリーンもやっと緊張を解き、ホッと息を吐いた。
どうやら一つ目の試練は乗り越えた。でもこれで終わりではない……。
アイリーンは与えられた衣類に着替え、ギメリックのそばに寄り添った。
「……エリアード?」
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だから、早く目を覚まして……」
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