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第4部.リムウル~エンドルーア 第1章
15.再会
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“明日……ティレルに気づかれずに探りを入れることができるだろうか……”
魔力が回復さえすれば、おそらく並みの相手になら自分の力は通用するだろうとアイリーンには思えた。
けれど、ティレルの魔力は自分と同じレベル……。
“いえ、今は私の魔力の方が強いはずよ。だって私は、石の主なんだから……”
何としてでもティレルを救うために、ひとまずは彼と戦って、命を奪わずに勝たなくてはならない……。
重苦しい胸のつかえに、知らず知らずのうちにうつむいて、アイリーンは歩を進めていた。
ため息を一つ吐き出してふと顔を上げ、立ち止まる。
“……やだ、私ったら……”
ぼんやりしていて、いつの間にか目的のテントの前を素通りし、随分遠くまで来てしまったらしい。
辺りの景色は全く知らないものになっていた。
林立していたテントはまばらになり、一帯には、たき火を囲んで座ったり寝転んだりしている雑兵たちのグループが延々と連なっている。
アイリーンはあわてて元来た道を引き返そうとした。
回れ右したとたん、すぐ後ろにいた誰かとぶつかってしまい、思わず声を上げる。
「きゃっ……」
「へへへ、“きゃ”だってよ……可愛い顔してると思ったら……」
「あ……っ?!」
いきなり口を塞がれ、体を抱え上げられた。
“何……?!”
どこかに運ばれて行くと知って不安を感じ、暴れようとしてみたけれど、相手は体格の良い男のようで、どうにもならない。
“いや……放して!!”
いつもなら、魔力を使えば逃げられるだろうに、よりによってこんな時に……と思うと歯がゆかった。
必死に抵抗する間にも、アイリーンは自分を抱えている男の他に、もう2人、男がついて一緒に走っているのを見て取った。
いくらも経たないうちに野営地のはずれまでやってきた男たちは、灌木の茂みの陰で、アイリーンを地面の上に押さえつけた。
二人が彼女の腕を押さえ、もう一人が体の上に覆いかぶさって来る。
その男に、いきなり服の上から胸を掴まれ、アイリーンは叫んだ。
「いやっ!!」
「やっぱり、娘っこじゃねぇか!!」
「こりゃあ、もうけたな!!」
「よしよし、たっぷり可愛がってやろうな」
「うおっ……?!」
突然、アイリーンの上にいる男の動きが止まった。
「ぐっ……」
後ろから強く襟首をひっぱられ、喉を詰まらせて目を剥いたかと思うと、男は脇へと乱暴に転がされていた。
「こ、この野郎っ!! 何しやがる!!……うっ?!」
立ち上がる隙さえ与えられず、男の喉元に、剣の切っ先が今にも食い込まんばかりに突きつけられていた。
「あっ……」
「た、隊長?!」
“え……?!”
剣の主を、アイリーンは信じられない思いで凝視した。
「この方は他国からの、高貴な身分のお客人……無礼をはたらいた咎で死罪だ」
彼の声に含まれる怒りと殺気に、男たちは震え上がった。
「ひっ……」
「ひぇ~~~っっ……お許しを!!」
「し、知らなかったんです!! 本当で……」
「失せろ!!」
「うわぁ~~~っ!!」
男たちは先を争って逃げて行った。
「……全く!! 自分の部下じゃなきゃ、本当に叩き斬ってやるところだ!!」
腹立たしげに荒々しく息を吐き出し、彼は男たちを見送った。
そしてアイリーンのそばにひざまづき、そっと手を差し出した。
「大丈夫?……ぼくだよ、わかるかい?」
アイリーンは大きく目を見張って彼を仰ぎ見た。
「え……ええ、お兄様……」
「いい加減、口を閉じたら?」
レスターはクスクス笑ってアイリーンの、驚きがまだ覚めやらぬ、という顔を眺めた。
レスターが自分にあてがわれているテントに、彼女を連れてきたところだった。
「……あ、あのぅ……どうして? どうしてお兄様がこんなところに……」
レスターは悲しそうに眉を下げてみせた。
「つれないなぁ。愛しい君と離れているのが辛くて、こうしてはるばる追いかけて来たんじゃないか」
「……」
場違いな冗談としか思えないその言葉に、アイリーンが眉をひそめると、レスターは苦笑いを浮かべて口調を改めた。
「君がアドニアを出発した後、エリアードが偽物だったとすぐにわかったんだよ」
「それで、私を捜して……? あの、でもさっき、部下とか隊長とか……」
「ああ。ここでのぼくはユリシウス軍 傭兵第5部隊の隊長、名前はラドリー・スコット……ってことになってる」
ますます驚いている彼女に、レスターは肩をすくめてみせる。
「ぼくもまさかこんなことになるとは……システムをよく知らなかったものだから。
君が向かっているのはエンドルーアだろうと見当をつけたけど、リムウルとの戦線になっている国境を、さすがに一人でウロウロするのは無茶だと思ってさ。
どっちの軍にも、捕まれば密偵と間違われてただじゃ済まないだろうし。
それでリムウル軍に傭兵として雇ってもらおうと頑張ってたら、採用試験の剣術試合で、どうやら勝ちすぎてしまったらしい。
気づいたら100人部隊の面倒を見る羽目になってて……参ったよ。
まぁそのおかげで、こうして君を守ることができたんだから良しとしよう。結果オーライってとこかな」
レスターは微笑んで、アイリーンの顔をのぞき込んだ。
「そんなことより、聞かせてくれるんだろうね? 君こそ、今までどこでどうしていたのか……」
突然、真顔になって言葉を詰まらせたかと思うと、彼はアイリーンを引き寄せた。
そして無言のまま、強く抱きしめる。
「お兄様……?」
「……無事で良かった……心配したんだよ!」
「……」
思わず涙ぐんだアイリーンだったが、
「……うんうん、元気にしてたようだね、何だかふっくら娘らしくなって……抱き心地も良くなった」
という彼の言葉に顔を赤らめ、彼の腕を押しやった。
「お兄様!」
「あ、もう言わないからもう少し……」
と再び抱きついて来ようとする彼をかわそうと、アイリーンが身構えたとき、誰かが外から呼びかけてきた。
「隊長。いらっしゃいますか?」
「なんで邪魔するかなぁ、こんな時に」
と小さくつぶやいたレスターは、仕方なさそうに返事をした。
「ああ。何だい?」
「あの……デクテオン様が直々にお話ししたいとお呼びだそうですが……」
「ふぅん。なんだ、もうバレたのか。だったらさっきの奴ら、せめて殴っておくんだった」
レスターはアイリーンの顔を見て、ニッと笑った。
「あのボンクラ頭くんの第二王子もその場にいれば面白いことになるな。
アイリーン、一緒に来るかい? 君もいつまでも名無しの姫じゃいられないだろう?
ついでにキッチリ釘を刺しておいてやろう……うん、それがいい」
「……?」
アイリーンは久しぶりに聞く兄の毒舌にタジタジとなりつつも、今ひとつ彼の言う意味がよくわからない。
その表情を読んだレスターは、笑いながら言った。
「この瞳の色を見れば、ちょっと気の回る者ならぼくの素性を疑う。
遅かれ早かれバレるとは思っていたんだよ。
ユリシウス王子は表向きのことをまんま信じる質らしく……全く気づいてなかったけどね。
良く言えば好人物、悪く言えばボンクラ頭、ってことさ。
だいたい、こんな狼の群れみたいなところを君に一人で歩かせるなんて、全くなってないね」
「あ、え~と、それは私が断ったから……いつも付いてくれてるイスカさんは、食料を調達してくれてて……」
「知ってるさ。聞いていたもの」
「え……?」
「さっきの軍議に、ぼくも出席してたんだよ。
傭兵は末席だから君は気づかなかったろうけど……ぼくも隠れるようにしていたし。
君が自分のことを明かしていないようだったから、何か事情があるのかと思って……あの場で名のり合うわけにいかなかっただろう?
ぼくがどんなに驚いたか、わかるかい? 君がエンドルーア王代理、と紹介された時には……
心臓が止まるかと思ったよ。おおよそのことはあの場の説明でわかったけど……」
「……隊長? 遣いの方がお待ちですが……」
「あぁ、わかった、今行く」
再びかけられた声にそう応えると、レスターはアイリーンに手を差し出した。
「おいで。君の元フィアンセの驚く顔を、拝みに行こう」
「フィアンセ?……って……えっ!!……えええっ?!」
「……まさか、気づいてなかったの?」
「だ、だって……それどころじゃなかったんですもの……」
「何とまぁ。彼も気の毒に」
「ど、どうしましょう……やっぱり、失礼よね?……お兄様、ナイショにしててくださる?」
「ふぅん……まぁいいけどね。君が後でご褒美をくれるって言うんなら、黙っててあげても」
「……」
兄の笑顔が意地悪く見えるのは……きっと、たぶん、気のせい……。
そう思いたいアイリーンだった。
魔力が回復さえすれば、おそらく並みの相手になら自分の力は通用するだろうとアイリーンには思えた。
けれど、ティレルの魔力は自分と同じレベル……。
“いえ、今は私の魔力の方が強いはずよ。だって私は、石の主なんだから……”
何としてでもティレルを救うために、ひとまずは彼と戦って、命を奪わずに勝たなくてはならない……。
重苦しい胸のつかえに、知らず知らずのうちにうつむいて、アイリーンは歩を進めていた。
ため息を一つ吐き出してふと顔を上げ、立ち止まる。
“……やだ、私ったら……”
ぼんやりしていて、いつの間にか目的のテントの前を素通りし、随分遠くまで来てしまったらしい。
辺りの景色は全く知らないものになっていた。
林立していたテントはまばらになり、一帯には、たき火を囲んで座ったり寝転んだりしている雑兵たちのグループが延々と連なっている。
アイリーンはあわてて元来た道を引き返そうとした。
回れ右したとたん、すぐ後ろにいた誰かとぶつかってしまい、思わず声を上げる。
「きゃっ……」
「へへへ、“きゃ”だってよ……可愛い顔してると思ったら……」
「あ……っ?!」
いきなり口を塞がれ、体を抱え上げられた。
“何……?!”
どこかに運ばれて行くと知って不安を感じ、暴れようとしてみたけれど、相手は体格の良い男のようで、どうにもならない。
“いや……放して!!”
いつもなら、魔力を使えば逃げられるだろうに、よりによってこんな時に……と思うと歯がゆかった。
必死に抵抗する間にも、アイリーンは自分を抱えている男の他に、もう2人、男がついて一緒に走っているのを見て取った。
いくらも経たないうちに野営地のはずれまでやってきた男たちは、灌木の茂みの陰で、アイリーンを地面の上に押さえつけた。
二人が彼女の腕を押さえ、もう一人が体の上に覆いかぶさって来る。
その男に、いきなり服の上から胸を掴まれ、アイリーンは叫んだ。
「いやっ!!」
「やっぱり、娘っこじゃねぇか!!」
「こりゃあ、もうけたな!!」
「よしよし、たっぷり可愛がってやろうな」
「うおっ……?!」
突然、アイリーンの上にいる男の動きが止まった。
「ぐっ……」
後ろから強く襟首をひっぱられ、喉を詰まらせて目を剥いたかと思うと、男は脇へと乱暴に転がされていた。
「こ、この野郎っ!! 何しやがる!!……うっ?!」
立ち上がる隙さえ与えられず、男の喉元に、剣の切っ先が今にも食い込まんばかりに突きつけられていた。
「あっ……」
「た、隊長?!」
“え……?!”
剣の主を、アイリーンは信じられない思いで凝視した。
「この方は他国からの、高貴な身分のお客人……無礼をはたらいた咎で死罪だ」
彼の声に含まれる怒りと殺気に、男たちは震え上がった。
「ひっ……」
「ひぇ~~~っっ……お許しを!!」
「し、知らなかったんです!! 本当で……」
「失せろ!!」
「うわぁ~~~っ!!」
男たちは先を争って逃げて行った。
「……全く!! 自分の部下じゃなきゃ、本当に叩き斬ってやるところだ!!」
腹立たしげに荒々しく息を吐き出し、彼は男たちを見送った。
そしてアイリーンのそばにひざまづき、そっと手を差し出した。
「大丈夫?……ぼくだよ、わかるかい?」
アイリーンは大きく目を見張って彼を仰ぎ見た。
「え……ええ、お兄様……」
「いい加減、口を閉じたら?」
レスターはクスクス笑ってアイリーンの、驚きがまだ覚めやらぬ、という顔を眺めた。
レスターが自分にあてがわれているテントに、彼女を連れてきたところだった。
「……あ、あのぅ……どうして? どうしてお兄様がこんなところに……」
レスターは悲しそうに眉を下げてみせた。
「つれないなぁ。愛しい君と離れているのが辛くて、こうしてはるばる追いかけて来たんじゃないか」
「……」
場違いな冗談としか思えないその言葉に、アイリーンが眉をひそめると、レスターは苦笑いを浮かべて口調を改めた。
「君がアドニアを出発した後、エリアードが偽物だったとすぐにわかったんだよ」
「それで、私を捜して……? あの、でもさっき、部下とか隊長とか……」
「ああ。ここでのぼくはユリシウス軍 傭兵第5部隊の隊長、名前はラドリー・スコット……ってことになってる」
ますます驚いている彼女に、レスターは肩をすくめてみせる。
「ぼくもまさかこんなことになるとは……システムをよく知らなかったものだから。
君が向かっているのはエンドルーアだろうと見当をつけたけど、リムウルとの戦線になっている国境を、さすがに一人でウロウロするのは無茶だと思ってさ。
どっちの軍にも、捕まれば密偵と間違われてただじゃ済まないだろうし。
それでリムウル軍に傭兵として雇ってもらおうと頑張ってたら、採用試験の剣術試合で、どうやら勝ちすぎてしまったらしい。
気づいたら100人部隊の面倒を見る羽目になってて……参ったよ。
まぁそのおかげで、こうして君を守ることができたんだから良しとしよう。結果オーライってとこかな」
レスターは微笑んで、アイリーンの顔をのぞき込んだ。
「そんなことより、聞かせてくれるんだろうね? 君こそ、今までどこでどうしていたのか……」
突然、真顔になって言葉を詰まらせたかと思うと、彼はアイリーンを引き寄せた。
そして無言のまま、強く抱きしめる。
「お兄様……?」
「……無事で良かった……心配したんだよ!」
「……」
思わず涙ぐんだアイリーンだったが、
「……うんうん、元気にしてたようだね、何だかふっくら娘らしくなって……抱き心地も良くなった」
という彼の言葉に顔を赤らめ、彼の腕を押しやった。
「お兄様!」
「あ、もう言わないからもう少し……」
と再び抱きついて来ようとする彼をかわそうと、アイリーンが身構えたとき、誰かが外から呼びかけてきた。
「隊長。いらっしゃいますか?」
「なんで邪魔するかなぁ、こんな時に」
と小さくつぶやいたレスターは、仕方なさそうに返事をした。
「ああ。何だい?」
「あの……デクテオン様が直々にお話ししたいとお呼びだそうですが……」
「ふぅん。なんだ、もうバレたのか。だったらさっきの奴ら、せめて殴っておくんだった」
レスターはアイリーンの顔を見て、ニッと笑った。
「あのボンクラ頭くんの第二王子もその場にいれば面白いことになるな。
アイリーン、一緒に来るかい? 君もいつまでも名無しの姫じゃいられないだろう?
ついでにキッチリ釘を刺しておいてやろう……うん、それがいい」
「……?」
アイリーンは久しぶりに聞く兄の毒舌にタジタジとなりつつも、今ひとつ彼の言う意味がよくわからない。
その表情を読んだレスターは、笑いながら言った。
「この瞳の色を見れば、ちょっと気の回る者ならぼくの素性を疑う。
遅かれ早かれバレるとは思っていたんだよ。
ユリシウス王子は表向きのことをまんま信じる質らしく……全く気づいてなかったけどね。
良く言えば好人物、悪く言えばボンクラ頭、ってことさ。
だいたい、こんな狼の群れみたいなところを君に一人で歩かせるなんて、全くなってないね」
「あ、え~と、それは私が断ったから……いつも付いてくれてるイスカさんは、食料を調達してくれてて……」
「知ってるさ。聞いていたもの」
「え……?」
「さっきの軍議に、ぼくも出席してたんだよ。
傭兵は末席だから君は気づかなかったろうけど……ぼくも隠れるようにしていたし。
君が自分のことを明かしていないようだったから、何か事情があるのかと思って……あの場で名のり合うわけにいかなかっただろう?
ぼくがどんなに驚いたか、わかるかい? 君がエンドルーア王代理、と紹介された時には……
心臓が止まるかと思ったよ。おおよそのことはあの場の説明でわかったけど……」
「……隊長? 遣いの方がお待ちですが……」
「あぁ、わかった、今行く」
再びかけられた声にそう応えると、レスターはアイリーンに手を差し出した。
「おいで。君の元フィアンセの驚く顔を、拝みに行こう」
「フィアンセ?……って……えっ!!……えええっ?!」
「……まさか、気づいてなかったの?」
「だ、だって……それどころじゃなかったんですもの……」
「何とまぁ。彼も気の毒に」
「ど、どうしましょう……やっぱり、失礼よね?……お兄様、ナイショにしててくださる?」
「ふぅん……まぁいいけどね。君が後でご褒美をくれるって言うんなら、黙っててあげても」
「……」
兄の笑顔が意地悪く見えるのは……きっと、たぶん、気のせい……。
そう思いたいアイリーンだった。
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