薄明宮の奪還

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第4部.リムウル~エンドルーア 第1章

16.兄弟と兄妹

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「兄上……どういうことですか?」

傭兵とは言え自分の部下に変わりはない男を兄が呼び出したと聞いて、ユリシウスは不審に思う気持ちをそのまま顔に表してそう言った。テントの中は兄と自分の二人きりだ。

「ユリシウス。あの男について、お前はどう思っている?」

「?……優しげな姿からは想像できないほどの腕の持ち主で、採用試験を見事な成績で勝ち抜いたと聞いております。

 あの若さにも関わらず隊長としても優秀な男です。

 第5部隊は彼が選出したトップ10名が非常に良くまとまっていて、おかげで隊全体の統率も、傭兵部隊としてはかつてないほどのレベルだと評判……」

デクテオンは手を振って彼の言葉を遮った。

「そんなことではなく……彼の瞳を見て、本当に何も感じなかったのか?」

「瞳……? 大変美しいと思いますが、……それが何か?」

「……」

ハアッとため息をついた兄を怪訝そうに見ていたユリシウスは、突然ハッと何かに気づいた様子で焦りだした。

「まさか……いけません兄上、いくら戦場に女っ気がないからと言って、そのようなおたわむれは……」

「違う!! なんで私が男を相手にしなくちゃならんのだ!」

「え、違うのですか? これは失礼を……いや、彼がとても、その……女と見まごうばかりに美しいので、てっきり兄上がそこに目を付けられたのかと……とんだ勘違いを……すみません」

赤くなって恐縮するユリシウスを前に、デクテオンはうつむき、目を閉じてこめかみを指で押さえた。


バカな子ほど親は可愛いと言うが……その気持ちがよくわかる。

幼い頃、他の兄弟にいびられていることさえ、本人は気づいていなかった。見るに見かねて、何度助けてやったか知れない。

しかしそんな彼だからこそ、自分は安心してそばに置くことができ、父も自分の片腕として、彼をつけてくれたのだろう……。

「……もうよい。お前はただこの場にいて、黙って話を聞いておれ」

「……はぁ」

気の抜けた返事をしたユリシウスは、いったい何の話なのだろうと首をひねるばかりだった。










「すまないが、ちょっと寄り道してもいいかな?」

要人たちのテントが集まっている辺りにさしかかった時、自分を迎えにきたデクテオンの遣いたちに、レスターはそう尋ねた。

レスターには一目で、いずれも相当な剣の使い手とわかる男たち5人だった。

彼らが互いに目を見交わす中、レスターはのんびりとした口調でアイリーンに話しかける。


「例の彼がいるテント、この近くだよね? できれば会いたいな」

「でも、彼はまだ眠ってると思うの」

「別にかまわないよ、ぼくは」


デクテオンの遣いの、リーダーらしい男が口を開いた。

「そんなことはデクテオン様とお会いした後でよいだろう?」

「さぁて、ねぇ……」

レスターは意味ありげに微笑んで腕を組み、少し身を引いて男たちを眺め渡した。

「……その後、自由にさせてもらえるかどうかわからないからさ。先に会っておきたいんだけど、どうしてもダメかな?」

口元の微笑みはそのままで、しかし彼らの反応をじっと観察しながらレスターはそう言った。

再び素早く目配せし合った後、しかたない、というようにリーダーがレスターにうなずいて見せる。


“ふぅん……よく言い聞かされているようだな。無礼ははたらくな、だが逃げようとしたら斬れ、ってところか。

 なかなか、心得たものだ。どうやら、兄の方は弟ほどバカではないらしい。

 ……当然か。両方アレでは、国が滅ぶ”

一人でクスクス笑い出したレスターに、アイリーンは不安な目を向けた。

「あの……? 自由に、って……」

その言葉を遮って、レスターは彼女の肩を抱き、陽気な声をあげた。

「さぁアイリーン、急いで案内してくれるかい。総大将をあまりお待たせしては申し訳ないからね」


テントの中で、ギメリックはやはりまだ眠っていた。

アイリーンは彼が苦しそうにしていないか、体温がまた下がっていないかと気になって、屈み込んで彼の頬に触れ、様子を見た。

その心のこもった仕草、彼女の彼を見る眼差しを見ただけでレスターは、彼に対する彼女の思いを感じ取った。

“なるほど……この子がなんだか色っぽくなったのはコイツのせいか……くそ! 怪我人じゃなきゃ絶対、殴ってやるのに”


「アイリーン……彼が石だけじゃなく、君を必要としたのはなぜなんだい?」

アイリーンが振り向くと、レスターはいつに似ず、怖いほど真剣な表情でギメリックを見下ろしていた。

「石が私を主に選んでしまったから……今、石の力を引き出せるのは私だけなの」

「……そう、……それじゃあ君はその力で、彼がエンドルーアの王座を奪い返す手助けをしている、そういうわけなんだね?」

「ええ、そうよ……」


アイリーンは少し驚きながら答えた。

自分がアドニアで語ったこと、そしてここに来て軍議で明らかにした情報だけを材料に、兄はその頭脳を使って導き出した答えをつなぎ合わせ、ほぼ正確に、自分たちの事情を悟ってしまったらしい。

しかし……兄の顔がひどく怒っているように見えるのはなぜだろう?


「アイリーン、ぼくがコイツのこと、どう思っているかわかるかい?」

「え?」

「そうせざるを得ない事情があった、ってことは分かるけど……それでもぼくは許せない。

 コイツは君を愛する父と兄の目の前で、ヌケヌケと君をさらって行ったんだ。

 父上とぼくの分、最低2回は殴られてもしかたないと思うな。

 きっと、今でも父上は死ぬほど君を心配している。一日も早く知らせを送るべきだよ」

「……ええ、そうね。ごめんなさい、お兄様……」

「君があやまることじゃない。コイツが目を覚ましたら、たっぷり思い知らせてやるさ」

「あの……お兄様、でも……この人がいなかったら、私は殺されていたわ。彼が助けてくれたの、命の恩人なのよ」

初めは彼が自分を殺そうとしていたなんて絶対、知られないようにしないと……アイリーンはそう思いながら一生懸命訴えた。


レスターはなぜかがっかりしたように肩を落とし、ため息をついて横を向いた。

「そんなことだろうと思ったよ……だから彼を放っておけないと言うんだろう?

 どうせ、ぼくが何を言ったって、ぼくと一緒にアドニアへ帰る気はないんだね」

「お兄様……」

申し訳なさそうな、困った様子になったアイリーンに、レスターはニッコリ笑ってみせた。

「それならぼくも強制送還されないようにがんばらなくちゃ。

 ……行こう。リムウルの王子たちと対決する前に、それだけ確かめておきたかったんだ」
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