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第1章
前世の記憶
しおりを挟む「……っ!」
無機質な音で目が覚めた。
耳元で響く携帯のアラームを乱暴に止め、枕に顔をうずめる。
「はぁ…、またあの夢かよ…」
うんざりとした声で呟き、彼はガシガシと頭を掻いた。
いつもなら、再び布団に潜り込んで二度寝のひとときを満喫するのだが、たまにそれができない時がある。
それは、決まって‘夢’を見た時だ。
のそのそと布団から起き上がり、制服に着替え始める。冬の冷気で冷たくなったシャツの袖に腕を通す度、ぶるりと背筋に寒気が走った。
狭い部屋に備え付けられた粗末な電気ストーブのスイッチを入れ、顔を洗いにキッチンへと向かう。
1DKのボロアパートには洗面台などついてなかったが、高校生の彼には十分だった。
受験した私立高校が、地元から程遠い位置にあったために始めた一人暮らしも、二年生の冬を迎えた彼にとってはもう手慣れたものだった。
部屋はわりと綺麗にしている方だが、やはり男の一人暮らしとはこんなものだろう。
ゴミ箱にはカップ麺の容器に散らかった衣服。
これを口うるさく注意する母親も、片付けてくれる優しい彼女もいない。
彼はふとため息を吐いた。
トースターにパンを入れ、その間に寝癖がついた髪をワックスで誤魔化す。
淡い群青色の髪は、度々生活指導の先生に注意されるが、これは歴とした地毛なので直しようがない。
焼きあがったトーストにバターを塗り、ものの数分でそれをたいらげると、ストーブのスイッチを消してダッフルコートを羽織り、早々と部屋を出た。
外に出た瞬間、凍てつくような風が吹きつけ、肩を竦める。
師走に差し掛かった冬の空は、雲ひとつ無い快晴で、彼はあの夢を思い出す。
‘最期’に見上げたあの景色。
あの時も、空は酷く澄んでいた。
吐いた息が白く濁って霧散していくのをぼんやりと見つめながら、彼はいつもの通学路を歩き始める。
早めに家を出たせいか、いつもより人気は少なく、辺りは閑散としていた。
『……思えば久しぶりにあの夢をみたな。』
明瞭に蘇る映像は、幼い頃からずっと見続けたものと少しも変わらない。
傷付いた身体、溢れ出る鮮血、蒼く澄んだ空、そしてーーー。
自分を呼ぶ、声。
彼には、‘前世’の記憶があった。
生前、存在した時代は凡そ400年前。
今で言う戦国時代だ。
当時彼は、ある武将の元で間者(忍)として仕えていた。
彼の主人であるあいつの名はーーー、
日本一の兵(つわもの)と謳われた、真田幸村。
彼は幸村に‘佐助’という名で呼ばれ、生涯真田幸村の間者ーー所謂「忍」として尽くした。何故、この記憶が未だに残っているのかはわからない。
だが偶然か必然か、彼は転生した後も‘佐助’という名が付けられていたのだ。
佐助の時間は400年前に止まったまま、その時を刻むことはなかったーーー。
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