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第1章
最後の記憶
しおりを挟む運命は偶然ではないーーー。
必然的にそうなる事が決まっている
‘普遍的事項’なのだ。
『なあ、どーいう意味だそれって?』
佐助は縁側に腰掛けている青年に問い掛ける。
『これか?うーん佐助にはちと難し過ぎたか。』
『…馬鹿にしてんのか。』
佐助が眉を顰めると、彼は意地悪く言う。
『いつまでたっても主人に敬語を使えない、物覚えの悪い馬鹿な忍だなんて、別に思っちゃいないさ。』
『……口の減らねえ野郎だ。』
『ふっ、お互いにな。』
彼はそう言って柔らかく微笑んだ。
月明かりに照らされた横顔は酷く綺麗で、佐助は息をするのも忘れて魅入る。
『………幸村………』
堪らず彼の名を呟くと、まるで子どものように小首を傾げて佐助の目を真っ直ぐ見つめ返す。
『どうした佐助?』
言ってしまいたかった。
いつからこんな気持ちを抱いていたのかも、思い出せない程ずっと前から、俺は……。
彼の頬にふわりと触れる。
『…佐助?』
『…いや、悪い。なんでもない。』
パッと手を離し、顔を逸らす。
これ以上は戻れなくなると、
理性が身体と心を縛り付ける。
佐助はただの忍で、彼は佐助の雇主で。
この関係はきっと死ぬまで変わらない。
彼の頬の熱が移った指先は、まだほんのりと暖かかった。
『佐助、言いたいことがあるのなら言え。こんな時代、いつ果てるともわからぬ命だ。』
不意に彼は真剣な眼差しで俺を見つめ、離した手を握り返した。
『……っ!』
胸が強く締め付けられる。
刀で斬られた時よりも、
拷問を受けた時よりも、
銃で撃たれた時よりも、
ココロが痛くて堪らなかったーーー。
『…なに言ってやがる。お前が簡単にくたばる訳ないだろ。
だってーーー、
お前の事は、俺が未来永劫護るから。』
それが、佐助の精一杯の告白だった。
彼は暫し黙考した後、無言で佐助の手を更に強く握りしめた。
それが果たしてどんな意味を持っていたのか、今となってはもう確かめる術はない。
それが、彼と一緒に過ごした最後の穏やかで切ない記憶だったーーー。
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