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第2章
お前が呼んだ名は
しおりを挟む「…?」
微かな呻き声が聞こえたかと思うと、遊馬が重たげな瞼をうっすらと開いているところだった。
「…お、漸く目が覚めたか遊馬。」
「っ!!」
まだ意識が覚醒していない遊馬に声を掛けると、勢い良く上半身を起こした。だが急に動いた身体に脳が付いていかなかったのか、また遊馬は力なく枕に沈む。
「おいおい無理すんな。軽い貧血と過呼吸だそうだが、具合が優れないなら早退するか?」
無理してまた倒れるようなことがあったらことだ。遊馬はうっすらと汗の滲んだ額に手をやり、今度はゆっくりと身体を起こす。
「…いま、何時っすか…?」
真田はシャツの袖を捲って、時計を見やった。
「えーと…、もう少しで十二時になる。もう昼飯の時間だな。」
そういえば、遊馬はいつも昼飯はどうしているのだろう。
高身長のわりには随分と華奢に見えるし、普段あまり食べていないのではないかと心配になる。
「遊馬って一人暮らしなんだってな。ちゃんと飯食ってんのか?カップ麺ばっかじゃ栄養取れないぞ。」
男子高校生の一人暮らしなら、部屋に山積みになったカップ麺が目に浮かぶ。遊馬も図星なのか、口を尖らせて押し黙っている。
「どうする、帰るなら俺が家まで送るぞ?」
「…いや、大丈夫です。」
遊馬は素っ気なく返事をして、ふいと真田から視線を逸らす。
そういえば、遊馬は自分と目を全然合わせようとしない。
唯一合ったのは、真田が遊馬の名前を呼んだ時だけだ。あの時、遊馬は一体何を思っていたのだろう。
「そうか、じゃあ北条先生には俺から伝えておくよ。」
重苦しい沈黙を破るように、真田は事務机に置かれた電話を取り、内線に繋ぐ。
どうやら北条は、自分の代わりに遊馬の容体を他の先生に説明してくれていたらしい。
少し変わった人だが、気の利くいい人だと真田は思った。
真田は遊馬の具合が良くなった旨を手短に伝えて受話器を置く。
振り返ると、遊馬が急いでベッドから降りて上履きに足を突っ込み、真田に一瞥もくれないまま教室から出て行こうとする。
遊馬の背中を見ると、真田はまた言いようのない焦燥感に駆られた。
このまま二度と逢えなくなってしまうのではないか?
そんな馬鹿げた感情が真田の中で這い回る。
理由はわからない。
ただ、こんなに近くにいる遊馬の存在がとても遠くに感じる。だが真田は、どうしても遊馬に聞きたいことがあった。
「…なぁ遊馬…。」
「…はい?」
教室を出て行こうとした遊馬を呼び止める。
それでもなお、遊馬は振り向くことなく声だけを此方に寄越した。
真田は意を決して口火を切る。
「…ゆきむら…って、真田幸村のことか?」
「!!」
そう、確かに遊馬があの時呟いた名前…。
幸村ーーー。
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