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第5章
旧友
しおりを挟む「伊達先生!」
看護師が叫んだ名前に反応する。
「よお。久しぶりだな、悠希。」
「…え?」
真田は困惑したように押し黙り、ジッと黒い眼帯の男を見つめた。
『誰…だ?でもこの声、何処かで…』
必死に頭を巡らせていると、男はくつくつと喉を鳴らして笑う。
「俺の事忘れたわけじゃないよな?真田悠希。」
その瞬間、真田の脳内にはっきりと一人の男の像が映し出された。
「…ま、さと?お前、伊達理人か!?」
真田は驚いた声を上げる。
「なんでお前がここに…」
「話は後だ。お前はロビーで待ってろ。」
「あ、ああ…。」
すぐに看護師が運んできたストレッチャーに佐助を乗せ、理人は処置室へと入って行った。
赤い蛍光灯が点灯すると、辺りは波を打ったように静まり返り、真田は脱力してその場にしゃがみ込む。
まだ仄かに、身体に佐助の熱が移っていて、手を見ると微かに震えていた。
色々なことが一気に起き過ぎて、頭が回らない。
真田は重たい身体を引きずるようにして、ロビーへと向かった。
…
……
………
ロビーの端にあった携帯電話使用許可区域で、一先ず学校に連絡を入れる。
電話に出たのは、津田だった。
事情を話すと、佐助にきちんと連絡を取らなかった自分の責任だと酷く後悔していた。
「ありがとうございました真田先生。遊馬の実家には私の方から連絡しておきますので、先生はそのまま遊馬に付き添ってあげて下さい。」
「はい、ではよろしくお願いします。」
電話を切り、ふっと息を吐く。
きっと佐助の祖母も心配しているだろう。しかし、佐助の実家は県外だった筈だから今日中の迎えは恐らく無理だろう。
入院となれば話は別だが、治療が終わり次第帰れるというなら、佐助はまた一人暮らしの家に帰らなければならないのだ。
いくら何でもそれはさせられない。
その時は、佐助を無理矢理にでも、自分の家に連れて帰るつもりだった。
『俺はもう、遊馬から逃げたくない。』
きちんと向き合い、そして自分が見た幻の真意を知りたいのだ。
極度の緊張から解放されたせいか、急に猛烈な眠気が真田を襲う。
真田はロビーのソファに凭れ掛かり、暫しの仮眠を取る事にした。
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