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第8章
願わくは
しおりを挟む一週間ぶりに帰ってきたアパートの自室は心底冷え切っており、佐助は水道が凍結していないかと慌てて蛇口を捻った。
何度か詰まったような鈍い音を響かせた後、まだらに水が流れ出るのを見て安堵の息を吐く。
まだ登校するのには早い時間で、佐助は電気ストーブの電源を入れて久方ぶりの制服に袖を通す。
ストーブの前に胡座をかき、緩やかに赤く染まる蛍光灯をジッと見つめながら黙考する。
『…あいつの態度が変わった理由、なんとなくわかった気がする…。』
政宗が自分から電話を取り上げた時に言ったあの言葉ーーー。
あれから察するに、きっと病院で真田が政宗に何か言われたのだろう。
『俺に関する事だろうな…。』
政宗が自分に対して抱いていた気持ちに気付かなかったわけじゃない。
ただ、政宗に甘えていたのだ。
何もかも忘れて、互いを貪り合う事に。
だけど皮肉なことに、命のやり取りのような情事の中で佐助は気付いてしまった。
何度、輪廻転生しようとも自分はもう、幸村以外を愛することはない。
否、愛することができない。
だけど、先に約束を違えたのは自分自身だ。
最期まで幸村を護り切れなかった。
『その咎は、この生き地獄で償う。』
多くは望まない。
あの時、一瞬でも自分の腕の中に抱いた真田の…、幸村の鼓動と体温を感じることができただけで佐助は充分だった。
自分の知っている幸村はもういない。
今の幸村は、戦のない平和な世界を生きている。
友人や家族が離れ離れになったり、死ぬことになったりしない、あの時代に比べたら夢のような世界を。
もう二度と、あんな辛い思いはしないで欲しい。
ただそれだけを佐助は願い、眼を閉じた。
願わくは…未来永劫、
貴方に幸あらんことを。
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