忍の恋は死んでから。

朝凪

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第14章

真田幸村

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刻一刻と迫る終業のチャイムを、佐助は只管じっと待つ。

数分前には見直しも終え、ケアレスミスがないか普段よりも念入りに解答欄を確認した。

佐助が深呼吸すると同時に、チャイムが鳴り響く。

一気に教室の緊張感が解け、喧騒感に包まれる。

「やーっと1日目終了~!な、な!佐助!今回のテスト範囲、意外と狭かったよな。お陰で覚える公式が少なくてなんとかなったよ」

「…その分、次のテスト範囲が広くなきゃいいけどな」

「げっ!それは勘弁だわ……」

いつものように小太郎と軽口を叩いていると、テスト教官だった先生が帰りのHRは省略するから早く下校しろと生徒たちをせっついていた。

「じゃあ佐助、また明日な!具合悪かったら無理はするなよ」

「おう、またな」

廊下で小太郎と別れ、佐助は人垣が捌ける頃合いを見計らって真田に指定された場所へと向かう。

三階廊下の一番端にある教材準備室と書かれたプレートを見上げ、佐助はゆっくりとドアに手を掛けた。

「…真田、俺だ」

中へ入ると、天井までうず高く積まれた書類が無造作に棚に押し込められているのが目に付き、かなりの圧迫感を感じる。

棚が幾重にも連なっており、一目では真田を視認出来なかった。

『…いや、それどころかを感じない?』

まだ来ていないのかと佐助は微かに安堵する。その時、部屋の奥からガタリと物音が響き、佐助はびくりと肩を震わせた。

「お前…」

物音がするまで、一切の気配を佐助は感じなかった。いや、感じる事が出来なかったのだ。

武者震いに似た感覚が佐助の脳に迸る。

『こんな芸当が出来るのは…彼奴あいつだけだ…』



「400年ぶりだな。……佐助」



声のした方へ振り向くと、漸く真田の姿を見る事が出来た。

の、お前なんだな…』

真田悠希の時と、容姿や声は変わらない。

だがーーー、

佇まいや雰囲気、そして身に纏った気配は、今迄のものと根本から違う。



「幸村……っ!」



佐助の身体は無意識に、真田の前で片膝を付いてこうべを垂れていた。

静寂に包まれる中、真田はそっと佐助の頬に手を触れ、顔を上げさせる。

「永いこと待たせてすまなかったな。もう一度、現世で佐助に会えて良かった」

「っ…!」

柔らかく微笑む真田を見て、言い知れぬ感情が佐助の中で渦巻いていく。

叶わぬ願いだと、消えた過去だと何度も何度も自分に言い聞かせてきた。


ただ、苦しかったーーー。
幸村のいない世界が。息もできない程に。


佐助は真田の腕を引き寄せ、力強く抱き締めた。

「ん…!さ、佐助…!?」

突然の事で困惑した真田は微かに身じろぐも、佐助はびくともしない。このまま抱き潰しそうな勢いだが、真田の後頭部に回された掌だけが、優しく髪を梳いていく。

それが酷くくすぐったくて、真田は佐助の背中に手を回す。

「佐助…!こ、これではまともに話も出来ないっ」

少し苦しげに呻くと、漸く佐助は腕の力を緩めた。だが真田を腕の中からは離そうとしない。

「お、おい佐助……?」

距離が近過ぎるせいで、真田は佐助の表情を窺い知る事が出来なかった。

「悪い……もう少し、このままで居させてくれ……」

「………」

佐助のまるで懇願するような物言いに、真田は何も言えなくなってしまう。

消え入りそうな声はまるで幼な子が泣くのを我慢しているようで、真田は静かに佐助の背中を落ち着くまで撫で続けていた。
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