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第14章
別の器
しおりを挟む「……今のお前は、真田幸村で間違いないんだな?」
少し早く脈打つ心臓を抑えながら、佐助はゆっくりと問い掛ける。
「ああ。今の時代では随分と美化されて伝わっている、日の本一の兵だよ」
「…自分で言うなよ」
そう言うと真田は冗談めかしく笑う。そのお陰で佐助は少し緊張の糸が解れた。
「思い出したのはいつだ?…やっぱり、あの保健室でなのか」
佐助は無意識に眉を顰める。
「全て思い出したのはそうだ。だけど以前から断片的ではあるが、真田悠希以外の記憶が呼び起こされることが度々あった。最初は確か、佐助に初めて会った時だと思う」
「!」
深い縁に導かれるように、今世で初めて会ったあの瞬間から、真田は確かに佐助という存在に何か惹かれるものがあったのだ。
『俺だけじゃ…なかったんだ』
それだけで佐助は胸のすく思いだった。真田は目を逸らすことなく続ける。
「初対面の筈なのに、何故か佐助の事が放っておけなかった。ただ今思えば、記憶のない俺に付き纏われるのは至極辛いものがあっただろう。すまなかったな」
そう言うと真田は深く頭を下げた。慌てて佐助は真田の顔を上げさせる。
「……いや、俺の方が大人気なかった。前世の記憶がないのなら、無理に思い出さない方がお前のためだと思ったから、自分勝手に距離を取ろうとしたんだ」
それは些か乱暴過ぎる手段で、嫌悪されるべきものだっただろう。だが生まれ変わっても、真田の性格はそう簡単に変わらなかったらしい。
「久しく忘れていたよ。幸村はそんなんじゃ突き放せないってな」
「!……そうだな。それは佐助が一番嫌と言うほど分かっていると思っていたが…」
戦乱の世を全力で生き抜いた者達は、総じて物事に対する諦めが悪い。良くも悪くもだ。
ふと真田は虚空を見つめ、短く息を吐く。
「なんだか妙な気分だよ。真田悠希としての自分は確かにあるのに、真田幸村としての自分もいる…。己がどう在るべきなのか、まだ不確かで曖昧だ」
真田は少し困惑した笑みを浮かべる。
「後天的に思い出した分、この先辛い事は多いと思うぜ。俺は生まれつきのものだったが…」
ふと、政宗の事が頭を過った。
『政宗も事故の衝撃で思い出したって言ってたもんな』
そう逡巡していると、真田はあっと声を上げた。
「…そうだ!今思えば彼奴は…伊達!伊達理人って…まさか」
「!……ああ、彼奴も転生者だ。伊達政宗のな」
真田はタイミングを見計らったように、政宗についての記憶も蘇ったようだ。
佐助が肯定すると、真田は瞠目する。
「佐助は知っていたのか?政宗も前世の記憶があったことを…」
「いや、政宗もお前と同じ後天的に思い出したようだ。きっかけは高校時代の事故だと聞いたぞ」
「事故……。噂では聞いてはいたが、まさか理人が急に学校を来なくなった理由って…」
佐助は黙って頷いた。
『全く違う器の人間に急に代わるなんて、普通はあり得ない。政宗なりに随分と苦労したのだろうな…』
高校時代、誰にも告げず転校していったのは、政宗なりに悩んだ結果だったのだろう。
真田は病院で政宗に言われた事を思い出した。
”何も知らないお前が近くに居るだけで、どれだけあいつが苦しんでいると思ってる”とーーー。
今ならその気持ちが痛い程わかる。真田はぐっと唇を噛み締めた。
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