決戦の夜が明ける ~第3堡塁の側壁~

独立国家の作り方

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第1堡塁の戦い

第70話 本日、作戦初日にして

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 無名の高校を全国大会へ出場させる、それは偶然ではない、三枝龍二というカリスマの存在があっての必然であった。
 優は、今目の前で「戦術」の世界でこれが成就じょうじゅしていることに興奮と高揚感を覚えていた。
 そして、それを最も理解出来ているのが自分自身であることへも。
 同じくこの無線によって、龍二の信頼が求心力に変化してゆく状況を、次第にみんなが気付き始めると、苦笑いにも似たおかしさがこみ上げて来て、それまで沈みがちだった全員の心が軽くなるとともに、最良の指揮官を得たという高揚感から、足が自然と前に向くようになってゆくのである。



 そして龍二は、再び無線のマイクを取り、こう述べるのである。

「これで敵の企図は、はっきりしただろう。これから当面作戦について述べる。下車展開した徒歩兵は、そのまま本日の14時までに目標線Aオブジェラインアルファへ向け足並みを揃えること。機甲部隊は現地域で防戦準備をしつつ、本日14時30分ひとよんさんまるに目標線Aへ到達するよう、13時50分ひとさんごうまるに現地点を出発せよ。」

 ここで、今まで所在が不明であった三枝軍の機甲部隊が、実はまだ戦闘展開線の遥か後方に温存されていることが、無線の内容で明らかになった。
 これは、緒戦において、三枝軍の戦車がほぼ無傷で残存していることを示す。
 また、この無傷の戦車群は、味方の護衛を一切しなかったことで、敵軍にその所在を察知されることなく、徒歩兵が目標線Aに到達する時間に合わせて、全速力で走行させ、速度の遅い徒歩兵との時間差を一気に縮める作戦であった。
 徒歩兵を早期に下車展開させたのは、敵に下車展開中の弱点を捕捉ほそくされることを避けただけではなく、敵に自軍の突撃発揮時期とつげきはっきじきを夜間と見せかけ、実は戦闘初日に第一堡塁を攻略させるために、徒歩兵とほへいを早期に下車させていたのであった。
 そして、あの地味に長い、完全武装でゆっくり走る訓練は、この時のためであったことを、54連隊の下士官は気付いた。
 第一師団側は、三枝軍の兵士が徒歩で移動した場合の時間を、通常の高校生の歩く速度で逆算していた、しかし、実体は、彼らはゆっくりと、しかし確実に「走る」のである。
 これにより、師団の見積もりの二倍の速度で徒歩兵は機動することができる。
 この行為が、第一師団側から見た三枝軍の進行速度に差が生じ、到着予想時刻を大幅に誤認させる作戦であった。

 それと同時に、54連隊6中隊のメンバーは、あの伝説の第3堡塁の側壁到達以来、久々の伝説が生まれる瞬間に立ち会える、という高揚感に沸いていた。
 それも、あの懐かしい三枝啓一1尉の弟による見事な指揮によって。

「よし、みんな、もういいだろう。俺たちは指揮官の決めた事にしっかり従うだけだ、練習通りついてこいよ」

 54連隊6中隊の下士官達は、一様に笑顔であった。


 そして、幕僚陣ばくりょうじんはこの後、忘れられない一言を聞くことになる、それは将校としての人生において、何が作戦の正否せいひを決めるかの指標となるものであった。
 龍二はおもむろにマイクを取ると

「敵の兵力は我が方の3割である。敵が夜間配備として陣前に兵力を配置し始めるのは15時頃と予想される。敵は第一堡塁で我々を撃滅すべく、第2、第3堡塁の兵力を一時的に第1堡塁に集結させているはずだ。この兵力を撃滅させ、その後の敵の防御を困難にさせる。本日、作戦初日にして、第一堡塁の攻略こそが決勝点となる。勝機は今しかない。」
 
 野球で言えば、第一打席の初球をフルスイングで振り抜くような行為である、それも草野球少年が、メジャーリーグのマウンドでそれを行うに等しい。
 今回の戦いは負けられない戦いだ、弟昭三の命がかかっている、それらを全て総合して、三枝龍二はこの一ヶ月の間、この一振りに全てをかけていたことになる。

そう、この日、再び決戦の夜が明けたのである。
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