その失踪事件には 〇〇人が関与している

独立国家の作り方

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合同捜査本部

第60話 私の背中を

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 邦弘がノックをすると、何ら躊躇なく扉が開き、私たちを出迎えてくれる関係者の人が出て来た。
 こんな控室だと言うのに、どこまでもコンサートの余韻が辺りを支配している。
 
 控室に入ると、そこには談笑するビルの姿があった。来栖君だ。

「・・・・来栖君」

 私は思わず、日本人名である来栖君の方の名前を呼んでしまった。
 名前に反応したのではないと思うけど、ビルは関係者の人に声をかけられて、私たちの方を向いた。
 ゆっくりと立ち上がり、彼はこちらに近付いてくる。
 沙奈枝はもう、口に手を当てて涙目になって固まったままだ。
 私は・・・・この時一体、どんな顔をしていたんだろう。
 そして、ビルはモンゴル語で、ゆっくりと私たちに語り掛けた。

「こんばんは、日本のファンの方々、ようこそ、ウランバートルへ。今日のステージはどうでしたか?」

 興奮する沙奈枝は、もうせっかく勉強してきたモンゴル語が全く出てこない。
 私は・・・・何故か愕然とした。
 それなりに、愛想よく言葉を返したと思う。
 でも、何て言ったか、もう覚えていない。
 なぜなら、目の前に居る人物は、ビルであって来栖 聡君では無かったからだ。
 もしかしたら、少しは私に反応するんじゃないか、なんて思っていた。そしたら、二人の新しい時間が始まるんじゃないかって、少しだけ期待していた。
 ビルのファンに対する優しい言葉は、プロとして正しい言葉の羅列だったと思うけど、彼氏彼女の会話では到底無かった。
 そしてビルは、最後に「カップルでファンなんて、本当に嬉しいです。日本のファンの方と、また交流したいです」と、紳士な言葉をくれた。
 
 私には、それが本当に苦しかった。
 邦弘と私が並んでいても、ビルは嫉妬どころか喜んでいたんだ。
 去り際に、私たち三人と、ビルは握手をしてくれた。
 沙奈枝はもう手を洗わないと言って、大興奮だったが、正直私は早くホテルに帰って手を洗いたかった。
 この現実から目覚めて、早く自分を取り戻したいとさえ思えた。
 
 もういっそのこと、来栖 聡君を全て上書きしてしいまいたいと。

 興奮して呆けている沙奈枝と、同じように呆けているように見えるのだろう、私の方は、半ば自暴自棄になっていた。
 邦弘が「夕食はどうする?」と聞いて来たが、何かを食べる気にはなれなかった。私は「適当でいいよ。邦弘、悪いけどお腹減っているなら、一人でレストラン行って」と、突き放すように言った。
 邦弘が、落ち込む私の背中を、後ろから強く抱きしめて来る。

「・・・・ちょっと、なによ。同情なら迷惑だわ。今日はそっとしておいてよ」

「違う・・・・でも、多分、これで合っている」

 よく解らない言葉を発した邦弘は、私をベッドに押し倒し、抱きついてきた。
 彼の体重が乗って来ると、私はベッドと邦弘に挟まれて重い。
 それでも、今の私には、これくらいの重さが丁度良いとさえ感じられる。
 ・・・・邦弘って、意外と胸板、厚いんだな。
 普段はロボットみたいなクセして、こんな時ばかり男らしい。
 もう、いいや。
 私、邦弘に全部任せよう。
 
 彼は意外と、優しかった。
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