61 / 85
合同捜査本部
第60話 私の背中を
しおりを挟む
邦弘がノックをすると、何ら躊躇なく扉が開き、私たちを出迎えてくれる関係者の人が出て来た。
こんな控室だと言うのに、どこまでもコンサートの余韻が辺りを支配している。
控室に入ると、そこには談笑するビルの姿があった。来栖君だ。
「・・・・来栖君」
私は思わず、日本人名である来栖君の方の名前を呼んでしまった。
名前に反応したのではないと思うけど、ビルは関係者の人に声をかけられて、私たちの方を向いた。
ゆっくりと立ち上がり、彼はこちらに近付いてくる。
沙奈枝はもう、口に手を当てて涙目になって固まったままだ。
私は・・・・この時一体、どんな顔をしていたんだろう。
そして、ビルはモンゴル語で、ゆっくりと私たちに語り掛けた。
「こんばんは、日本のファンの方々、ようこそ、ウランバートルへ。今日のステージはどうでしたか?」
興奮する沙奈枝は、もうせっかく勉強してきたモンゴル語が全く出てこない。
私は・・・・何故か愕然とした。
それなりに、愛想よく言葉を返したと思う。
でも、何て言ったか、もう覚えていない。
なぜなら、目の前に居る人物は、ビルであって来栖 聡君では無かったからだ。
もしかしたら、少しは私に反応するんじゃないか、なんて思っていた。そしたら、二人の新しい時間が始まるんじゃないかって、少しだけ期待していた。
ビルのファンに対する優しい言葉は、プロとして正しい言葉の羅列だったと思うけど、彼氏彼女の会話では到底無かった。
そしてビルは、最後に「カップルでファンなんて、本当に嬉しいです。日本のファンの方と、また交流したいです」と、紳士な言葉をくれた。
私には、それが本当に苦しかった。
邦弘と私が並んでいても、ビルは嫉妬どころか喜んでいたんだ。
去り際に、私たち三人と、ビルは握手をしてくれた。
沙奈枝はもう手を洗わないと言って、大興奮だったが、正直私は早くホテルに帰って手を洗いたかった。
この現実から目覚めて、早く自分を取り戻したいとさえ思えた。
もういっそのこと、来栖 聡君を全て上書きしてしいまいたいと。
興奮して呆けている沙奈枝と、同じように呆けているように見えるのだろう、私の方は、半ば自暴自棄になっていた。
邦弘が「夕食はどうする?」と聞いて来たが、何かを食べる気にはなれなかった。私は「適当でいいよ。邦弘、悪いけどお腹減っているなら、一人でレストラン行って」と、突き放すように言った。
邦弘が、落ち込む私の背中を、後ろから強く抱きしめて来る。
「・・・・ちょっと、なによ。同情なら迷惑だわ。今日はそっとしておいてよ」
「違う・・・・でも、多分、これで合っている」
よく解らない言葉を発した邦弘は、私をベッドに押し倒し、抱きついてきた。
彼の体重が乗って来ると、私はベッドと邦弘に挟まれて重い。
それでも、今の私には、これくらいの重さが丁度良いとさえ感じられる。
・・・・邦弘って、意外と胸板、厚いんだな。
普段はロボットみたいなクセして、こんな時ばかり男らしい。
もう、いいや。
私、邦弘に全部任せよう。
彼は意外と、優しかった。
こんな控室だと言うのに、どこまでもコンサートの余韻が辺りを支配している。
控室に入ると、そこには談笑するビルの姿があった。来栖君だ。
「・・・・来栖君」
私は思わず、日本人名である来栖君の方の名前を呼んでしまった。
名前に反応したのではないと思うけど、ビルは関係者の人に声をかけられて、私たちの方を向いた。
ゆっくりと立ち上がり、彼はこちらに近付いてくる。
沙奈枝はもう、口に手を当てて涙目になって固まったままだ。
私は・・・・この時一体、どんな顔をしていたんだろう。
そして、ビルはモンゴル語で、ゆっくりと私たちに語り掛けた。
「こんばんは、日本のファンの方々、ようこそ、ウランバートルへ。今日のステージはどうでしたか?」
興奮する沙奈枝は、もうせっかく勉強してきたモンゴル語が全く出てこない。
私は・・・・何故か愕然とした。
それなりに、愛想よく言葉を返したと思う。
でも、何て言ったか、もう覚えていない。
なぜなら、目の前に居る人物は、ビルであって来栖 聡君では無かったからだ。
もしかしたら、少しは私に反応するんじゃないか、なんて思っていた。そしたら、二人の新しい時間が始まるんじゃないかって、少しだけ期待していた。
ビルのファンに対する優しい言葉は、プロとして正しい言葉の羅列だったと思うけど、彼氏彼女の会話では到底無かった。
そしてビルは、最後に「カップルでファンなんて、本当に嬉しいです。日本のファンの方と、また交流したいです」と、紳士な言葉をくれた。
私には、それが本当に苦しかった。
邦弘と私が並んでいても、ビルは嫉妬どころか喜んでいたんだ。
去り際に、私たち三人と、ビルは握手をしてくれた。
沙奈枝はもう手を洗わないと言って、大興奮だったが、正直私は早くホテルに帰って手を洗いたかった。
この現実から目覚めて、早く自分を取り戻したいとさえ思えた。
もういっそのこと、来栖 聡君を全て上書きしてしいまいたいと。
興奮して呆けている沙奈枝と、同じように呆けているように見えるのだろう、私の方は、半ば自暴自棄になっていた。
邦弘が「夕食はどうする?」と聞いて来たが、何かを食べる気にはなれなかった。私は「適当でいいよ。邦弘、悪いけどお腹減っているなら、一人でレストラン行って」と、突き放すように言った。
邦弘が、落ち込む私の背中を、後ろから強く抱きしめて来る。
「・・・・ちょっと、なによ。同情なら迷惑だわ。今日はそっとしておいてよ」
「違う・・・・でも、多分、これで合っている」
よく解らない言葉を発した邦弘は、私をベッドに押し倒し、抱きついてきた。
彼の体重が乗って来ると、私はベッドと邦弘に挟まれて重い。
それでも、今の私には、これくらいの重さが丁度良いとさえ感じられる。
・・・・邦弘って、意外と胸板、厚いんだな。
普段はロボットみたいなクセして、こんな時ばかり男らしい。
もう、いいや。
私、邦弘に全部任せよう。
彼は意外と、優しかった。
1
あなたにおすすめの小説
わたしの下着 母の私をBBA~と呼ぶことのある息子がまさか...
MisakiNonagase
青春
39才の母・真知子は息子が私の下着を持ち出していることに気づいた。
ネットで同様の事象がないか調べると、案外多いようだ。
さて、真知子は息子を問い詰める? それとも気づかないふりを続けてあげるか?
どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~
さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」
あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。
弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。
弟とは凄く仲が良いの!
それはそれはものすごく‥‥‥
「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」
そんな関係のあたしたち。
でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥
「うそっ! お腹が出て来てる!?」
お姉ちゃんの秘密の悩みです。
百合ランジェリーカフェにようこそ!
楠富 つかさ
青春
主人公、下条藍はバイトを探すちょっと胸が大きい普通の女子大生。ある日、同じサークルの先輩からバイト先を紹介してもらうのだが、そこは男子禁制のカフェ併設ランジェリーショップで!?
ちょっとハレンチなお仕事カフェライフ、始まります!!
※この物語はフィクションであり実在の人物・団体・法律とは一切関係ありません。
表紙画像はAIイラストです。下着が生成できないのでビキニで代用しています。
中1でEカップって巨乳だから熱く甘く生きたいと思う真理(マリー)と小説家を目指す男子、光(みつ)のラブな日常物語
jun( ̄▽ ̄)ノ
大衆娯楽
中1でバスト92cmのブラはEカップというマリーと小説家を目指す男子、光の日常ラブ
★作品はマリーの語り、一人称で進行します。
上司、快楽に沈むまで
赤林檎
BL
完璧な男――それが、営業部課長・**榊(さかき)**の社内での評判だった。
冷静沈着、部下にも厳しい。私生活の噂すら立たないほどの隙のなさ。
だが、その“完璧”が崩れる日がくるとは、誰も想像していなかった。
入社三年目の篠原は、榊の直属の部下。
真面目だが強気で、どこか挑発的な笑みを浮かべる青年。
ある夜、取引先とのトラブル対応で二人だけが残ったオフィスで、
篠原は上司に向かって、いつもの穏やかな口調を崩した。「……そんな顔、部下には見せないんですね」
疲労で僅かに緩んだ榊の表情。
その弱さを見逃さず、篠原はデスク越しに距離を詰める。
「強がらなくていいですよ。俺の前では、もう」
指先が榊のネクタイを掴む。
引き寄せられた瞬間、榊の理性は音を立てて崩れた。
拒むことも、許すこともできないまま、
彼は“部下”の手によって、ひとつずつ乱されていく。
言葉で支配され、触れられるたびに、自分の知らなかった感情と快楽を知る。それは、上司としての誇りを壊すほどに甘く、逃れられないほどに深い。
だが、篠原の視線の奥に宿るのは、ただの欲望ではなかった。
そこには、ずっと榊だけを見つめ続けてきた、静かな執着がある。
「俺、前から思ってたんです。
あなたが誰かに“支配される”ところ、きっと綺麗だろうなって」
支配する側だったはずの男が、
支配されることで初めて“生きている”と感じてしまう――。
上司と部下、立場も理性も、すべてが絡み合うオフィスの夜。
秘密の扉を開けた榊は、もう戻れない。
快楽に溺れるその瞬間まで、彼を待つのは破滅か、それとも救いか。
――これは、ひとりの上司が“愛”という名の支配に沈んでいく物語。
ヤンデレ美少女転校生と共に体育倉庫に閉じ込められ、大問題になりましたが『結婚しています!』で乗り切った嘘のような本当の話
桜井正宗
青春
――結婚しています!
それは二人だけの秘密。
高校二年の遙と遥は結婚した。
近年法律が変わり、高校生(十六歳)からでも結婚できるようになっていた。だから、問題はなかった。
キッカケは、体育倉庫に閉じ込められた事件から始まった。校長先生に問い詰められ、とっさに誤魔化した。二人は退学の危機を乗り越える為に本当に結婚することにした。
ワケありヤンデレ美少女転校生の『小桜 遥』と”新婚生活”を開始する――。
*結婚要素あり
*ヤンデレ要素あり
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる