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ベータからアルファへ
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「ねぇお兄さん。どう? ここ寄ってかない?」
晩飯を食おうと夜の繁華街を歩いていると、チャラそうな男の子が俺にそう言ってキャバクラのチラシをピラピラと見せてきた。
美人たちがずらりとチラシいっぱいに並んでいる。
じっと見てしまう俺に、「お、誰かいい子います?」と二つ折りにしていたチラシを広げた。
すると後の半分には男の写真もわずかに載っていた。
「……男もいるのか」
思わずつぶやくと、「男がいいっすか?」とおかしそうに聞いてくるから、「別に」と肩をすくめた。だが、チャラい男はヘラヘラ笑いながら一人の男性を指さした。
「こいつ人気っすよ」
可愛いな。普通にきれいな顔をしている。
「あぁ、そう。どう人気なの」
「どうって……、それはご指名いただけたら分かりますよ」
たぶん何も知らないのだろう。
そうか、とだけ返事し、俺はチラシを受け取った。
「また今度行く。今はちょっと手持ちがない」
悪いな、と簡単に謝って、程近くにあった焼き鳥屋で晩飯を済ませた。
それから数日。
母に強引に連れられ、俺は役場でアルファ認定書をもらうことになった。いい迷惑だ、とぶつくさ言う俺に、母はそのたびバシっと太ももを叩いてきた。
会社にもちゃんと申請するんだよ!と口酸っぱく言われまくったが、役場で認定書を貰った以上、会社に言わないと給料が上がらないわけだから、来年の納税時にひぃひぃ言うことになる。言われなくても申請するわと文句を言い、この際だからもう勢いに任せて全部アルファ認定の申請を出しまくった。
本当の本当にいい迷惑。
どうせアルファになるなら……、この普通の面構えもイケメンに作り替えてくれたらいいのにな。
その夜、また俺はふらりと飯を食いに繁華街へと繰り出した。
そしてまた声をかけられた。
「おに~いさん。どっすか、女の子、可愛いの揃ってますよ」
見たことのあるチラシ。ちらりとキャッチの男の子を見ると、偶然にもこの前と同じ子だ。
「あー……、給料日前なんで、また今度」
そう言ってチラシだけ受け取り逃げようと思った。
だけどその子はてけてけと俺について来て、「まぁまぁそう言わずに、一杯だけ。ね? うちの店、良心的なんで他より安いですよ」なんてホントか嘘か分からない落とし文句を使ってくる。
「いや、いいってば。今日はそんな気分じゃないんだよ」
「またまた~。お兄さんいい給料もらってんでしょ?」
そう言ってぐいぐい肘で押してくる。
「いい給料?」
「アルファでしょ?」
びっくりした。生まれて初めて言われた。
「…………ベータだ」
とっさについた嘘は、自分がアルファだということを認めたくなかっただけだ。きっと、普通の人なら喜ぶのだろう。ベータがアルファになったと、母のように天にも昇る気分なのかもしれない。
だけど俺はそうじゃない。ずーっとベータで居たかった。別に人間の価値なんて上げようとは思わないし、世間の期待を背負ってアルファをするくらいなら、何の期待もされずに平均的な生活を送れるベータが絶対に楽でいいじゃないか。そうだろう?
チャラい男はベータだという俺を無表情のままじっと見つめてくるから、「お前はなんだ」と聞き返した。すると少しの沈黙の末、「ベータです」と返事した。
「同じベータ。楽でいいよな?」
言うと男は口元を吊り上げ、「そうですね」と返事すると、それ以上は追いかけて来なかった。
アルファなんて、俺にはあまりに手持ち無沙汰だ。
晩飯を食おうと夜の繁華街を歩いていると、チャラそうな男の子が俺にそう言ってキャバクラのチラシをピラピラと見せてきた。
美人たちがずらりとチラシいっぱいに並んでいる。
じっと見てしまう俺に、「お、誰かいい子います?」と二つ折りにしていたチラシを広げた。
すると後の半分には男の写真もわずかに載っていた。
「……男もいるのか」
思わずつぶやくと、「男がいいっすか?」とおかしそうに聞いてくるから、「別に」と肩をすくめた。だが、チャラい男はヘラヘラ笑いながら一人の男性を指さした。
「こいつ人気っすよ」
可愛いな。普通にきれいな顔をしている。
「あぁ、そう。どう人気なの」
「どうって……、それはご指名いただけたら分かりますよ」
たぶん何も知らないのだろう。
そうか、とだけ返事し、俺はチラシを受け取った。
「また今度行く。今はちょっと手持ちがない」
悪いな、と簡単に謝って、程近くにあった焼き鳥屋で晩飯を済ませた。
それから数日。
母に強引に連れられ、俺は役場でアルファ認定書をもらうことになった。いい迷惑だ、とぶつくさ言う俺に、母はそのたびバシっと太ももを叩いてきた。
会社にもちゃんと申請するんだよ!と口酸っぱく言われまくったが、役場で認定書を貰った以上、会社に言わないと給料が上がらないわけだから、来年の納税時にひぃひぃ言うことになる。言われなくても申請するわと文句を言い、この際だからもう勢いに任せて全部アルファ認定の申請を出しまくった。
本当の本当にいい迷惑。
どうせアルファになるなら……、この普通の面構えもイケメンに作り替えてくれたらいいのにな。
その夜、また俺はふらりと飯を食いに繁華街へと繰り出した。
そしてまた声をかけられた。
「おに~いさん。どっすか、女の子、可愛いの揃ってますよ」
見たことのあるチラシ。ちらりとキャッチの男の子を見ると、偶然にもこの前と同じ子だ。
「あー……、給料日前なんで、また今度」
そう言ってチラシだけ受け取り逃げようと思った。
だけどその子はてけてけと俺について来て、「まぁまぁそう言わずに、一杯だけ。ね? うちの店、良心的なんで他より安いですよ」なんてホントか嘘か分からない落とし文句を使ってくる。
「いや、いいってば。今日はそんな気分じゃないんだよ」
「またまた~。お兄さんいい給料もらってんでしょ?」
そう言ってぐいぐい肘で押してくる。
「いい給料?」
「アルファでしょ?」
びっくりした。生まれて初めて言われた。
「…………ベータだ」
とっさについた嘘は、自分がアルファだということを認めたくなかっただけだ。きっと、普通の人なら喜ぶのだろう。ベータがアルファになったと、母のように天にも昇る気分なのかもしれない。
だけど俺はそうじゃない。ずーっとベータで居たかった。別に人間の価値なんて上げようとは思わないし、世間の期待を背負ってアルファをするくらいなら、何の期待もされずに平均的な生活を送れるベータが絶対に楽でいいじゃないか。そうだろう?
チャラい男はベータだという俺を無表情のままじっと見つめてくるから、「お前はなんだ」と聞き返した。すると少しの沈黙の末、「ベータです」と返事した。
「同じベータ。楽でいいよな?」
言うと男は口元を吊り上げ、「そうですね」と返事すると、それ以上は追いかけて来なかった。
アルファなんて、俺にはあまりに手持ち無沙汰だ。
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