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第一章:記憶
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「土田さん」
突然名前を呼ばれ、ぱっと頭を上げた。
「チャペル終わりました。でも次に行く前に少し外を拝見させて貰ってもよろしいですか?」
俺より頭半分背の高い華頂さんを見上げ、俺は営業スマイルで頷いた。
「もちろんです。外と言うのは、ウエディングベルのあるガーデンのことですよね。どうぞ、ご案内いたします」
チャペルを出て、すぐ隣の階段を上がる。
ここにももちろん花を特別に飾り付けることが出来るが、ここの装飾はうちの式場でお願いしたいと火口さん達より、言われている。
ウエディングベルガーデンは、ガーデンというだけあって、季節の花を花壇に直植えして育てている。今は三月。アザレア、ガーベラ、キンセンカ……、色とりどりの花が綺麗に咲いてくれている。
「綺麗だな。空気もいい。花も綺麗だ」
「先生。ここは依頼されてないんじゃないでしたか?」
一番若そうな森井さんが心配そうにそう尋ねると、華頂さんはにっこり笑って頷いた。
「うん、頼まれてないよ。だけど、全部をちゃんと知っておかなきゃね。どういうところで特別な晴れの日を過ごされるのか。じゃなきゃ、いい物は出来ないでしょ。山本さんと火口さんのことを一番に考えないとね」
そう言うと、ウエディングベルの下まで駆け出し、華頂さんは叫んだ。
「いいなぁ! 最高だなぁ! ロケーションも言うことなしだ! みんなもおいでよ! 庭の手入れが完璧だぞ!」
地上を見下ろし、敷地内の花壇や低木、植木などを皆でお喋りしながら褒めちぎってくれる。俺が手入れしているわけじゃないけど、なんだか少し誇らしく思える。
でも……。
ちらりと腕時計を確認する。時間内にすべて終わるだろうか。俺だってそんなに暇ではないのだ。一時間もしないうちに、別のご夫妻との打ち合わせが入っている。そのための資料だってまだプリントアウト出来ていない。最悪、披露宴会場へ案内するだけ案内して、後は放置だな。帰る時に声だけ掛けてもらうようにしようか。
「すみません、土田さん、お待たせしました。とても素晴らしい式場ですね。俺も結婚する時はこちらの式場をお借りしようかな」
そんなことを言って無邪気に笑うから、後ろに控えている女性たちがぎょっと目を見開く。
「先生! ご結婚されるんですか!?」
「いつの間に彼女を!?」
おやまぁ。
思わず目を丸くする俺に、華頂さんはクスクス笑い、満更でもない顔をしながら「うるさいな、ほっといてくれ」と肩を竦めると、俺の両肩を掴んで回れ右させた。
「じゃあ、次の案内を頼むよ、土田さん」
そう言って、掴んだ肩を離して叩こうとした華頂さんなんだろうけど、触れられた部分が急にカッと強烈な熱を持ったように感じられて、その瞬間、華頂さんも驚いたように俺から手を離した。
熱は、彼も感じたようだった。
驚いて二人で顔を見合わせ、俺は肩を、彼は自分の手の平を触ったけど、炎のような熱はもうどちらにも残っていないようだった。
「え……っ、今」
「静電気かな」
華頂さんは首を傾げてそう呟くと、「びっくりしたね」と笑って俺の背中にそっと手を添えた。
「じゃ、行こう」
背中に添えられた手は、もう熱くはなかった。
果たして本当に静電気だったのだろうか。燃えるような熱さだった。電気のような痛みでは……なかったのだけど。
突然名前を呼ばれ、ぱっと頭を上げた。
「チャペル終わりました。でも次に行く前に少し外を拝見させて貰ってもよろしいですか?」
俺より頭半分背の高い華頂さんを見上げ、俺は営業スマイルで頷いた。
「もちろんです。外と言うのは、ウエディングベルのあるガーデンのことですよね。どうぞ、ご案内いたします」
チャペルを出て、すぐ隣の階段を上がる。
ここにももちろん花を特別に飾り付けることが出来るが、ここの装飾はうちの式場でお願いしたいと火口さん達より、言われている。
ウエディングベルガーデンは、ガーデンというだけあって、季節の花を花壇に直植えして育てている。今は三月。アザレア、ガーベラ、キンセンカ……、色とりどりの花が綺麗に咲いてくれている。
「綺麗だな。空気もいい。花も綺麗だ」
「先生。ここは依頼されてないんじゃないでしたか?」
一番若そうな森井さんが心配そうにそう尋ねると、華頂さんはにっこり笑って頷いた。
「うん、頼まれてないよ。だけど、全部をちゃんと知っておかなきゃね。どういうところで特別な晴れの日を過ごされるのか。じゃなきゃ、いい物は出来ないでしょ。山本さんと火口さんのことを一番に考えないとね」
そう言うと、ウエディングベルの下まで駆け出し、華頂さんは叫んだ。
「いいなぁ! 最高だなぁ! ロケーションも言うことなしだ! みんなもおいでよ! 庭の手入れが完璧だぞ!」
地上を見下ろし、敷地内の花壇や低木、植木などを皆でお喋りしながら褒めちぎってくれる。俺が手入れしているわけじゃないけど、なんだか少し誇らしく思える。
でも……。
ちらりと腕時計を確認する。時間内にすべて終わるだろうか。俺だってそんなに暇ではないのだ。一時間もしないうちに、別のご夫妻との打ち合わせが入っている。そのための資料だってまだプリントアウト出来ていない。最悪、披露宴会場へ案内するだけ案内して、後は放置だな。帰る時に声だけ掛けてもらうようにしようか。
「すみません、土田さん、お待たせしました。とても素晴らしい式場ですね。俺も結婚する時はこちらの式場をお借りしようかな」
そんなことを言って無邪気に笑うから、後ろに控えている女性たちがぎょっと目を見開く。
「先生! ご結婚されるんですか!?」
「いつの間に彼女を!?」
おやまぁ。
思わず目を丸くする俺に、華頂さんはクスクス笑い、満更でもない顔をしながら「うるさいな、ほっといてくれ」と肩を竦めると、俺の両肩を掴んで回れ右させた。
「じゃあ、次の案内を頼むよ、土田さん」
そう言って、掴んだ肩を離して叩こうとした華頂さんなんだろうけど、触れられた部分が急にカッと強烈な熱を持ったように感じられて、その瞬間、華頂さんも驚いたように俺から手を離した。
熱は、彼も感じたようだった。
驚いて二人で顔を見合わせ、俺は肩を、彼は自分の手の平を触ったけど、炎のような熱はもうどちらにも残っていないようだった。
「え……っ、今」
「静電気かな」
華頂さんは首を傾げてそう呟くと、「びっくりしたね」と笑って俺の背中にそっと手を添えた。
「じゃ、行こう」
背中に添えられた手は、もう熱くはなかった。
果たして本当に静電気だったのだろうか。燃えるような熱さだった。電気のような痛みでは……なかったのだけど。
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