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第二章:約束

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 華頂さんとランチを終え、式場の駐車場で彼を見送った。花壇の横のペチュニアを見つめてから事務所へと戻る。
 俺は、気分ぶち上げアイテムが手に入った気分で、午後からの仕事は精が出た。もちろん、夢の記憶を思い出したからということもあるが、残念ながら気分が上がっても現実までは変わっちゃくれない。やらなきゃいけない仕事量はそのままだし、夢の中の女性だって現れてはくれない。それでも、気分が良かったのだ。資料作成の続きと、契約者さんとの電話確認。他の部署との綿密な打ち合わせ。時間はあっという間に過ぎてゆく。

 バタバタと一日を終え、とっぷりと更けた夜、俺は花壇横のプランターを抱えて車に乗り込んだ。

「かわいい花を貰ったな。毎日ちゃんとお世話しよう」

 家の小さなベランダにプランターをセットすると、猫田さんを撫でる弟が、「兄ちゃん花とか好きだったか?」と訝しがった。

「違うんだ。これ、華頂さんから貰ったんだよ」
「かちょ……えっ! 華頂茜!?」
「そうそう」

 頷く俺に「いつの間に仲良くなったんだよ!」と驚いた。

「いや、仲良くなったわけじゃないんだけど、ちょっと色々あってね。そのお礼、みたいな」
「へぇ! どうだった? 面白いおっさんだろ?」
「はは、そうだな。確かに面白い人だったよ」
「そらな~! 言ったろ! あの人絶対いい人だぜ!」

 本当にそうだと思うよ。

 作り置きしてくれている夕ご飯を一人温め、弟が見ているテレビを食卓から一緒に見る。
 今日は、肉じゃが。弟は俺より料理が上手い。おかげで本当に助かっている。今年一年で弟との共同生活も終わる。無事に仕事が見つかれば、あっけなく弟はこの部屋を出ていくのだろう。今からそれが、少しばかり寂しい。

 テレビでは、クローバーの話をしていた。踏まれれば踏まれるだけ葉っぱの数が増える、なんて話をしているのを、弟は「常識だろ~」なんてアイスクリームを食べながら言っている。

『なんと! わたくしこの度この街に、クローバーの声が聞こえると言う男の子が住んでいるとの情報を聞きつけ、はるばるやって参りました!』

 だけど、話題がそんな謎展開になって行くと、弟は真剣にテレビにかじりつき、クローバーの声を聞く男の子の密着取材に一生懸命になった。

 俺はそれを(弟も含め)面白おかしく見ながら、そういえば今日、華頂さんが「シロツメクサ」の話をしていたな、と思い出した。確かその時、俺は何かを見て、驚いて転倒したんだけど……、何を見たんだったかな。やっぱりどうしても思い出せない。

 首を傾げながら、携帯電話で「シロツメクサ」を検索する。

 すると、そこには「花言葉:約束」と言う文字が見えて、自然とそのページをクリックしていた。

 シロツメクサの花言葉は「約束」の他にも、「復讐」と、「私を思って・思い出して」というものがあった。
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