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第三章:目印

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 今回、親族の貸衣装は、新郎側のご両親だけと窺っている。俺は慌ててホールからゲスト入場口へと急いだ。そして何食わぬ顔してお出迎えする。

「山本様、お待ちしておりました。本日は誠におめでとうございます。お日柄にも恵まれ、お二人が最高の晴れの日を迎えられましたこと、我々一同も嬉しく存じます。わたくし、今日一日、真一様と麻希様のエスコートをさせていただきます、土田蒼夜と申します。どうぞよろしくお願いいたします。ではご案内いたします。どうぞ、こちらへ」

 俺はご両親を貸衣装ルームへと案内し、その後すぐに新郎の控室をノックした。
 中から返事が聞こえ扉を開けると、ばっちり準備の整っている新郎が俺の顔を見てほっと安心したように笑った。

「ご両親が到着されました」
「あぁ、そうですか! 良かった。実家からここまでは遠いから、時間に間に合うかヒヤヒヤしていたんだ!」
「大丈夫でしたよ。真一さんも緊張されているでしょう。何か飲み物でも準備致します。何を飲まれますか?」
「あぁ、いいんですか? じゃあ、アイスコーヒーを。すみません! もう心臓が出てきそうなくらい緊張しているんですよ!」
「はは、大丈夫ですよ。僕がエスコートしますので、安心してください。堂々と、カッコよく居て下さい」
「心強いよ! 本当にありがとう!」

 俺は一旦控室から出てコーヒーを入れると、それを新郎の元へと届けた。

「新婦様のご両親がご到着次第、挙式のリハーサルを開始する予定です。今のところ、タイムスケジュール通り進んでおりますので、ご安心ください。また呼びに参ります」

 新郎はこくこくと何度も頷き、かなり緊張しているようだ。奥さんがしっかりしている分、プレッシャーも大きいのだろう。新郎に恥をかかせないよう、細心の注意を払わなきゃいけない。失敗は死んでも許されないぞ。

 俺は控室から出てインカムの位置を直しながら大きく深呼吸する。

「顔合わせ会場、撮影スタジオ、準備如何ですか」
『顔合わせ会場、準備終了しております』
『撮影スタジオ、現在ライティング調整中です。間もなく完了します』
「了解。ご苦労様です」

 インカムでのやり取りを終え、すぐにチャペルへ向かおうとした時、廊下の先で華頂さんが俺を見つめて立っていることに気付いた。

「華頂さん!」
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