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第四章:愛
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リビングの百合を見つめ、俺はネクタイを締め上げた。
「……ねむ」
欠伸をしたのち、大きなため息を吐き出す。
こんなこと言ってはいけないが、全然やる気が出ない。昨日の大きな案件を片したあとの今日は、満身創痍がすぎる。
いつもならアドレナリンが出たままちゃんとスイッチが入るのだが、今日はダメだ。昨夜泣き過ぎた。頭が痛い。
泣いて、泣いて、泣き疲れて寝たけど、なんだか分かった気がしたんだ。
俺は、この百合のブーケみたいなあの幼馴染の女の子のことが好きで、好きで、守りたかった。足は残念ながら動かないけど、それでも俺が彼女を守っていくんだという覚悟を、幼い頃から持っていた気がする。
けど……俺は彼女を置いて、死んだ。きっと
死因は分からない。正直、知りたくもない。万が一思い出してしまえば、俺が俺じゃいられないような気がするんだ。
だから、どうか華頂さんが俺の死因を覚えていないことを祈るよ。
「華頂……茜」
えらく、大きくなったもんだ。
夢で見た少女は細く、小さく、くるくると軽やかに踊っていた可憐な子だったのに。
「同一人物とは思えないな」
乾いた笑いが漏れ、俺は鞄の中から名刺入れを取り出して、華頂さんのものを探し出した。
年齢も性別も、見た目も声も、夢のあの子とは全然違う。だけど、よく喋り、よく笑う姿は言われてみればそのままのような気がするよ。
そうだな……、そう言えば、俺はいつもそういう女性を好きになっていたような気がする。初恋の相手も、片思いを続けた相手も、初めて付き合った女の子だって、元気で良く笑う女の子だった。
そう思って、「え?」と声が出た。
「待てよ。例えばあの子が今の華頂さんなのだとしたら、あの人が人を愛せないのって、好みのタイプが俺……つまり、“男”だからなのか?」
なんだか、すとんと腑に落ちた気がした。
間違って男になんか生まれて来てしまったから、女性を愛せなくて困ってる、ということか?
いやでもそれとこれとは別じゃないかと思うんだけど、そうでもないのだろうか。もしかして今まで男性を好きで、それを隠して生きて来てるとか、そういうことか? だからあの時……、真田さんと腕を組み階段を下りてくる時、あんなに幸せそうに見えたのか?
想像して、ぞっとした。
申し訳ないけど、俺は女性が好きだし、華頂さんをそういう意味で好きだとは今の所まったく全然思っていない。
俺はぶんぶん首を振り、持っていた名刺をもう一度名刺ケースに仕舞った。
「もう行こう。考えるのは帰ってからだ」
ベランダのペチュニアに水を上げてから、俺は家を出た。
「……ねむ」
欠伸をしたのち、大きなため息を吐き出す。
こんなこと言ってはいけないが、全然やる気が出ない。昨日の大きな案件を片したあとの今日は、満身創痍がすぎる。
いつもならアドレナリンが出たままちゃんとスイッチが入るのだが、今日はダメだ。昨夜泣き過ぎた。頭が痛い。
泣いて、泣いて、泣き疲れて寝たけど、なんだか分かった気がしたんだ。
俺は、この百合のブーケみたいなあの幼馴染の女の子のことが好きで、好きで、守りたかった。足は残念ながら動かないけど、それでも俺が彼女を守っていくんだという覚悟を、幼い頃から持っていた気がする。
けど……俺は彼女を置いて、死んだ。きっと
死因は分からない。正直、知りたくもない。万が一思い出してしまえば、俺が俺じゃいられないような気がするんだ。
だから、どうか華頂さんが俺の死因を覚えていないことを祈るよ。
「華頂……茜」
えらく、大きくなったもんだ。
夢で見た少女は細く、小さく、くるくると軽やかに踊っていた可憐な子だったのに。
「同一人物とは思えないな」
乾いた笑いが漏れ、俺は鞄の中から名刺入れを取り出して、華頂さんのものを探し出した。
年齢も性別も、見た目も声も、夢のあの子とは全然違う。だけど、よく喋り、よく笑う姿は言われてみればそのままのような気がするよ。
そうだな……、そう言えば、俺はいつもそういう女性を好きになっていたような気がする。初恋の相手も、片思いを続けた相手も、初めて付き合った女の子だって、元気で良く笑う女の子だった。
そう思って、「え?」と声が出た。
「待てよ。例えばあの子が今の華頂さんなのだとしたら、あの人が人を愛せないのって、好みのタイプが俺……つまり、“男”だからなのか?」
なんだか、すとんと腑に落ちた気がした。
間違って男になんか生まれて来てしまったから、女性を愛せなくて困ってる、ということか?
いやでもそれとこれとは別じゃないかと思うんだけど、そうでもないのだろうか。もしかして今まで男性を好きで、それを隠して生きて来てるとか、そういうことか? だからあの時……、真田さんと腕を組み階段を下りてくる時、あんなに幸せそうに見えたのか?
想像して、ぞっとした。
申し訳ないけど、俺は女性が好きだし、華頂さんをそういう意味で好きだとは今の所まったく全然思っていない。
俺はぶんぶん首を振り、持っていた名刺をもう一度名刺ケースに仕舞った。
「もう行こう。考えるのは帰ってからだ」
ベランダのペチュニアに水を上げてから、俺は家を出た。
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