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なけなしザッハトルテ3
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だから、思わず名を呼んでこっちに意識を引っ張り戻すと、彼ははっとして携帯の画面を操作し始めた。
「あ、ごめんなさい」
「なぁ、士浪~。俺もいいだろ~。職場のおじさんと交換した後でいいからさぁ。なぁなぁ、士浪~」
邪魔するかっちゃんの隙間から俺にそう声を掛けるミクだったが、「おじさん」という言葉に木崎さんはどうやらむっとしたようだった。
LINEの画面を開いたままピタっと動きを止めると、その視線をゆっくりとミクへ移す。そして、かっちゃんを挟んでバチっと火花が散った。
え、嘘。そういう挑発に乗っちゃう系なの、木崎さん!?
「ちょちょちょ! 木崎さん! 木崎さんは ”おじさん” じゃないよ、大丈夫だから!」
慌てて彼を宥めようとしたのだが、木崎さんはにっこりとミクへ微笑み、俺の肩にそっと触れた。
「気が変わりました。明智さん。今夜もうちに来ませんか? 朝が苦手でしょう? 私が起こしてさしあげます」
「え!?」
「明日はバレンタインですし、私、明智さんのザッハトルテが食べたいです。私のために作ってくださいませんか」
そんなことを言う彼に、攻防を繰り返していたミクとかっちゃんの動きが止まり、かっちゃんに至っては目を丸めて木崎さんを振り返った。
「私が貴方を酔わせるカクテルを作りますよ。今夜はうちで飲みましょう。いいでしょう?」
優しい笑顔がとんでもない悪魔の微笑みに見えたのは言うまでもない。
「いや、でも貴方、今、家……っ」
思わずそう口にした俺の唇に木崎さんはそっと人差し指を当てた。
「だったら、明智さんの家は、いかがですか?」
唇に当てられた指の熱が……、電流みたいに体中を巡って、俺は不覚にも……赤面してしまった。
「ちょ、士浪ちゃ……」
かっちゃんが、赤面して絶句してしまう俺に驚いてこちらに手を伸ばしてきたが、猛烈にときめいてしまった自分を絶対に悟られたくなくて、俺は木崎さんの腕を掴んだ。
「分かった! 今夜はうちにしよう! 行こう! こいつらと居るとイライラするんだよ!」
そう言って二人に背を向けると、木崎さんはニコニコ微笑み、後ろの二人に最後の捨て台詞をお見舞いした。
「では、私が頂いて帰ります。失礼」
俺がそんな木崎さんに、ほんと……、ほんとめちゃくちゃ赤面してること、絶対後ろの二人に見られたくない!
なんだ、これ! 木崎さん、本気出すとまじで……っ、大人カッコ良すぎるんだけどもっ!
どれだけ二人、横に並んで歩いただろう。
そっと後ろを振り返り、ミクもかっちゃんも後をつけてきていないことを確認すると、俺は、自分でも情けないと思えるほどの震えたため息を吐いた。
そんな俺を軽く覗きこみ、木崎さんは困ったように眉を下げた。
「……良かったでしょうか? あの対応で」
「え?」
驚いて彼を見上げる。
「いや、何か……あまり良い雰囲気ではないような気がして、思わず連れ帰るような真似をしてしまいましたが……、本当はどちらかと……?」
続きの言葉が予想できなくて、俺も眉を寄せると、彼は苦笑した。
「いや……、その、ラブホテルの前でしたでしょう?」
分かってたのか、あの場所がラブホ前だってこと……っ! この人鈍そうだから全然気付いてないかと思ってた!
「あ、ごめんなさい」
「なぁ、士浪~。俺もいいだろ~。職場のおじさんと交換した後でいいからさぁ。なぁなぁ、士浪~」
邪魔するかっちゃんの隙間から俺にそう声を掛けるミクだったが、「おじさん」という言葉に木崎さんはどうやらむっとしたようだった。
LINEの画面を開いたままピタっと動きを止めると、その視線をゆっくりとミクへ移す。そして、かっちゃんを挟んでバチっと火花が散った。
え、嘘。そういう挑発に乗っちゃう系なの、木崎さん!?
「ちょちょちょ! 木崎さん! 木崎さんは ”おじさん” じゃないよ、大丈夫だから!」
慌てて彼を宥めようとしたのだが、木崎さんはにっこりとミクへ微笑み、俺の肩にそっと触れた。
「気が変わりました。明智さん。今夜もうちに来ませんか? 朝が苦手でしょう? 私が起こしてさしあげます」
「え!?」
「明日はバレンタインですし、私、明智さんのザッハトルテが食べたいです。私のために作ってくださいませんか」
そんなことを言う彼に、攻防を繰り返していたミクとかっちゃんの動きが止まり、かっちゃんに至っては目を丸めて木崎さんを振り返った。
「私が貴方を酔わせるカクテルを作りますよ。今夜はうちで飲みましょう。いいでしょう?」
優しい笑顔がとんでもない悪魔の微笑みに見えたのは言うまでもない。
「いや、でも貴方、今、家……っ」
思わずそう口にした俺の唇に木崎さんはそっと人差し指を当てた。
「だったら、明智さんの家は、いかがですか?」
唇に当てられた指の熱が……、電流みたいに体中を巡って、俺は不覚にも……赤面してしまった。
「ちょ、士浪ちゃ……」
かっちゃんが、赤面して絶句してしまう俺に驚いてこちらに手を伸ばしてきたが、猛烈にときめいてしまった自分を絶対に悟られたくなくて、俺は木崎さんの腕を掴んだ。
「分かった! 今夜はうちにしよう! 行こう! こいつらと居るとイライラするんだよ!」
そう言って二人に背を向けると、木崎さんはニコニコ微笑み、後ろの二人に最後の捨て台詞をお見舞いした。
「では、私が頂いて帰ります。失礼」
俺がそんな木崎さんに、ほんと……、ほんとめちゃくちゃ赤面してること、絶対後ろの二人に見られたくない!
なんだ、これ! 木崎さん、本気出すとまじで……っ、大人カッコ良すぎるんだけどもっ!
どれだけ二人、横に並んで歩いただろう。
そっと後ろを振り返り、ミクもかっちゃんも後をつけてきていないことを確認すると、俺は、自分でも情けないと思えるほどの震えたため息を吐いた。
そんな俺を軽く覗きこみ、木崎さんは困ったように眉を下げた。
「……良かったでしょうか? あの対応で」
「え?」
驚いて彼を見上げる。
「いや、何か……あまり良い雰囲気ではないような気がして、思わず連れ帰るような真似をしてしまいましたが……、本当はどちらかと……?」
続きの言葉が予想できなくて、俺も眉を寄せると、彼は苦笑した。
「いや……、その、ラブホテルの前でしたでしょう?」
分かってたのか、あの場所がラブホ前だってこと……っ! この人鈍そうだから全然気付いてないかと思ってた!
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