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なけなしザッハトルテ6

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「お前、俺と別れたあと……誰と付き合ってたんだ?」

 聞き間違いかと思うほど、突拍子もない質問を投げかけられた。

 誰と……、付き合ってたか……だって?

 はっきりと意味が分からなかった。
 どういうことだ? どういう……意味だ?

由利ゆりと妙に仲良かったよな。高杉んちにもよく泊まりに行ってただろ? 修也なんか……お前のこと俺に相談してきたよ。士浪が可愛く見えるのは、おかしいことかなって……、俺が元カレとも知らずに……相談してきたんだよ」

 そんなこと……。
 待ってくれ、何の話をしてるんだ?

「知らねぇよ……、そんなの」

 修也に告白なんてされてないし、由利と高杉とはただ仲が良かっただけで、そういう目で見てない。
 なんだよ……何が言いたいんだ?

「じゃあ……槇原か? 体育の時間……見たよ、俺。お前が槇原の膝枕で寝そべってるとこ」

 覚えてねぇよ、そんなの!

「なんなんだよ! 何が言いたいんだよ! 例えば誰かと付き合ってたとして、でもそんなのお前には関係ないだろ!」

 どんっと胸を突いて距離を作るが、楓は俺をまっすぐ見つめたままゆっくりと首を振った。

「そんなことない。関係ないことない」

 関係ない……だろ? ないに決まってるだろ? だってお前……っ!

「俺、士浪の事好きだったよ。なのにお前言ったよな? 『好きでもない男と無理やり付き合わせてごめん』って。なぁそれ……、どういう意味だよ?」

 どういう……。いや、そのまんまじゃないかよ。お前はノンケで、姿をくらました笹森への罪悪感で……俺と一緒に居たんだろ? 罪滅ぼしのように、俺を愛して、無理して付き合ってくれてたんだろ?

「そんなことないって、俺言ったよな? 好きだって、愛してるって、俺言ったよな?」

 い……、言ったけど……、聞いたけどさ。

「なぁ……、本当は別の男を好きになったんだろ? 俺に何が足りなかった? 本当は誰と付き合ってたんだ? 頼む……教えてくれないか」

 待って……、ちょっと待って。落ち着け俺。
 乱れそうになる息をゆっくり吸って、吐き出して……目の前の楓を睨みつける。

「誰とも付き合ってない」

 きっぱりと言い切った。
 だけど俺のその返答は、楓の気持ちを逆撫でしただけだった。

「嘘言うなよ!」

 狭いトイレ前の通路に声が響いた。

「俺に見せつけてたんだろ!? 俺がまだ……、まだお前の事好きなの知ってて! 見せつけてたんだろ!?」

 ちがっ! なんでそうなるんだよ!

 そんなつもりはない! だけどそれ以上に俺の思考回路をぶった切ったのは、別れた後の俺をそういう目で見ていた楓の「好き」という気持ちだ。

 好き……、俺を? いや……好きってお前……。
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