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熱帯夜

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 夏休みに入ってから太一の知名度は徐々に上がって来ていた。エッグバトルで取り上げられたり、たまご気分にも登場したりで、その実力の高さを着実に売り込んでいる。
 夏休み直前に収録したたまご気分からこっち、太一はレギュラーのように毎週収録に参加していた。もちろんそうなってくると、他のエッグも黙ってはいない。太一の頭角をへし折ってやろうとする輩も当然のように出てくるわけで。

 ちなみにあの収録から志藤の頭の中は常にぐるぐると目まぐるしく渦巻いていた。もちろんそれは佐久間と菊池のせいだ。

 志藤は、「太一には何人なんぴとたりとも近づかせない!」と意気込む一方、男をそういう対象に見ているのが誰とも分かっていない状態だ。それすなわち、予防のしようがないということ。かと言って手当たり次第排除というわけにもいかない。

 だが、そんな中。
 先週のたまご気分の収録後、志藤はついに見てしまったのだ。佐久間と菊池以外の怪しい人物を。

 たまご気分が収録されるテレビ局は、四階がゲストフロアとなっていて、出演者達の楽屋がずらりと並ぶ。そのため、他のフロアより綺麗にリフォームされている。これが一階違うだけで、壁紙の色も廊下の色も違い、蛍光灯もケチっていたりして、印象はガラっと変わる。もちろんトイレだってリフォームされており美しい。

 だがその日、ゲストフロアのトイレが混んでいた。
 順番を待とうかと思ったのだが、腹が痛いこともあり、志藤は近くの非常階段を駆け下り、一階下のトイレに駆け込んだ。暗い印象のトイレの中で志藤は考えた。男同士の恋愛ってどんな感じなのだろうと。

 正直、未知だった。

 幼い頃から志藤の友人と言えばその殆どが女の子で、男友達というのは本当に数える程しかいなかった。当たり前のように恋愛対象は女の子でそれを疑ったこともなかったのだ。
 ただ、性同一性と言われる人がいることを知ったのはここ最近で、彼らを擁護する声が高まり始めたのも本当にここ最近の話であった。だから同性愛というのは、そういうことなのだとばかり思い込んでいた。疑いもしなかった。

 業界内にはオネェといわれる人も大勢いて、共演したこともあったため、同性愛に偏見があるわけではなかったが、同性を好きな人はオネェになるのだと信じて疑わなかったのもまた事実。
 だというのに、男の中の男だと思っていた佐久間大介の衝撃発言により、志藤の中の同性愛像が正に音を立てて崩れ落ちた。

 綺麗な顔をした年上の菊池と、男らしい年下の佐久間。例えば二人が付き合っていたとしたら、つまりどっちがどっちだ……なんて、否が応でも想像してしまった。

 佐久間と菊池の年齢差は二つ。体格だって菊池の方がいい。だからといって佐久間が……?と、単純な脳みそで単純な結論を出す志藤は、大慌てで首を振った。

「まままま、待て! そ、それはない!」
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