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決勝戦開幕!

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 隣の楽屋ではBLACK CATに呼び出しがかかり、二人はスパンコールのあしらわれた派手めのジャケットを羽織ると、手品に必要な小道具を手に持った。

「ついに来たね」

 物腰の柔らかい猫居の声がふんわりと黒野へ掛けられると、黒野はトランプを手にしたまま深く深呼吸した。

「あぁ、ついにきた」
「緊張してる?」

 シルクハットを手にしながら、猫居は黒野を覗き込んだ。
 日本人離れした端正な顔は「どれどれ、どんな顔をしてるんだい?」と少し面白がっているような無邪気な瞳で、黒野はバシッとその顔に掌を押し付けた。

「緊張してるのは、マジックが失敗したらどうしようってことくらいだ。勝つのは俺たち。残念ながらビビってねぇ」

 猫居は顔面を黒野の手で覆われながら、ふふっと小さく笑った。

「そう。なら安心した」

 そう言って黒野の手を退けると、優しくその手を握った。

「ねぇ、トラ。俺負けたくないよ」

 その言葉は、少しばかり猫居らしくなかった。こいつでもそんなことを思うのか、と黒野は目を丸くしたが、続けられた言葉に思わず笑ってしまう。

「だって負けたら、もうトラと一緒にユニット組めないかもしれない」

 グループ編成は社長の独断だ。
 現在事務所からデビューしているグループは三組。内一組は既に解散している。今後どのような形でグループが生まれていくか、誰も知らない。このチャンスを逃せば、二度と同じグループとして活動させてもらえないかもしれない。そればっかりは、エッグも社員たちですらもよく分かっていなかった。

「お前、そんな心配してんのか? バカだな」

 黒野は握られた手をそっと握り返すと、自信に満ちた顔で口角を吊りあげた。

「まず負けない。負けたとしても、俺が他のヤツと組むと思う?」

 このエッグバトルのおかげでかなり売名出来た。例えば二人が引き離されるなら、黒野は迷わず他事務所に自分達を売り込みにいくだろう。それくらい二人は、一緒にいることに固執していた。

「ずっと一緒?」
「黒猫がいきなり白猫になったりしねぇだろ」

 黒野の返答に猫居はクスクス笑うと、心の底から安心し、急速に心が穏やかになっていくのを感じた。

「よし。じゃ頑張ろう」

 かざした手にパチンっと手を合わせる猫居に黒野は優しく微笑んだ。

「俺のパートナーはお前だけだ。信じてる、レオ」
「俺もだよ……、トラ」

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