上 下
9 / 58
過去:お昼ご飯と、チームメイト

しおりを挟む
「違う! 直人の冗談に騙されるなよ!」

 だけど、同じクラスの梶本はピンと来たらしい。

「あ、もしかして野田か?」

 言い当てられて天を仰ぐ。

「何アレ、言い寄られてたのか、お前? 可愛い男引き連れてんな~とは思ってたんだけど」
「やめろ、その言い方。そんなんじゃないって言ってんだろ」
「なんで? 可愛いじゃ~ん」

 完全にバカにしてやがる。

「そうか! 梶、同じクラスか! 野田くん可愛いよね~!」

 直人と二人で揶揄いモード全開だ。
 だけど、そんな俺たちの後ろ。

「あれですか? その可愛い子ちゃんって」

 そう言って小泉が廊下を指さすから、俺たちはばっと廊下に視線を送った。
 そこには、弁当を持ってじっとこちらを見ている野田がいた。ついてきたのかよ……っ!

「おー、お前かぁ? 柄沢に付き纏ってる可愛い子ちゃん!」

 ダメだってば……っ! ここにいるやつら、揃いも揃って全員なんだから!

「来いよ!」
「おいで!」
「一緒に飯食おう!」

 こうなるだろぉぉぉ……っ。

 不安そうにこちらを見ていた野田の顔にぱっと笑顔が咲いて、飛び跳ねるように音楽室に入ってくると、「やっぱり!」って笑った。

「柄沢くんの友達、みんないい人!」

 その言葉は、学校内で『柄が悪い』と言われ続けているこの面子にとって、救いのような言葉だったのかもしれない。
 ほとんどのメンバーが、一瞬で落とされた。

「良い人だって! 分かってんな、チビ!」
「そう、俺らめっちゃいい人!」
「ちっとも怖くないぜ?」
「あはは! 嘘言うな! それはこえ~わ!」

 皆、嬉しそうだった。
 野田が仲間だと皆から認められるのには、さほど時間を要さなかった。一緒に昼食を摂る日数が増え、岩ちゃんも紹介し、中学生のミツにも会わせた。
 これが俺のチームだと紹介するのに、一か月もかからなかったように思う。俺は正直、嫌だったんだ。喧嘩も出来ないようなやつをチームに置いとくなんて怖くて出来なかった。それにバイクにすら乗らないんだ。そんなやつを仲間にしてどうしろっていうんだよ……。

 だけど皆は違ってた。

 いいやつじゃんって。面白い男だって。バイクくらい俺の後ろに乗せてやるって皆そう言った。気乗りしなかったのは、俺だけ……。

「僕、喧嘩は出来ないけど、みんなの怪我の手当てをするよ! 救護班ね!」

 そう言って救急箱を頭の上に乗せた優臣は「任せて!」と顔いっぱいに笑った。
 この時の笑顔が忘れられない。
 優臣は、底抜けに前向きで、元気な男だった。


しおりを挟む

処理中です...