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過去:恋
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この関係は崩れなかった。俺が崩そうとしなかった。崩す勇気なんてなかった……。喧嘩から逃げるのと同じように、優臣の気持ちからも逃げる。自分が優臣に惚れてしまうかもしれないと思うたびに、ただ全力で……逃げるしか出来なかったんだ。
それでもその年の三月。
俺と、優臣の誕生日。俺は20日、優臣は10日。
誕生日が近いことが優臣は嬉しかったみたいで、3月15日に二人だけで誕生日会をしようと言ってきた。今度は皆を誘うのをやめた。
優臣の家に上がらせてもらって、二人きりで誕生日プレゼントを交換する。
優臣は俺に鞄と帽子を買ってくれて、俺は優臣に財布を買った。長財布。優臣は嬉しそうに「僕らの出会いも、長財布だったね」なんて笑い出す。「僕も鉄板仕込もうかな」って冗談を言って、すごく、本当にすごく幸せそうだった。
一緒にケーキを食べて、一緒にバイクの雑誌を見て、一緒にゲームをして、優臣は俺の右肩に凭れかかって、幸せだと囁いた。
俺は迷って……心底迷って……、「今日だけだぞ」って手を繋いだ。
ドキドキして……おかしくなりそうだった。女と手を繋いだって、こんなにドキドキしない。ここまで緊張しない。
なのに、優臣相手に、俺は恥ずかしいほど、緊張した。
「好きだよ……柄沢くん……。本当に好き……」
そう言って、何度も、何度も、好きだと言われ、理性を保つことが、これ以上は無理だと思った。
感覚が麻痺していく。
優臣が好きだと思った。俺は男なのに、男の優臣とキスしたいと思った。男の優臣を……抱きたいと思った。
「……臣……っ」
俺の肩に寄りかかる優臣を押し倒して、キスを……しようとして……。
だけど結局、キスはできなかった。唇が触れるか触れないかの時、部屋のドアがノックされたから。
ばっと優臣から離れた瞬間、ドアが開き、おばさんがにっこりと顔を覗かせた。
「もう22時過ぎてるわよ? 今日はお泊りするの? 柄沢くん」
尋ねられ、咄嗟に首を振った。
「かっ、帰ります! すみません、遅くまで!」
唇がほんの一瞬……触れたような感覚が……あったような気はした。だけど、気のせいだと言われたら、そうだったような気もする。
動転しながら、自分の上着と鞄と、貰ったプレゼントを引っ掴み、慌てて立ち上がった。
「か、帰る! また明日な、臣」
上体を起こした優臣は、唇に手を当てながら、「うん」って小さく頷いて……。
部屋を出ていく俺を追って、急いで立ち上がった。
玄関先で、「また明日ね」といつもの笑顔で手を振る優臣。ドキドキと心臓は跳ね上がったまま、俺は「うん」とだけ頷き、ヘルメットで顔を隠した。優臣を好きだっていうこの顔を……それ以上見せられなかった。
自分の心臓を、気持ちを、焦りを、必死に抑えようとアクセルを握り込む。だけど、その手は少し震えて……。
運転しながら、優臣が好きだってどうしようもない感情がこぼれてこぼれて……。人を好きになるってこんなに苦しいのかって初めて知った。女を切らしたことのない俺が、今更こんなことを知るなんて、情けなくて……。
だけど、これが本当の恋なら、俺はもっと……もっと優臣を大事にしたいと思った。
それでもその年の三月。
俺と、優臣の誕生日。俺は20日、優臣は10日。
誕生日が近いことが優臣は嬉しかったみたいで、3月15日に二人だけで誕生日会をしようと言ってきた。今度は皆を誘うのをやめた。
優臣の家に上がらせてもらって、二人きりで誕生日プレゼントを交換する。
優臣は俺に鞄と帽子を買ってくれて、俺は優臣に財布を買った。長財布。優臣は嬉しそうに「僕らの出会いも、長財布だったね」なんて笑い出す。「僕も鉄板仕込もうかな」って冗談を言って、すごく、本当にすごく幸せそうだった。
一緒にケーキを食べて、一緒にバイクの雑誌を見て、一緒にゲームをして、優臣は俺の右肩に凭れかかって、幸せだと囁いた。
俺は迷って……心底迷って……、「今日だけだぞ」って手を繋いだ。
ドキドキして……おかしくなりそうだった。女と手を繋いだって、こんなにドキドキしない。ここまで緊張しない。
なのに、優臣相手に、俺は恥ずかしいほど、緊張した。
「好きだよ……柄沢くん……。本当に好き……」
そう言って、何度も、何度も、好きだと言われ、理性を保つことが、これ以上は無理だと思った。
感覚が麻痺していく。
優臣が好きだと思った。俺は男なのに、男の優臣とキスしたいと思った。男の優臣を……抱きたいと思った。
「……臣……っ」
俺の肩に寄りかかる優臣を押し倒して、キスを……しようとして……。
だけど結局、キスはできなかった。唇が触れるか触れないかの時、部屋のドアがノックされたから。
ばっと優臣から離れた瞬間、ドアが開き、おばさんがにっこりと顔を覗かせた。
「もう22時過ぎてるわよ? 今日はお泊りするの? 柄沢くん」
尋ねられ、咄嗟に首を振った。
「かっ、帰ります! すみません、遅くまで!」
唇がほんの一瞬……触れたような感覚が……あったような気はした。だけど、気のせいだと言われたら、そうだったような気もする。
動転しながら、自分の上着と鞄と、貰ったプレゼントを引っ掴み、慌てて立ち上がった。
「か、帰る! また明日な、臣」
上体を起こした優臣は、唇に手を当てながら、「うん」って小さく頷いて……。
部屋を出ていく俺を追って、急いで立ち上がった。
玄関先で、「また明日ね」といつもの笑顔で手を振る優臣。ドキドキと心臓は跳ね上がったまま、俺は「うん」とだけ頷き、ヘルメットで顔を隠した。優臣を好きだっていうこの顔を……それ以上見せられなかった。
自分の心臓を、気持ちを、焦りを、必死に抑えようとアクセルを握り込む。だけど、その手は少し震えて……。
運転しながら、優臣が好きだってどうしようもない感情がこぼれてこぼれて……。人を好きになるってこんなに苦しいのかって初めて知った。女を切らしたことのない俺が、今更こんなことを知るなんて、情けなくて……。
だけど、これが本当の恋なら、俺はもっと……もっと優臣を大事にしたいと思った。
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