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過去:手料理

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 高校三年生になった。
 中学生だったミツがうちの学校に無事入学。頭が悪いから、うちに合格できないかもしれないと散々言っていたが、小泉のスパルタ教育のおかげで、なんとか入学できたらしい。みんなおめでとうと喜んだが、当人はここからが地獄の始まりっすよ、と三年で卒業できるかどうかを早くも心配していた。
 みんな「小泉がいるから大丈夫だ」と言っていたけど、ミツ的にはもう小泉からのスパルタ教育から逃げたいご様子だった。

 春。
 優臣は俺の右側。左には直人。いつもの三人。優臣を、意識している高校最後の一年が始まる。

「臣もそろそろバイクの免許取ったらどうだ?」

 直人がそう言ったのは四月。

「そうなんだよ。親にも言ってるんだけどさ~。バイクの免許取るなら、車の免許にしなさいって言うんだよ」
「俺だってそりゃ車も取るけどさ。あ、そうだ。俺、狙ってる車あんだよな~」

 そう言って直人が中古車情報誌を鞄から取り出す。
 いつもの光景だ。

「そういや土井くん結局何の車買ったんだっけ?」
「土井くんはインプレッサ! 迷った末にインプレッサにしたらしい」
「あの人色んな車に目移りしすぎだったけど、ついにスバルに固めたわけだね」
「はは! 結果そうなったな!」

 笑い合う二人のその奥。窓の外に見える桜並木は満開だった。

「俺だけクラス別れたな」

 同じ学年には六人の仲間がいるけど、俺だけ一人だ。直人と優臣は同じクラスになった。

「柄沢くんと離れたのめっちゃ寂しい!」

 優臣がそう言って眉を下げたが、そんな優臣を直人がひしっと抱きしめる。

「俺っちと一緒じゃん! 喜べよ~!」
「いや、もちろん嬉しいけどさ~! どうせなら柄沢くんも一緒が良かったな」
「それはそうだけどさ。なんせこいつ、友達作るの下手そうだからな」
「下手くねぇわ!」

 言ったけど、得意でもない。それは事実だ。

 チャイムが鳴り、俺は二人と別れて自分のクラスへと戻った。
 先月までクラスに居た梶本も優臣も、もう居ない。クラスメイトはやはりまだ俺を遠巻きに見るだけ。馴染めるかどうかは分からないけど、もう慣れている。気にはならない。

 早く学校が終わって、早く優臣と一緒に下校したかった。
 優臣から昨夜メールが来たんだ。

『明日一緒に、二人で下校デートしよう』と。

 ドキドキしている。バカみたいに……浮かれている。
 始業式。学校は午前中で終わる。一緒に昼飯を食いに行こう。どこに行こうか。優臣は何が食べたいかな。

 この春休みの間に、俺は女関係を綺麗にした。
 今俺に特定の女は居ない。このことを、俺は直人にすら言っていない。優臣が好きだから、女を全部切ったなんて……到底言えることではなかった。

 バカだと思う。心底、自分に呆れている。だけど、今俺は……すごく満たされている気がしたんだ。
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