その裏側に。。。

メルメル

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1日 : SUBと知った日

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僕はずっと、自分はノーマルだと思っていた――だけど、手にしたこの診断結果は、僕の穏やかな日常を、一変させた。

この世界には、性別とは「第二の性」がある。
支配したいという欲求を持つ「DOM」、支配されたいと望む「SUB」、その両方の性質を持つ「Switch」、そしてどちらの性質も持たない最も多い「Normal」。

僕は伊崎奏(いさきかなで)。僕には特別な才能があるわけでもないし、顔がいいわけでもない。ただの一般人だ。両親もNormalだった。だから、僕も当然Normalなんだと思い込んでいた。

さっきの衝撃で眼鏡がちょっとななめてしまったから、地味なメガネをぐいっと押し上げた。さっき先生に渡された紙には、信じがたいことが書かれていた。
ショックだったけれど、子供みたいに取り乱したり、泣いたりしても意味がない。これから自分がどう対応するのか、一番大事なのだ。

分厚いレンズのメガネに、骨の浮いた細い体。無口で目を合わせるのも苦手な僕のことを、近所のおばさんも、両親も、みんな心配しているらしい。

「学校でいじめられてないかい?」と、まるで決まり文句のように聞かれるけれど、そんなの、自分が一番よくわかってる。

見た目からして、いじめられ候補の筆頭だ。入学してすぐ、やっぱりそうなった。靴を隠されるのは序の口で、買い物を頼まれ、掃除当番を全部押しつけられた。

「それくらいなら我慢できる」と思った。耐えれば、そのうち終わると信じてた。

だけどある日、授業から戻ると、自分の机の上が妙に空っぽだった。教科書が、ない。あたりを探すと、教室の隅、ゴミ箱の中に、破かれたページがバラバラと詰め込まれていた。

その瞬間、頭の奥で何かがプツンと切れた。

僕は、本が好きだ。誰とも話さずに、本の中に潜る時間が、何よりの救いだった。あの紙の匂い。インクの滲んだページ。静かな活字。

それを、汚された。

気がついたら、拳を握っていた。誰かの顔にそれを叩きつけていた。
クラスは静まり返り、先生も、誰も何も言わなかった。

で、その結果は。。。

バタン

教室の扉を開けると、目に飛び込んできたのは、金髪、ピアス、着崩した制服――いわゆる「校則違反」のオンパレードだった。

ここは名門校で、進学実績も全国トップクラス。成績優秀で真面目な生徒が集まるはずの場所だ。

でも、どんなに立派な学校にも、必ず「例外」はいる。黒い羊。見なかったことにされる生徒たち。学校側は、そいつらを排除も指導もせず、ただー隔離する。

この教室は、そんな「隔離」のために用意された場所だ。
校舎の5階、他の教室から少し離れた位置にぽつんと置かれている。一般の生徒が立ち入ることは禁止されており、通路のドアは常時ロックされている。

唯一の出入口は、校舎の端にある非常口。ただそれだけ。

そして、ここにいるのが今の僕だ。

あの事件のせいで、僕はここに追いやられた。

たぶん、あいつらの仕業だと思う。あいつらの親は、学校側とずいぶん深くつながっているらしい。でも、一番不思議だったのは――この教室にいるのは、みんな不良のはずなのに、いじめられることはなかった。

ただ、無視された。誰からも関わられなかった。

それぞれが自分のペースで過ごしていて、誰かとしゃべることも、遊ぶことも、ほとんどない。だからこそ、正直に言えば――ここは、すごく楽だった。

一番の問題は、このクラス、自由時間が異常に多いことだ。でもまあ、無理もないのかもしれない。先生たちも、この教室にはできるだけ関わりたくないのだろう

自分の席につき、勉強を始めようとしたその時だった。ふいに、机の前に影が差した。

顔を上げると、そこには無愛想な顔つきで、鋭い目をした男子が立っていた。
――確か、石川って名前だったはず。でも、今まで一度も話したことなんてないのに。なんで、急に……?

「おい」

低い声でそう言われ、身構える。

「さっき、職員室に呼ばれてただろ? なんの用だったんだ?」

突然の質問に、戸惑う。なんでそんなことを聞かれるのか分からない。
けれど、手にしていた第二性の診断結果の通知を思わず見せてしまった。

「えっと……第二性の結果を、伝えられたってだけで――」

その瞬間、教室中の視線が一斉にこちらに向けられた。え? なに? なんで、みんな見てくるの?

「……こんなもん、簡単に人に見せるな!」

石川が突然、声を荒げた。びっくりして、思わずうなずく。けれど、正直、なぜ怒られているのか分からない。

今の時代、第二性がSubだったって、そんなに珍しいことじゃない。確かに面倒はあるけど……それが彼になんの関係があるっていうんだ?

「お前、今すぐ帰れ⋯」

「は?」

先の言葉でちょっとショックを受けて、意味がわからない。戸惑いながら周りの視線を感じた。帰れっていう視線。これもしかして、いじめ⋯ もうないと思ったのに⋯

教室内は、鉛筆の音すら聞こえそうなほど静まり返っていた。その静けさを破るように——

Trrrrrr...

石川のズボンのポケットから、場違いな着信音が鳴り響いた。

みんなの視線が一斉にそちらへ向かう中、石川は慌てて携帯を取り出した。画面を見た瞬間、その顔から血の気が引いていくのがはっきり分かった。

「……はい。わかりました。」

彼の声は思ったより低く、張り詰めていた。電話を切ると、こちらを鋭く睨んだ。何かをこらえるように唇をきつく閉じ、深く息を吐いた。

「……好きにしろ。」

低く投げ捨てるようにそう言って、自分の席に戻っていった。

一体、何が起こったんだ——?

わけが分からない。けれど、少なくとも怒鳴られたり、殴られたりはしていない。いじめでもなさそうだ。

ちらりと周りを見ても、誰も僕の方には目を向けていなかった。教室はまた元の静けさを取り戻し、まるで何もなかったかのように時間が流れている。

…なんなんだよ。

そう思いながらも、僕は机に視線を落とし、問題集を開いた。
とりあえず、勉強でもしておこう。
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