怠惰な召喚術師は最強を飼っている~ファンタジー化した現代で膨大な魔力と召喚スキルを与えられた少年の生きる道~

すー

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第1章~捕らわれた少女と召喚術師~

第1話:召喚術師とホームシック

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『この世界にダンジョンが現れて十五年が――』

『そして人々もスキルという超常の能力に目覚め――』

『その力は社会の発展に貢献すべきであり――』

 テレビから延々と流れる退屈な音を聞きながら、少年――山本空亡はため息を吐いた。

「帰りたい」

 普通に暮らしていた空亡が突如、大人たちに連れられこの収容所にやってきてすでに四年の月日が流れていた。

 真っ白な部屋にベッドと机、壁に取り付けられたモニター、そしてトイレしかない部屋から空亡は出ることを許されていない。

――まるで監禁だ

 常々そう感じるが、実際そうなのだろう。

 この収容所に集められた少年少女は強力過ぎるスキルや、魔力量が多すぎる子供が自身の力をコントロールし、安全に生活することをサポートする目的があるらしい。

 空亡は後者、異常な魔力量のためここに収容された。

 訓練を行い毎週行われるテストをクリアするまで、家に帰ることはおろか親と通話することすら許されない。 そんな状況でまだ少年の空亡がホームシックになるのは当然だった。

「出してよ……帰りたいよ……お母さん、お父さん……もう嫌だ!! 誰かっ助けて!! お願いだからここから出して!!!」

 空亡の感情の高ぶりに呼応して、魔力が漏れだした。

 そして空気がぱきぱきと音を立て、急激に部屋の温度が低下していく――魔力による未熟な魔法の現象化は暴走する前段階であり、もしもここが外の世界だったら周囲の人間は危険な状態となる。

「くっそまた暴走だ!!! もう嫌だ!!」

 自分の魔力による現象であるが、空亡自身の体も寒さに震えていた。

 このままでは死んでしまうが、自分の意思で即座に魔力を止められるほど空亡の魔力操作はまだまだ未熟だ。 止めることは出来ないが、しかし魔力を集約することはできる。

 空亡は全ての魔力をまとめて自身のスキルに注ぎ込んだ。

「来い、シェイプスター、サキュバス、スライム、ククルカン」

 四つの魔方陣が輝き、そこからモンスターが現れた――空亡のスキルは異界よりモンスターを召喚する、召喚術であった。

「相変わらずバカみたいな魔力だなァ、おい」

 真っ黒な人型――シェイプスターが呆れたように呟き、

「ごきげんよう空亡様。 いきなり文句なんて良くないと思います、挨拶もしないし」

 丈の長い学生服を着た三つ編みの少女――サキュバスがシェイプスターをたしなめた。

「いいんだサキュバス。 特に用事もないしね」
「また戦闘じゃねえのかよ……帰っていいか?」
「ダメですよ。 魔力をいただいた分、きっちりお仕事しないと! そもそもシェイプスターって戦闘向きな能力ではなかったように思いますけど……」
「本来ならな! だけどこいつのバカみたいな魔力を注がれたらどんな雑魚だって怪物だろうよ……まあ本人はイマイチ分かってねえみたいだが」

 ここでの生活は洗脳教育と訓練だけだ。 もしも空亡のスキルが召喚術でなければ、彼は誰とも話すことなく、いつ帰れるかも分からないまま毎日勉強と訓練をするだけの生活になっていたことだろう。

 その点においては自身のスキルが召喚術で良かったと空亡は心から思っていた。

「そんじゃあどうすんだよ。 とりあえずこの息苦しいとこ脱出するか?」
「いや、そんなことしたらダメだよ」

 シェイプスターはこの部屋や、モニターで流れる映像が嫌いらしく毎度空亡をそそのかしていた。 空亡だって出られるなら出たいが、それが出来ないからここにいるのである。

「それは何度も試して失敗したでしょう? ここの壁は攻撃を吸収してしまうから壊せないという結論だったはずです」
「そうそう、往生際が悪いよシェイプスター」
「さすが良い子ちゃんたちは諦めがよいこって」

 シェイプスターは拗ねたのか空亡のベッドで横になり、頭から布団を被った。

「こら! そこは空亡様の寝床――」
「別に減るもんじゃねえんだからいいだろうが」

 布団をはぎ取ろうとするサキュバスと抵抗するシェイプスターがわちゃわちゃしている様子を見ていると、

「楽しそう。 私も混ぜて」

 白髪の少女が突如現れた。

「こんにちは、イデア」
「こんにちは、空亡。 今日もあそぼ」
「うん、いいよ」

 少女――イデアは空亡が召喚したモンスターではない。 かといって扉から入ってきたわけでもない。 彼女はいつもどこからともなくいやってきて、しばらく空亡と話したり遊んで、そしてまた消えていく不思議な存在であった。

「ねえ、また外のことお話して」

 イデアと初めて会った時、空亡はあまりの寂しさに自分の脳が生み出した脳内フレンドかと疑った。 しかしそうではないらしい。 彼女は触れれば暖かいし、彼女は外の世界日本のことを全く知らない――とはいえ外人でもないらしい――ので、おそらく物心つく前からここに収容された子なのだろうと空亡は予想していた。

「そうだな、今日は七月七日か……日本では七夕の日って言われていてね、みんなで笹にお願い事を書くイベントがあるんだ。 そして夜、空にはたくさんの星が河みたいに輝くんだ」
「すごい、私もやりたい! 見てみたい!」
「いや、無理だよ。 笹もないし、ここからは空も見えないしね」
「むう」

 無表情なやつかと思いきや、イデアは表情豊かだ。
 不満そうに膨らんだ頬をつついて、空亡は笑った。 彼にとってイデアは妹のような存在になりつつあった。 彼女と過ごす時間は彼の癒しとなっていたのだ。

「じゃあここに書いて飾ろうか」
「うん!!」

 ノートの切れ端を渡すとイデアは幼子のように嬉しそうに頷いた。
 彼女の年齢は不明だが、見た目は十代前半から中盤に見える。 空亡が聞いても首を傾げるばかりで答えてくれなかったのだ。

 彼女には可笑しな点がいくつもあった。

 髪が白いことも、年齢を答えられないことも、出身地を知らないことも、空亡の部屋を出入りしていることも――しかしそんな些細なこと彼にはどうでも良かった。 ただイデアと過ごすこの時間が大切だった。

『早く外に出られますように』

『からなとほしをみる』

 こんな些細な平穏はずっと続くのだと、空亡は疑いもなく思い込んでいた。

 しかし、

「来ない」

 次の日も。

「今日も来ない」

 次の日も、そのまた次の日もイデアは空亡の前に現れなかった。

「さすがに可笑しいだろう……何かあったのかな?」

 空亡は嫌な予感がしたが、だからと言って出来ることもない。 そもそも彼女はどうしてここに来れていたのか、何者なのか、今更ながらしつこく聞いておくべきであったと空亡は後悔した。

「で、どう思う?」
「丸投げかよ、おい」
「そうですね……風邪を引いて寝込んでいるのでは?」

 空亡は相談相手としてシェイプスターとサキュバスを召喚した。

「いやいやもしかしたら何かされてんじゃねえか? ここの連中に」
「憶測で空亡様の不安をあおるのはやめてください」
「どうにかならないかな?」
「俺らはモンスターであって神じゃねえんだがなぁ」

 シェイプスターはそう言いつつも悪い笑みを浮かべた。

「だけどよ、一つ思いついたことがある。 乗ってみるか?」

 僕は一も二もなく頷くと、シェイプスターはくるりと回って、半透明の浮遊体に姿を変えた。

「レイス……?」
「おう、じゃあ行ってくるわ」

 シェイプスターはそう言って扉の向こうへ消えていった。







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