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第1章~捕らわれた少女と召喚術師~
第5話:田舎町とこれからのこと
しおりを挟む「起きたか?」
いつ間にか眠ってしまった空亡は喉の渇きで目を覚ました。
「あれ……ここどこ?」
窓の外は田畑ばかりの田舎風景が広がっていた。
「ああ、僕の実家に向かってる」
「実家?!」
「どこか隠れ家にでも行くかと思った? 残念! そんなもの持てるほど研究者の給料は良くないんでね」
「いやいや、そこじゃなくて」
空亡は脱出した後、それぞれの身の振り方をどうするのか話し合うとばかり思っていた。 収容所から距離を取れることはありがたいが、実家なんて親御さんに迷惑がかかるのではという点は心配である。
「まーまー、一回家に帰りたかたかもしれないけど我慢してよ。 ほとぼりが冷めるまで、しばらく身を隠しておくのが無難だと思うからさ」
「それはありがたいんですけど……イデアはともかくどうして僕も連れて行ってくれるんですか?」
「子供を守るのは大人の責務だからね」
「その割に僕を盾にしてましたけど」
「おっと、そこを突かれると痛いね。 なら助けてくれたお礼とでも思っておいてよ」
会話が途切れ、空亡は色々聞きたいこと、確認したいことはあったが今は逃げることに専念すべきと判断したのか大人しくして――
「あれ、なに?」
「あれは?」
「あれは?」
――いるつもりが、外に興味津々のイデアの質問に忙しく答えることとなった。
とはいえ空亡も収容所に十歳の頃に入ったので、知らないことも多いため分からない場合は男――言葉《ことのは》万《よろず》が説明してくれる。
そんな道中、車は山道へ入っていき古めかしい旅館のような建物の前で停まった。
「ここが言葉さんの家なんですか?」
「いや、ここは近所の旅館だよ」
「はあ」
「ご飯がめちゃくちゃ美味しくてさ。 ぜひ食べてほしくてね」
門構えに反して小綺麗な内装に空亡が驚いていると、奥から出てきた浴衣を着た妙齢の女性が言葉を見て目を見開いた。
「マンくん? 言葉《ことのは》万《よろず》くんよね?! 久しぶりじゃなーい! 帰ってきてたんね! おかえりなさい!」
「はは、久しぶり女将さん」
元気な女将さんに苦笑いしつつ嬉しそうな万が引き気味に答えると、彼女は空亡とイデアを見て息を呑んだ。
「まさかあんた……」
「僕の子じゃないからね? しばらく預かることになってさ。 こっちはイデア、そんでこっちは――」
「初めまして、僕は山本空亡です。 よろしくお願いします」
「ああ、そうかいびっくりしたよ。 あんたもいい年だから、つい……よく来たね! 何もない土地だけどゆっくりしていってね!」
「僕らご飯食べに来たんだ。 いつものやつ三人前で」
空亡たちはロビーの奥にある食堂で待つことになった。
「さて今のうちに今後について軽く話し合っておこうか」
「まずイデアは本体が目覚めるのを待ちつつ、僕の研究を手伝ってもらいたい。 もちろん強制ではないし、非人道的な扱いはしないと誓うよ」
「そして山本空亡くん、一番の問題は君だ」
イデアは麦茶の注がれたコップの氷で遊んでいるが、空亡は一人気を引き締めた。
何をさせられるのか、さすがに親戚でもなくほぼ初対面なのにタダで家に置いてもらえるとは思っていない。
「まず君の最終目的は何だい?」
「家に帰って普通に暮らしたいです」
「健気だねえ……なら君は魔力操作を訓練しつつ、身を守れるように強くなるべきだ。 君は怪物だから」
――怪物
そう言われて空亡の心は少し痛んだ。
「君の魔力はあまりに強大過ぎるとあの施設で実感できたと思う。 それをコントロールしなければ普通の暮らしは難しいだろう。 そしていつ施設の人間が、はたまた君の能力に目のくらんだ虫が寄ってくるかもしれない。 その時、自分をそして大切な人たちを守れるように強くなっておいた方がいい」
だが万は真剣に考えてくれているからこそ、空亡に自覚させるためにあえて強い言葉を使っているように思えた。
「それに今の世の中、力があれば最悪食うに困らないしね」
彼はそう言って片眼を瞑って見せた。
「っ……はい、頑張ります」
「素直でよろしい。 お、来た来た」
「お待ちどうさま」
「カレーですか……?」
女将さんが運んできたのは特徴のないカレーライスであった。
「食べてみ? やたら美味いから」
万に勧められるままに空亡は一口食べてみる。
「あ、これなつ――」
――懐かしい、そう言おうとして言葉に詰まった。
美味さの感動はなかった。
ただ優しくて、どこか懐かしい、過去の記憶を想起させるような不思議な味だ。
「大丈夫」
「へ?」
空亡の頬を撫でるイデアの瞳に映った少年は迷子のように寂し気に涙を流していた。
「大丈夫、大丈夫。 もう大丈夫だからね」
「うん……うん」
(僕はずっと不安だった。 怖くて寂しくて……守るはずだったのに、僕の方がイデアに救われてどうすんだよ)
人前で泣いてしまった羞恥やら、無力感、そして両親との日々をおぼろげに思い出した寂しさがごちゃまぜになって訳の分からない感情になりつつ涙となって流れていった。
「な、美味いだろ?」
そう言われて顔を上げると、万もがつがつとカレーを食べながら涙を流していた。
「えぇ……」
「引くなよ! 大人だって泣くことくらいあるの!」
これが泣けるカレーという名物料理であり、ただの料理ではなくスキルによって作られた魔法的な食物であると空亡は後で聞かされるのであった。
ここは知る人ぞ知る、魔法料理の出る不思議な旅館である。
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