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第2章~怠惰な召喚術師と夢見る少女~

第29話:召喚術師は観戦する

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『さて始まりました! 現代最強は俺だ! 勇者竜輝を打倒し、新たな英雄は誕生するのでしょうか!!?』

 会場は世にも珍しい殺し合いに限りなく近い戦いが見れるとあって大満員である。

『さて勇者の登場です!!』

――うぉぉぉぉぉぉ

「すげー、盛り上がりだな」

 スマホと繋いだテレビから上がった歓声に、ピザを頬張りながらシェイプスターが呟いた。

「何がそんなに面白いんだか……木霊の番は結構後ろの方だな、はあ」
「まあ好きな奴は好きなんだろうよ。 お前は退屈だろうに、律義にリアタイしないで後で切り抜きでも見りゃいいのに」
「……あいつあれから何もしてなこなかった。 それがなんだか気持ち悪くてさ」
「ああ、そゆことね」

『一人目の挑戦者の登場です。 彼は○○、冒険者ランクは――』

 軽く挑戦者の紹介があって、一日限りの大会なせいか進行は巻きだ。

 そして勇者はやはり相当強い。 挑戦者は足元にも及ばず、まさに瞬殺されていった。

『まさに一瞬の攻防! 目で追うのがやっとで――』

 そして二人目、三人目、四人目と、挑戦者が撃破されていく。

「お、出たぞ」

『続いてはなんと高校生の挑戦者です!』

「はは、死ぬんじゃねえか?」

 冗談にしてもなかなか質が悪い。

「まあ一応死人は出ないよう配慮はされてるみたい?」

 大会には審判が適当なところで止めてくれるし、回復系スキルの持ち主も控えているようだ。 加えて、致命傷を一度だけ肩代わりしてくれるアイテムの貸し出しもあるらしい。

 さすがに大丈夫だろう、とは思いつつ手に力が入る。

『さあ、戦闘開始です! 今回は何秒耐えられるでしょうか?!』

 解説は勇者の圧勝続きで、もはやよく分からない解説になってしまっていた。

 誰も木霊に期待していない。
 誰もが勇者の勝利を疑っていない。

『おおっと、どうやら勇者がカメラを呼んでいるみたいですね……なんでしょうか?』

『試合中に少しコマーシャル。 さてまだまだ大会は終わらない。 この瞬間も飛び込み参加絶賛募集中だ。 ところで次の挑戦者――蛇使いの子が遅れているらしくてね。 このままでは失格になってしまうからね、君が来るまで少し待つことにするよ』

『さすが勇者様、お優しい! では改めて戦闘開始!!』

 何を言っているのか誰にも分からない、僕意外には。
 僕はもちろん参加登録していない。 蛇使いが僕を指しているだなんて自意識過剰だろうか。

 この悪寒が勘違いであれば、思い違いであれば良いがそうでなければーー

『うおおおおおおおお』

 木霊は気合の入った雄たけびを上げて、勇者に正面から突っ込んでいった。

『ヒヒッ』

 狂ったような笑い声と共に木霊が弾けとんだ。

『おーっと、またもや瞬殺かー?』

 木霊はよろけながら立ち上がるが、誰が見ても戦闘続行可能なようには見えない。

 しかし審判はどうしてか戦いを止めることはなかった。

『まだまだ』

 今度は勇者の方から容赦なく突っ込んでいく。

 そして一度、二度、三度と、何度も何度も何度も何度も何度も蹴りが拳が致命傷を与えることはない、まるでいたぶるような連打が続く。

 解説も次第になくなり、画面からは鈍い殴打の音だけが響いていた。

「こりゃあひでぇ」


「ああ、そんなに来てほしけりゃ行ってやるよ」


***


 確かにこいつは無尽蔵の魔力をいいことに俺含め、怪物を何体も飼っている。

 しかし俺から見れば一番の怪物は空亡本人なのだ。

(あーあ、一番ヤバイ奴を怒らせちまって……こわや、こわや)

「行ってくる」
「……殺しなら俺がヤろうか?」
「すぐに殺そうとするなよ……こっちじゃ殺しは色々と障りがある」
「なら何をしに行くってんだ?」
「助けに行く……ついでにーー

ーーあのニヤケ面に一発入れてくる」


***


「急いでください」
「武道大会の会場な……お客さん飛び込みで参加するつもりかい?」
「ええまあ」

 タクシーが行く。
 運転手がラジオのチャンネルを捻ると、大会の実況が聞こえてきた。

「やめた方がいいと思うけどね。 どう考えても勇者とかいうのは狂人だ。 それに出場には基準があるみたいでね……悪いが君みたいな弱そうな子供は関わるべきじゃない……ひぃっ」

 運転手はミラー越しに僕の顔を見て短い悲鳴を上げた。

「飛ばしてください」
「はいいい!!!」

 それから車内は無言となり、会場に到着すると、タクシーは逃げるように去って行った。

「飛び込みかい?」
「はい」

 受付をしようとすると、試験があるらしい。
 そもそも受付の職員は俺のような未成年が出場しようとするのが面白くないらしく「どうせ無理だから」「帰りなさい」と繰り返した。

「この機械ですか?」

 魔力を測る装置なのだろう、握力を測る時に使うようなその道具に俺は魔力を軽く流した。

「待ちなさい! 何を勝手に――」

 腰を抜かした職員に手を差し伸べることなく、俺は舞台へと急いだ。

「ば、化け物だ……」

 






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