9 / 20
~1章~逃げ遅れた商人と異世界マーケットと
第9話:成長/第二の安全地帯
しおりを挟む「じゃあ店番頼んだ」
「はい、いってらっしゃいませ」
再び露店を開くが、今回はマルトエスに任せて蟹男は買い物をすることにした。
前回の感じだと呼び込みなんてしなくても商品は飛ぶように売れるし、ミクロを休ませてやれれば十分だ。
宿屋があれば良かったのだが、女子を一人で置いておけるような安全なスペースはマーケットにはないようだった。
「さて、買い物と言っても特に目当てのものがあるわけでもないんだよなあ」
しいていうならミクロの戦闘をサポートできるような蟹男自身用の魔道具くらいだろうか。
そう思いつつも、面白そうな店を見つける度に蟹男はふらふらと覗いていく。
「これなんだろ……?」
とある店の商品を手にとって蟹男は思わず首を傾げた。 どうみてもガラクタにしか見えない商品ばかりが並んでいるその店は明らかに周囲から浮いていて、近寄る人さえいない。
「きみ! お目が高いね! それは世紀の発明家オニキスによる作品さ!」
「へえ、これが……?」
寝起きといった様子の身なりをした小汚ない店主は蟹男に力説した。
「ちなみにあなたのお名前は?」
「私は世紀の発明家オニキス・アパさ!」
「……そうですか。 では」
蟹男はなんとなく彼がオニキス本人であると察していた。 そういう類いの変わった人種の空気がビンビンなのだ。
これ以上ここにいては面倒なことになると判断した蟹男は、退散を試みるが遅かった。
「待ちたまえ」
「……っ」
痩せた見た目からは想像できない怪力で蟹男は腕を捕まれてしまった。
「せっかくだから私が直々に商品を紹介しようじゃないか」
「あ、いえ結構で」
「まずはこの発明からだ!」
蟹男は周囲に助けを求めて視線を向けるが、通行人はみなわざとらしく顔を背けた。
(ああ、なんでこんな目に)
蟹男は己の好奇心を呪いつつ、オニキスの話を長々と聞かされるのだった。
「買ってしまった」
蟹男はオニキスの発明品を眺めながらため息を吐いた。
『これは擬似的に世界を造り出せる、神になれる発明なんだ! そんな物を造り出した私は天才だと思わないかね? ちなみにこれの構想はーー』
『あの買います……買うんでもう勘弁してください……』
逃げたい一心で買ってしまったが、値段を聞いて後悔した。
「金貨四十枚って……四百万だぞ」
見た目はなんの変哲もない古びた鍵にしか見えない。 近くで見ると文字がびっしりと彫られている。
「こんなものに四百万……はーあ」
ため息が止まらない蟹男だったが、これに興味を引かれたのも事実だった。
この発明のコンセプトは『小さな世界の神となる』ことである。 オニキスの言っていることが事実なら、世界の素となる魔力次第では大地を創り、海を、空を、生き物さえ創ることができる。
もしも本当に創れるなら、変わってしまった世界でマーケットに続く第二の安全地帯を手に入れることになる。
そうなれば本格的に避難区に向かわなくとも、自分の力だけで、縛られらことなく自由に生きることが可能になるかもしれない。
蟹男は憂鬱になりつつも、少しだけワクワクしていた。
しかしそれには課題も多い。
「さて、商品は捌けてるかな」
ライフラインの構築、食料の製造、人員の確保など越えなければならないハードルはたくさんある。 どれもこれも結局資金がなければ始まらない。
「おかえりなさいませ。 良い物はありましたか?」
「あー、うん」
「なんですか、その微妙な間は」
「まあまあ、そんなことより」
蟹男は自分の店に戻って、驚愕した。
迎えてくれたマルトエスの横に見知らぬ絶世の美少女がいた。
「おかえり、主」
「その声……ミクロ……?」
「?」
こくりと頷かれても信じられない。
さっきまで十歳の子供だったのに、今のミクロは胸も膨らみ、身長も伸びて、僅かに残る幼さと大人の色気が混在した女性になっていた。
「あーと、綺麗になったね」
「そう? ありがと」
「なんだか視線がイヤらしいですね……」
「引くなよ……」
「まあいいと思います。 男なんてそんなもんでしょう」
妹みたいに思っていたミクロをそんな目で見てしまうことを、蟹男自身も罪悪感を感じていた。
けれど仕方ないのだ。 男とはそういうどうしようもない生き物なのだから。
「強くなった……んだよな?」
「うん! 力が溢れてくるの。 早く戦いたい!」
「うん、根っこの性格は変わらないんだ……ところで商品は?」
思い出したように蟹男が尋ねると、マルトエスは肩を竦めてパンパンに膨らんだ袋を差し出した。
「完売御礼です。 大金なのですぐにしまった方がよろしいかと」
「……おお、なんか見たことない色の硬貨が」
「……白金貨です。 時価ですが約金貨百枚の価値があります」
「すっげえ」
大金がぽんぽん入ったり出たりするせいで蟹男は頭が付いていかず単純な感想しか出てこなかった。
「これなら本当に実現するかもな」
想い描いていた妄想が現実味を増してきた。 蟹男は興奮を抑えつつ、マルトエスに発明品の鍵を見せて力説する。
彼女の表情が、先ほどオニキスの話を聞いていた自身と全く同じことに蟹男は気づいていなかった。
10
あなたにおすすめの小説
戦場帰りの俺が隠居しようとしたら、最強の美少女たちに囲まれて逃げ場がなくなった件
さん
ファンタジー
戦場で命を削り、帝国最強部隊を率いた男――ラル。
数々の激戦を生き抜き、任務を終えた彼は、
今は辺境の地に建てられた静かな屋敷で、
わずかな安寧を求めて暮らしている……はずだった。
彼のそばには、かつて命を懸けて彼を支えた、最強の少女たち。
それぞれの立場で戦い、支え、尽くしてきた――ただ、すべてはラルのために。
今では彼の屋敷に集い、仕え、そして溺愛している。
「ラルさまさえいれば、わたくしは他に何もいりませんわ!」
「ラル様…私だけを見ていてください。誰よりも、ずっとずっと……」
「ねぇラル君、その人の名前……まだ覚えてるの?」
「ラル、そんなに気にしなくていいよ!ミアがいるから大丈夫だよねっ!」
命がけの戦場より、ヒロインたちの“甘くて圧が強い愛情”のほうが数倍キケン!?
順番待ちの寝床争奪戦、過去の恋の追及、圧バトル修羅場――
ラルの平穏な日常は、最強で一途な彼女たちに包囲されて崩壊寸前。
これは――
【過去の傷を背負い静かに生きようとする男】と
【彼を神のように慕う最強少女たち】が織りなす、
“甘くて逃げ場のない生活”の物語。
――戦場よりも生き延びるのが難しいのは、愛されすぎる日常だった。
※表紙のキャラはエリスのイメージ画です。
『急所』を突いてドロップ率100%。魔物から奪ったSSRスキルと最強装備で、俺だけが規格外の冒険者になる
仙道
ファンタジー
気がつくと、俺は森の中に立っていた。目の前には実体化した女神がいて、ここがステータスやスキルの存在する異世界だと告げてくる。女神は俺に特典として【鑑定】と、魔物の『ドロップ急所』が見える眼を与えて消えた。 この世界では、魔物は倒した際に稀にアイテムやスキルを落とす。俺の眼には、魔物の体に赤い光の点が見えた。そこを攻撃して倒せば、【鑑定】で表示されたレアアイテムが確実に手に入るのだ。 俺は実験のために、森でオークに襲われているエルフの少女を見つける。オークのドロップリストには『剛力の腕輪(攻撃力+500)』があった。俺はエルフを助けるというよりも、その腕輪が欲しくてオークの急所を剣で貫く。 オークは光となって消え、俺の手には強力な腕輪が残った。 腰を抜かしていたエルフの少女、リーナは俺の圧倒的な一撃と、伝説級の装備を平然と手に入れる姿を見て、俺に同行を申し出る。 俺は効率よく強くなるために、彼女を前衛の盾役として採用した。 こうして、欲しいドロップ品を狙って魔物を狩り続ける、俺の異世界冒険が始まる。
12/23 HOT男性向け1位
ダンジョンに行くことができるようになったが、職業が強すぎた
ひまなひと
ファンタジー
主人公がダンジョンに潜り、ステータスを強化し、強くなることを目指す物語である。
今の所、170話近くあります。
(修正していないものは1600です)
どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~
さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」
あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。
弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。
弟とは凄く仲が良いの!
それはそれはものすごく‥‥‥
「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」
そんな関係のあたしたち。
でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥
「うそっ! お腹が出て来てる!?」
お姉ちゃんの秘密の悩みです。
扱いの悪い勇者パーティを啖呵切って離脱した俺、辺境で美女たちと国を作ったらいつの間にか国もハーレムも大陸最強になっていた。
みにぶた🐽
ファンタジー
いいねありがとうございます!反応あるも励みになります。
勇者パーティから“手柄横取り”でパーティ離脱した俺に残ったのは、地球の本を召喚し、読み終えた物語を魔法として再現できるチートスキル《幻想書庫》だけ。
辺境の獣人少女を助けた俺は、物語魔法で水を引き、結界を張り、知恵と技術で開拓村を発展させていく。やがてエルフや元貴族も加わり、村は多種族共和国へ――そして、旧王国と勇者が再び迫る。
だが俺には『三国志』も『孫子』も『トロイの木馬』もある。折伏し、仲間に変える――物語で世界をひっくり返す成り上がり建国譚、開幕!
最低のEランクと追放されたけど、実はEXランクの無限増殖で最強でした。
みこみこP
ファンタジー
高校2年の夏。
高木華音【男】は夏休みに入る前日のホームルーム中にクラスメイトと共に異世界にある帝国【ゼロムス】に魔王討伐の為に集団転移させれた。
地球人が異世界転移すると必ずDランクからAランクの固有スキルという世界に1人しか持てないレアスキルを授かるのだが、華音だけはEランク・【ムゲン】という存在しない最低ランクの固有スキルを授かったと、帝国により死の森へ捨てられる。
しかし、華音の授かった固有スキルはEXランクの無限増殖という最強のスキルだったが、本人は弱いと思い込み、死の森を生き抜く為に無双する。
学生学園長の悪役貴族に転生したので破滅フラグ回避がてらに好き勝手に学校を魔改造にしまくったら生徒たちから好かれまくった
竜頭蛇
ファンタジー
俺はある日、何の予兆もなくゲームの悪役貴族──マウント・ボンボンに転生した。
やがて主人公に成敗されて死ぬ破滅エンドになることを思い出した俺は破滅を避けるために自分の学園長兼学生という立場をフル活用することを決意する。
それからやりたい放題しつつ、主人公のヘイトを避けているといつ間にかヒロインと学生たちからの好感度が上がり、グレートティーチャーと化していた。
ゲームコインをザクザク現金化。還暦オジ、田舎で世界を攻略中
あ、まん。@田中子樹
ファンタジー
仕事一筋40年。
結婚もせずに会社に尽くしてきた二瓶豆丸。
定年を迎え、静かな余生を求めて山奥へ移住する。
だが、突如世界が“数値化”され、現実がゲームのように変貌。
唯一の趣味だった15年続けた積みゲー「モリモリ」が、 なぜか現実世界とリンクし始める。
化け物が徘徊する世界で出会ったひとりの少女、滝川歩茶。
彼女を守るため、豆丸は“積みゲー”スキルを駆使して立ち上がる。
現金化されるコイン、召喚されるゲームキャラたち、 そして迫りくる謎の敵――。
これは、還暦オジが挑む、〝人生最後の積みゲー〟であり〝世界最後の攻略戦〟である。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる