地方ダンジョンは破綻しています~職業選択ミスって商人になったけど、異世界と交流できる優秀職だったのでファンタジー化した現代も楽勝です~

すー

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第1.5章~それぞれの想いと、新たな道~

第16話~閑話2~マルトエスの選択

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 マルトエス、ミクロの二人と出会って一月経った。

 それはマルトエスとの契約期間が切れるタイミングであり、つまり何か行動しなければマルトエスとはお別れということだ。 もちろん蟹男は契約を更新したいと思っている、出来ることならば。

『彼女は月額契約のみなんですよ』

 召喚屋の店主の言葉を思い出して、蟹男はため息を吐いた。

 召喚獣(奴隷)になる理由も身寄りがなかったり、借金があったり、手っ取り早く大金が欲しかったり、様々だ。 マルトエスがどうしてこのような働き方を選んだのか、蟹男は気になりつつも聞けずにいた。

「聞いたところでなんて言うんだよ。 契約の更新してもいいか……うーん、なんか聞きずらい」

 そもそも事情を聞いたところで、今回の契約の報酬で必要な金さえそろえばマルトエスは、蟹男が契約の更新を申し出ても拒否するだろう。

 普通は奴隷なんて早く足を洗いたいと思うものだ。

 身寄りのないものや、一人で生きていくことが困難な場合は除くけれど。

「どうにかなんないかな……」
「何がお困りですか?」
「ぉわおっ?!」
「驚きすぎです……あの少しお話が」

 大げさに驚く蟹男にマルトエスは言いずらそうに口を開いた。

「……」
「えっと」
「……やっぱりいいです」
「えぇ……?」

 大人なマルトエスが珍しく拗ねた様子だが、蟹男には何が何だか分からなかった。

「なんだよ」
「なんでもありません、大丈夫です」
「言いたいことがあるなら言ってくれよ。 もうなんだから」
「っ……そう、ですね」

 蟹男の言葉に痛みを堪えるように顔を歪ませたマルトエスは、ため息を吐いて目を細めた。

「主様は魔法やモンスターや戦闘技術の前に、まず女心を学んだ方がよろしいかと」
「いやいや、俺そういうのわりと敏感な方だから」
「いえ」
「っひ……」

 マルトエスの鋭い視線に思わず蟹男は悲鳴を上げた。

「勉強してください」
「……」
「分かりましたか?」
「はい……」

 返事を聞いて満足そうに頷いたマルトエスと、対照的に蟹男はどうして自身が責められなくてはならないのかと納得いかない気分だった。 それに今日は彼女と過ごす最後の日だ。 蟹男はどうせお別れするなら、気持ちよくサヨナラしたかった。

「はあ、もう分かったよ。 ちょっと早いけどもう行こうか」
「っ……分かりました」

 もっとそばにいて欲しいと、素直に言えない蟹男。

 何かを言いかけて、言えずにいるマルトエス。

 二人のやり取りをぼんやり眺めていたミクロは、退屈そうに大きなあくびをした。


※※※


「色々ありがとう。 マルトエスのおかげで助かった、本当に」

 召喚屋の店先で蟹男は深く頭を下げた。
 召喚獣と名前を変えても、それに関する人々の認識が奴隷から改まったとは言いがたい。

 マルトエスにとってそれは働き方の一つであって、差別される謂れはないと思っている。

 そう思ってはいてもマルトエスは蟹男の態度に良い意味で驚くと共に、一月ばかり過ごした世界への興味が高まる。

(町はどんな感じなんだろう? 他の人は? 文化は?)

 マルトエスは知ることが好きで、気がついたら講師になっていたような人間だ。 溢れた好奇心や知識欲は止まらない。

 しかしとはいえ自分から契約の更新を申し出る、というのも可笑しいような気恥ずかしいような気がして、言い出せないままここまできてしまった。

(今さら、言ってみる? でも)

 態度には出しているつもりだった。
 むしろ向こうから持ち掛けてくるの待ちでもあった。

(私、あまりお役に立てなかったのかしら)

 マルトエスは不安になっていた。

(いや、そんなことはない。 この人が鈍いだけだろう)

 しかしすぐに思い直して、ため息を吐いた。

 少し過ごしただけで分かるほど、蟹男は女心が分からない男だった。 悪い人ではない、むしろ良い人だろう。 色々気を遣ってくれているのが分かる。

 けれど時には強気な態度でリードしてもらいたかった。

(ああもういい! そんなキャラでもないし!)

「あの!」
「はい!?」

 蟹男の間の抜けたような返事が、マルトエスはなんだか憎たらしく思えた。

ーー契約を更新して欲しい。

 雇用関係の継続をお願いするだけ、何も恥ずべきことなどない簡単な話だ。

 しかしマルトエスはテンパって真っ白になった頭で言った。

「あなたの奴隷にしてください!」
「……え?」
「あ……」

 羞恥で顔を真っ赤にしたマルトエスと、驚きすぎて固まる蟹男。 その様子を店主は微笑ましく見守り、ミクロは雲を眺めながら今日のご飯について考えるのだった。


※※※

 

 

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